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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
2章 ものづくり隊、本格始動。
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03 できることとできないこと

 大方シズの持ち物の整理が終わったことで俺たちは一息ついた。

 この様子ならば初級で作れそうなものは大体いけるだろう。


 鮮度が命の薬草系はそのまま収納。

 ネルケの花みたいな増やせそうなものは一部だけ挿木。

 そのせいでシズのアトリエの一部は水を入れたコップだらけだ。

 コップも足りないから作ったし、ついでに回復薬用の瓶もいくつか作って収納棚に収めた。

 元からシズが持っていた薬包紙なんかも俺がμからもらったものも集めて、俺の分は避けてシズのところに収納する。


「瓶作れないの不便。」


 確かに錬金術師の俺は自家発電できるし、鍛治師のジキルだって作れる。

 作れないのは薬師のシズだけだ。


「砂さえあれば俺は作れるし、ジキルに頼めばかわいいの作ってもらえるぞ?」


 そう言うと興味を持ったのかシズはバッと顔を上げる。


「ジキルガラス成型できる?」

「おう。コールドワークとかホットワークだろ? そっちは俺じゃなくてジキルの専門だ。作ったもの売るってなったらパッケージもこだわるだろうから、その辺はジキルと相談だな。」


 今はネコ耳をつけていないせいで目で見てわからないが、シズがご機嫌なのがわかる。


「1つのジョブで完結しない。…いい。」


 シズは何度も頷く。

 そう、リバクロはそう言ったゲームだった。

  MMORPGだから人と関わって協力して物事を進めていく。

 ソロより仲間と協力した方が効率がいい。


「ん、でも錬金術便利。多かった?」


 確かに自分である程度全部できてしまう錬金術師は便利だ。

 だが、ランクが低い内はまさに器用貧乏。

 作る薬は薬師に劣り、作る武器は鍛治師に劣る。

 そのせいで不遇職扱いされることも多かった。

 しかもランクが上がるのが異様に遅い。

 なのに錬金術師の実力が開花するのは高ランクを完全にマスターしてからだ。

 そのせいで高ランク錬金術師はギルドで囲われていることが多い。

 他ギルド専属錬金術師にオーダーをするなんてこともザラだ。

 俺は元がソロでちょいちょいLINDAとギルド関係なく遊んでいたことでHABに拾われ専属扱いになった。

 拾われなかったらあそこまで錬金術のランクが上がることもなかったし、まぁそこは色々だ。


「錬金術師は薬師に劣り、鍛治師に劣るであまり人気なかったね。ほら、自分ができないことを仲間と一緒にやるのが MMORPGじゃん?」

「…だから MMORPG苦手。」


 シズのその返答に苦笑する。

 まぁだからこそ俺もソロだったんだけど。


 そもそもLINDAと会った時、俺はいつもヒューマンだった。

 下位職の盗賊でキャラメイクして適当に狩りをしてみて、攻略板でヒューマンをメインキャラにしてはいけない。ってのを見て面倒くさくなってゲームのアンインストールをしようとしていた。

 そこでLINDAに偶々声をかけられたのだ。

 

「盗賊系の装備余ってるけどいる?」


 その明らかに慣れてそうな出立ちをした熊獣人のプレイヤーがLINDAだった。

 ただでくれるっていうなら、もらおっかな。

 そんな気軽な感じでだらだらと続けた。

 続けているうちにLVが20を超えてサブキャラを作れるようになって作ったのがドラゴニュートのセイジだった。

 LINDAは特にプレイスタイルについてこうしろああしろって言うのがなくて、俺も特に相談もせずにキャラメイクした。

 ソロで素材集めするなら飛べたらラッキーと思ってドラゴニュートにしたけど、あとでどの特性が出るかわからないと聞いて肝を冷やした。

 たまたまドラゴン化できなくても飛べる個体だったからよかったものの、他にはブレスを吐ける火力重視のやつや、防御力重視のやつが出る可能性だってあった。

 LINDAと遊ばない時にコツコツ飛んで素材集めをして、錬金術で作って。とプレイスタイルが確立してきた頃、HABに誘われたのだ。

 そこで初めてドラゴニュートの方で会ったらLINDAには驚かれた。

 それよりもアカツキたちにはドラゴニュートでソロで上級錬金術師と言った時の方が驚かれたけど。

 それからはギルド内上位勢による俺の上級マスターのための錬金術強化がはじまったわけだ。

 俺を作ってくれたのは紛れもなくあの仲間達だ。


「でも仲間もいいもんよ? シズにはジキルも俺もいるし?」


 シズは頷く。


「うん….1人で完結しない。うん。」


 シズは噛み締めるようにそう、何度も言った。


「できないことも、セイジとジキルがいればできる…うん。」


 シズのその形のいい頭を撫でるとコロコロと笑って俺に抱きついてくる。


 ふと、思った。

 俺ができないことも、シズとジキルがいればできる。

 頭に浮かんだのは女神様を覆うあの透明な水晶みたいなやつのことだ。


「シズ、ちょっと聞きたいんだけど…。」


 そう言うとシズはそのどんぐり眼で俺を見た。

 言えってことなんだろう。


「硬いものって言ったら何が思い浮かぶ?」

「ウルツァイト窒化ホウ素。」

「…は?」

「じゃあダイヤモンドナノロッド凝集体。」


 残念ながらシズがあげたものに俺は全く聞き覚えがない。


「ダイヤモンドナノロッド凝集体はハイパーダイヤモンドって呼ばれてる。」

「ハイパーって…なんかもうちょっと名前どうにかなんなかったのか?」


 シズも頷いた。

 ハイパーダイヤモンドとか、俺の考えた最強の宝石とかで出てきそうだ。


「とりあえずこの2つはダイヤモンドより硬いんだな?」

「うん。しかもウルツァイト窒化ホウ素は熱に強い。」

「と言うことは…ダイヤモンドって熱に弱いのか?」

「そう。800℃越えれば炭化する。しかも、衝撃にも弱い。割れる。」


 そうするとあの水晶みたいなのはダイヤモンドではないのか?

 いやでも、流石に中に女神様がいるのにブレス吐くわけにはいかないだろうし、いや実際にフリオさんがどうやってあれを割ろうとしたのかも聞いていない。

 これは手詰まりか…そう思っていると、シズが俺を見つめているのに気付いた。


「どうした?」


 その焦茶色の目に俺が写っている。


「…ううん。何でもない。」


 シズは頭を振ると、ついと壁の向こうを見た。


「…ジキル、終わったと思う?」


 あぁ、あの服で溢れた部屋のことを忘れていた。


「いいや? …着替えてるんじゃない?」

「…うん。着替えてると思う。」



 2人連れ立ってジキルの部屋へ向かう。

 するとノックと同時にシズはドアを開けた。


「だからシズ、ちゃんとノックして許可もらってから開けよう…な…?」


 先ほどと何も変わっていない服の山の中、朝食の時と違うワンピースを身につけたジキルが鏡の前で髪をセットしていた。

 一応、ドアの開閉音でびっくりしたのかびくっとしている。

 いや俺たちの方がびっくりだよ。

 ジキル、おまえなんでこんな空間でコテで髪巻いてるんだよ。


「…あ、ねぇ、やばくない? コンセント要らずでコテ使えるんだけど!?」


 やばいのは、おまえだ。

 そう思ってシズの方を見ると、シズは真顔だった。


「セイジ、アトリエ行こう。」


 そう言って俺の腕を引っ張る。


「え、ちょ、待っ!!」


 慌てたジキルは失敗したのか片側だけすんごい毛先がくるりんってしてる。


「他の薬の使い方も知りたい。」

「あ、他の? 何がいいかな〜?」


 俺の頭の中で、先ほどシズの手持ちで確認した中から良さげなものを思い浮かべる。

 とりあえずMP回復薬と気になっていたようだから解毒薬は押さえるとして、あとは敵の足止めに使えそうなやつも少しならいけそうだ。


「え、僕の手伝いは!?」


 また忘れてた。

 いや、手伝うって最初から全部やらせる気じゃないか?


「…自分で片さないとどこに何があるかわからなくなる。がんばって。」

「えぇ〜…。」


 シズは俺を引っ張って連れ出すとジキルの部屋のドアを閉じた。

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