04 扱いは珍獣
「古代のデータベースがありまして、そこから個別データを抽出。分析に分析を重ねて、鉱石を元にした製作したダミーの核にデータを挿入しダミーの核のデータが塗り替えられたらシャーレの上で培養を開始し、細胞分裂が開始されればそれをタンクに移して大きくなるまで待つ!!」
セルフィオーネ・エルロン所長。
おしゃべり眼鏡エルフ。
やっぱりしっくりくるのは、おしゃべり眼鏡だな。
何を言ってるかわからないし、正直ジュラシックショックで俺の頭は飛んでいる。
リバクロのプレイヤーデータサーバーからそのままデータぶっこぬいて、復元したってことか?
何度も言うが何を言っているかわからない。
「ほら〜、おばあちゃんだから、お話が長いんですよ〜。」
まったりとしたアミナさん。
敵でなければネコ耳お姉さんは癒される。
「魔術が使えなくなったエルフがどうなったか〜、これでなんとなくわかったでしょ〜?」
ものすごいわかった。
無駄に長い寿命を活かし、さっき聞いた他の魔素をどうたらの環境運動してるの、みんなエルフなんだな?
「龍人の皆様は行政をしてくださってて〜、エルフはこんなの。妖精族も魔術は使うけれど、元からそんな攻撃的じゃないし、同族だけで集まってひっそりで〜、やっぱり人口の多い獣人やドワーフが〜経済を回す生産活動のメインって感じです〜。」
「あ…エルフの皆さん、ちゃんと働いてない…感じで?」
「それ言うと『私たちは世界のために〜、みんなのために〜』って怒るんで気をつけてくださいね〜。」
魔術もそこまで使えない。森に住んでない。
挙句、生産的活動もしていない。
エルフへの幻想とかそうレベルじゃなく、種族的にやべぇな。
「でもいいだろ? 浪漫が詰まってるじゃないか!!」
俺の肩を叩いてきたフリオさんは生き生きとしていた。
「それに、まさか! 本当に動くヒューマンと相見えるなんてね!!」
「ハハハ……なんかすみません。」
圧がキツい。
今度はテンションの高い同士、おしゃべり眼鏡と固い握手を交わす。
「復元の研究が成功したのも、フリオ様のおかげです!!」
「いやいや、浪漫のためならば金は惜しまんさ!!」
「やっとの動くヒューマンですものね!!」
べろべろに酔った人たちの絡みをシラフで見ている気分です。
まぁ金持ちの道楽にも思えるが、投資した研究が成功したら、投資家したら万々歳だろうよ。
「今まで何回かは培養タンクから復元できても、動きも喋りもしてくれない子ばっかりで!!」
「まさに、ヒューマンの不思議だね!!」
動きも喋りもしないヒューマン。
嫌な予感がして、ハイテンション組に水を差す。
「あの…動きも喋りもしないヒューマンって!?」
それはこの人たちが言う、『家に囲われていたヒューマン』ではないだろうか?
もっと言えば、Wストレージ。
俺以外にもIDから抜かれて復元された人がいる?
「復元できても…何の反応もしないんです。魔素を体内に留める器官がないのはヒューマンですから当たり前ですが、あの子たちはそもそも拍動が弱いんです。」
「そもそもですね〜シャワー向けられて手で自分を守ろうとしたの、セイジさんだけなんですよ〜。」
Wストレージならば、動けないのはわかる。
リバクロではメインキャラのためのサポート。着飾ってギルドハウスの賑やかしにしかならない存在。
皆Wストレージでインする時は装備を変える時だけだと聞いた。
本当に装備を変えるだけで、チャットは見えるが発言もできない。
Wストレージ専用のコンペみたいなのは頻繁にあったし、その賞品もそこそこ豪華で盛り上がってはいたが、重課金や廃人プレイしてるやつでもない限り賞品には手が届かない。
その内メインキャラの方でもサブキャラの装備をいじれるように仕様変更されたせいで、そもそもインされない。
「しかも、彼らね。何故かわからないけれど、一定時間経過すると忽然と消えてしまうんだ。」
浪漫、浪漫とうるさいフリオさんがそう言う。
「件の日以降のヒューマンとまるで一緒じゃないか!」
あ、また浪漫って言いそう。
「でもですね〜、本当、条件がわからないんですよ〜。」
「魔素の動きもなしですし。ヒューマン一斉消失と全く同じで…八方塞がりです。」
「だからこそ、君から話が聞きたいのさ!」
一斉消失の方はサービス終了でインしなくなったからな気がする。
となると、問題になるのは俺みたいに復元された場合だ。
一定時間経過すると消えるっていうのは、リバクロ内でもあった一定時間操作がない場合スリープモードに勝手に移行するやつみたいだ。
リバクロでも1時間何の操作もしないと自動的にログアウトさせられる機能があった。
そのために回復待ち用のMODなんかもあったくらいだ。
「その一定時間で消えるって…どれくらいの時間なんですかね?」
「さすがに数時間はないです。ですが、みな、3日で消えます。」
3日となると、スリープ移行はちょっと違う気がする。
「じゃあ、おれも3日で消える?」
するとおしゃべり眼鏡は考え込んだ。
「その可能性はなきにしもあらずです。ですが、何分比較対象がないので…他のケースと比較するなら、セイジさんにも3日間全く動かないでもらう必要がありますし。」
「駄目だよ!? せっかくの動くヒューマンなんだ。わざわざ消失させる方向で動くことはないだろう?」
比較分析をしなければという研究者と、浪漫一辺倒の出資者。
まぁ、金を持っている方が強いだろう。
それに意識がある状態で3日間飲まず食わずで動かないっていうのはちょっとできそうにない。
「彼に保全ルームの復元体と対面してもらうのはどうでしょうか?」
とっくに別の業務に戻っていた獣人の男性が声をかけてきた。
耳の感じだとキツネっぽいが自信はない。
この人も同じ白衣を着て眼鏡をかけている。
やはり、研究員の眼鏡率は高いのか。
「今でしたら3体。1体は間もなく。あとの2体は約4時間ほどで定刻ですし。」
「我々では気付かないことに気付いてくれるかもですよ!!」
「ただ復元体が消えるのも惜しいですし。」
「猶予が伸びるでもしたら儲けもんですよ。」
「でも、万が一が起こって…大変なことになったら…。」
「…保全ルームの方は大丈夫でしょう。」
他の研究員も各々喋る。
わかってはいるが、言葉の端々に俺たちが研究対象というのが出ている。
それはそうと、1人消える?
「そうですね! 時間もないですし!!」
キツネ眼鏡の彼を先頭に俺のタンクがあった部屋から出て、おしゃべり眼鏡とフリオさんに挟まれるように歩く。
もちろん、俺だけ裸足だ。
異世界だからドアが近未来的に開くとかそんなこともなく、目的の部屋に着く。
部屋の上にあるプレートには『保全室』とだけ書かれていた。
異世界転移とか転生あるあるの文字がわかるのはありがたい。
ノックもなしにキツネ眼鏡の彼がドアを開けそろって中に入ると、ここでも数人の白衣の研究員だろう。が作業をしている。
奥に透明な強化ガラスなようなもので仕切られた区域があるのがわかった。
「ヨルハ主任、間もなくです!」
声をかけられたキツネ眼鏡の彼がその後ろの区域に近づく。
促されるままそちらに近づくと、まるで展示される動物かのようにガラスのむこうにいる人影がわかった。
「オス2体にメス1体。彼らが今、当研究所に存在する復元体だ。」
キツネ眼鏡の彼改めヨルハ主任が俺に紹介する。
シンプルな貫頭衣みたいなのを着せられ、ただ座っているヒューマンが3人。
必要ないのを知っているからか、部屋には彼らが座っているクッションのような椅子が人数分しかない。
貫頭衣みたいな服があるなら俺にもそれをくれればよかったのにと思ったけれど、よく見ればサイドは何箇所か紐で結んであるだけで、体の側面はほぼ丸見えだ。
やっぱ嫌だ。
「経口で栄養をとる必要がある種族なようで…自力で取れれば1番なのですが。」
俺の目線に気付いたのかおしゃべり眼鏡がそう言った。
3人の腕から伸びる管はやはり、点滴みたいなものなのだろう。
「うん、私の記憶通りなら、昔ヒューマンはこの辺りでも指折りの飲食店を構えていたからねぇ。」
さすが長命種ドラゴニュート。
リバクロプレイヤーで料理人のジョブがある人が構える店もご存知だった。
「…10秒前!」
研究員の1人が叫んだ。
その場全員の視線がガラスの向こうに向く。
その中でも1番左端の年若い男に視線が集まる。
「…8、7、6…」
「見ていたまえ。命の灯火が消えるその時の美しさを。」
カウントをバックにフリオさんが俺に囁いた。
「3、2、1!」
その瞬間、リバクロのログアウト専用の紫色にキラキラ光るエフェクトを出しながら男は消えた。
男に繋がれた点滴が刺さる先を見失って床に落ちるのと同時に、認識タグか何かだろう。床に落ちて小さい金属音をたてた。