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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
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06 ゲームの弊害

 クスンと涙目でへこんでいるおしゃべり眼鏡。

 俺はこいつで実験することにした。


「あの…おしゃ……めが……?」


 あれ? この人の名前、何だっけか?

 営業先で名刺をもらったわけでも、手帳に名前を書いてあるわけでもない。

 そんなんで、長い横文字の名前は俺には覚えられていなかった。


「君、もしかしてセルフィオーネくんのこと、心の中で『おしゃべり眼鏡』とか呼んでる?」


 ギクッ。

 フリオさんの胡散臭い笑顔が深まった。

 俺、あなたのフルネームも覚えてないんですよ、これが。


「セルフィオーネ・エルロンです!! 覚えにくかったらセルフィーって呼んでくださいね!!」


 御本人から愛称呼びまで許されてしまった。

 まぁ、おしゃべり眼鏡が復活したので良しとしよう。

 

「エルロン所長。ちょっと御助力いた…

「私だけ家名呼びぃぃぃっ!!!」


 おしゃべり眼鏡がすごい勢いで入ってきた。


「私だけ他人行儀じゃありませんか!?」


 そりゃ他人だもの。


「それはお会いしてまだそんな時間は経っていません!」


 俺の体感だと1時間ちょっとってとこですね。


「それでも私はあなたの核を作り大きくしてタンクに入れ…それからは毎日あなたと一緒に過ごし、数ヶ月間話しかけたり撫でたり歌ったりし続けたんですよ!?」


 そうは言っても俺の自我が覚醒したのついさっきですもの。


「これはもはや、私はあなたの母と言っても過言ではないのでしょうか!?」


 母?


「……そう思うと息子が反抗期に目覚めた感じで…むず痒いですねぇ。」


 うわぁ。

 周囲の研究員の方々もうわぁって顔してた。

 フリオさんだけはめちゃくちゃ笑ってるけど。


「…ママって…呼んでもいいんですよ?」


 きっつい。本当にきっつい。

 なんか恥じらいながら下を向いてもじもじしている。

 でも、これはチャンスなんじゃないかと思った。

 このままこのおしゃべり眼鏡をなあなあで『契約』の実験に巻き込む。


 そう思うと、頭の中にリバクロでの『契約ウインド』が浮かんだ。

 

 対象者 : セルフィオーネ・エルロン

 内容 : 対象者が被対象者の半径1m以内に入らない


 いや、本名また聞いといてよかった。

 こういうのがあるから、異世界物の基本、現地人に本名は教えてはならないってのがいい教訓になる。

 内容は嫌がらせでトラブった時によくある接見禁止命令みたいなやつだ。

 リバクロ内だと破ると対象者に電撃が落ちる。

 神の一撃とか言われて遊んでたやつもいたけれど、連続10回目で運営からの「ログイン禁止3日間」のアナウンスが来てやめていた。


 書き終わった『契約』を前に、俺は社会人として培った『営業スマイル』を使用。

 おしゃべり眼鏡ににこやかに話しかけた。


「…ママ。」


 顔を上げるおしゃべり眼鏡。

 その眼鏡の奥の目は、感動しているのか知らんが涙で濡れている。


「俺のお願い…聞いてくれる?」

「もちろんよ、だって私はママなんだもの。」


 さっと『契約』発動。

 普通は相手側にもこの契約内容がいって、お互いの承認があって契約はなされる。

 それが、おしゃべり眼鏡が「もちろん」と言ったのが承諾に当たったのか、相手側は即承認。

 俺ももちろん即承認。


「…かわいい坊や!!」


 両手を広げて俺を抱きしめにくるおしゃべり眼鏡。

 契約が有効なのか確かめるチャンスだ。


 ウインドに『契約完了』の文字が出る。

 お馴染みの『契約』専用エフェクト、緑色のキラキラが出た。

 

 ドーンーー

「ギャアアアアアーッッ!!」


 すげぇ、2Dがリアルになるとこんななるんだ。

 じゃあ、みんなが移動していったVR MMORPGもこんな感じなのかなぁ。なんて思っていると、周囲の目が恐れをのせて俺を見ていた。

 

 未知のバケモノ。それも、魔術の使えないはずのヒューマンが電撃を出した。

 言い換えれば、琥珀から復元した恐竜がブレスを吐いた。てなとこだろう。

 


 これ、やばくないか?

 俺、暴れ尽くさないとヤられないか?


 そう頭によぎった瞬間、場に鳴り響いたのは拍手だった。


「素晴らしい!! 素晴らしいよ、セイジさん!!」


 まぁ、ヒューマンに浪漫を求めるフリオさんだ。

 そのまま他の研究員が止めるのも無視して俺に近付いてくる。


「まさに古代の神秘。あの花緑青の光がまた見れるとは!!」


 さすがにその発言には驚いた。

 まさか『契約』エフェクトも見たことがあるなんて。

 まだリバクロには『トレード』のオレンジとか『個別チャット』の赤なんかもある。

 要はMPもSPも消費せずに全種族が使えるやつだ。

 話からプレイヤーがいた頃から生きていたようだが、まさかそんなプレイヤー間の取引まで見ていたとは。

 

「それで…君はセルフィオーネくんと何を『契約』したんだい?」


 わざわざ言った契約は、こちらの手の内をわかっている『契約』だった。

 さすがドラゴニュート。さすが浪漫紳士。


「ただ、俺に1m近付かないってだけです。」


 誤魔化しは悪手だろうとあっさりと教えると、フリオさんは考え込んだ。


「第三者から契約内容は全く見えない。以前見たのと全く一緒か…おもしろいね?」


 浪漫浪漫言ってるだけあって、昔からプレイヤー同士のやり取りをよく見ていたのだろう。


「私が見たのは痴情のもつれ関係だけだったけれど、それ以外にも使える感じ…かな?」


 あー…痴情のもつれ。

 リバクロに結婚システムが入ってから鬼のように増えたやつだ。

 まぁ、ギルド同士の話し合いなんてほぼギルドハウス内で行われるのだからわからないだろう。


「あのヒューマンを囲っている人たちは無口でね。彼らから話しかけられでもしない限り声なんて聞けない。彼らがやっている店だって、ただ品物を指差せば自動的にGが抜かれるって言うんで不思議スポット扱いだったよ。」


 プレイヤー、基本チャットだからなぁ。

 ゲーム内でGを直接見る機会なんてなかったし。

 欲しいもの選んで、手持ちから抜かれるの、そりゃプレイヤーじゃない人から見れば手品がなんかだわ。


 そんな意見あるとも知らず、なんかちょっとおもしろくなった。


「痴情のもつれってよくわかりましたね?」

「それは空気感で丸わかりだよ。それを盗み見てアテレコして楽しんでる者もいたくらいだよ!」


 ドラゴニュート…何してんだろう?

 娯楽がないのかな?


「あとは今回の件についてセルフィオーネくんに話を聞きたいところだけれど…まだ無理そうだね。」


 言われてやっと思い出したセルフィオーネさんに目をやる。

 そうしたら、電撃くらって床で伸びていた。

 その周りを研究員が囲む。


「エルフって…魔術に耐性ないんですか?」


 思わずそう聞くと、フリオさんは苦笑した。


「例の件以降、魔術は回す魔素を著しく失ったエルフはね、どんどん魔術への耐性も失っていったのさ。そもそも高火力の魔術を使うエルフがそもそもいないから、耐性があるかどうかも微妙だけどね。」

「あー…使ってない言葉をどんどん忘れちゃうみたいなもんですか?」

 

 俺、仕事で英語なんて使わないからもう、英文読める気しねぇもん。

 ちなみに話すのは元から無理だ。


「そうだね、古代語なんかはもう喋る人もいないしね。」


 相変わらずチラチラとこちらを見る研究員たち。

 それと比べると、フリオさんは本当、俺への警戒心とか敵対心とかが感じられない。


「でも…さっきのあれは、耐性関係ないと思うよ?」

「いや、俺、受けてる人、獣人の人しか見たことないからちょっとわかんないんですよね。」


 まぁ、その運営からの警告を受けたのは我がギルドの猫獣人μ(ミュー)なわけだけれど。

 獣人はそもそも魔術は使えないけれど、無意識で身体強化する。

 MP使用の更に強い身体強化もあった。

 だからこそのドラゴニュートに次ぐ身体の強さを誇っていた。


「ん、じゃあ基礎体力が違うからわからないねぇ。…本当、セルフィオーネくん、早く起きてくれるとありがたいんだけど。」


 そう言うと、フリオさんは研究員に何か指示を出した。

 頷いた研究員が鍵の掛かった戸棚から何かを取り出す。


 それは懐かしの初級回復薬だった。


「セイジくんは、もちろんあれが何か知っているよね?」


 仰々しく封がされたそれを、研究員がセルフィオーネさんに飲ませる。

 

「あれが鍵のかかった戸棚に入っている意味はわかるかな?」


 セルフィオーネさんの体から青いエフェクトが出る。

 回復のエフェクトだ。

 その青い光を食い入る様に見つめながら、フリオさんは続けた。


「君たちが湯水の様に使っていた回復薬、今や高級品なんだよ。ヒューマンが消えて供給が全くなくなってしまったんだ。」


 町にあったはずのNPCの店。

 そこにはあの回復薬も、中級回復薬も売っていたはずだ。

 薬師や錬金術師の序盤ランク上げに、露店を自ら開いて売ったり、そのNPCの店で大量に売っていた。

 それがつきてしまったということか?



「君は…世界の希望かもしれないんだよ。」

 


 あ、そこは浪漫じゃないんっすね?

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