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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
2章 ものづくり隊、本格始動。
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01 晴れやかな朝

 知ってた。

 そんなことだろうと思っていた。


 窓から差し込む朝日を目蓋に受けて俺が目を開くと、3人で掛けたはずの掛け布団を1人巻き込んで簀巻き状態のシズと、寒いのか俺に抱きついているジキルが目に入った。

 俺も薄ら寒いが、ジキルが抱きついているお陰で少しだけ温かい。


 なんとかジキルの拘束から抜け出し、手持ちのアイテムの中でまだ掛け布団っぽいものでジキルをくるんでおく。

 遠目に見れば蓑虫が2匹…いや2体だ。

 ちょっとかわいい…違うな、おもしろいだ。

 そう思いながらキッチンに向かう。

 その道すがら、手持ちの衣服に着替えようとしたところではたと気付く。

 俺のリバクロの中で持っていた服にだらっとした時に着る用の服なんて一切ない。

 全てが戦闘用の装備だ。

 ならば頼りになるHABのメンバーからの装備を簡単に確認する。


 エルフで魔術師のアカツキの手持ちは魔術師らしくローブばかり。

 戦闘用じゃなさそうな奴はエルフのキラキラした外見にぴったりな、なんかこうヒラヒラしたやつで、俺には似合いそうにない。


 妖精族で回復術師かつ薬師のμの服はそもそもが妖精族らしい華やかなものが多いので却下。

 ヒラヒラフワフワしていて花が生えているのさえある。

 妖艶なお姉さんが着たらそっちの店にしか見えないぐらいヒッラヒラのスッケスケだ。

 こんなん俺が着たら恐怖でしかないだろう。

 でもジキルに渡せば有効利用してくれそうだ。


 ドワーフで鍛治師、そして重戦士のビーノのには良さげなものが多い。

 作業用のだろうつなぎやデニムのオーバーオールなんかがある。

 よいではないかと引き摺り出すと、俺とビーノの種族差が壁になった。

 全て短い。

 ドワーフは鍛治師に適性があり、素早さこそあまりないが頑強な体はタンクとして使える。

 が、いかんせん身長が低い。

 リバクロのゲーム画面ではあまり気にならなかったが、実際は俺の肩にも頭が届かないだろう。

 となればシズなら身長的には着れるが、今度は体の太さが全く違う。

 

 最後に熊獣人のLINDA。

 やはり元とは言え最強ギルド、蒼穹のカタストロフィに属していただけあり、そのアイテムの質、種類、量、どれをとっても段違いだ。

 熊獣人だったせいで今の俺と比較すると断然ご立派なガタイだったろうに、俺でも着れそうなシャツとパンツ、それにサボがあったのでありがたく着させていただく。


 洗面所で顔を洗って、少し寝癖のついた髪は手櫛で。

 鏡には20才いくかいってないかくらいの黒に近い藍色の髪と目をした男が写っている。

 色と髪型だけで言えば本当にリバクロの俺のキャラだ。

 それがリアルになるとこんな感じなのかとちょっと感慨深いものがある。

 間違いなくリアルよりは整ってはいるものの、そこまでイケメンってわけでもない顔なのはありがたい。

 異世界転移もしくは転生してバリッバリのイケメンなんぞになった日には、俺みたいな一般人はまず馴染めない。

 毎日顔を洗うたびに「うおっ!」って驚く自信がある。


 そしてキッチンへ行き、朝食の準備をする。

 とは言ってもバルゾフさんがきっちり用意してくれたおかげで、鍋に移したスープを温め、サンドイッチを大皿に盛るくらいだ。

 これではあまりにもなぁと思い、もらったフルーツの中からオレンジみたいなのを取り出す。

 手絞りのオレンジジュース…とは思ったがジューサーなんぞここにはない。


『錬成:オレンジ+ピッチャー』


 スキルで抽出するとピッチャーには並々とオレンジジュース。

 錬成スキルを使ったため皮は残らない。

 ついでにお湯も沸かしておく。

 紅茶は…ジキルに怒涛のダメ出しをされそうなので回避して、鑑定したらほうじ茶のような味とあったお茶を淹れる。

 用意が全て整ったのでやっと2人を起こしに行くことにした。


 2人は相変わらず蓑虫になって寝ていた。

 先ほどと違うのは2人の距離が近付いているくらい。


「おーい、朝だぞ。」


 そう声をかけるが2人は微動だにしない。

 今度は肩を揺する。


「朝ごはん準備できてるから食べようぜ?」


 更に強めに揺する。

 すると、ジキルの目がしょぼしょぼと開いた。


「…ごはん?」

「おう、お茶の用意もできてる。」

「…食べる。」


 そう言いながら簀巻きにした掛け布団からうごうごと動いている。

 なんとか抜け出してベッドに座り込むと、目をパチパチさせて辺りを見回した。


「え…あ…夢じゃなかったんだ…。」


 一瞬にして俺の胃が重くなった。

 高校生だったというジキル。

 もう、朝起きて学校に行ってというサイクルは存在しない。

 ジキルはその長い髪を掴むとそれに目をやった。


「…綺麗な髪。」


 薄水色の長い髪。

 リアルじゃそんな髪色なかなかお目にかかれない。


「…うん…これでよかった。」


 ジキルがどんな思いでそう言ったかはわからなかったけれど、この子には心からの明るい顔をしていてほしいと思った。


「お茶…冷めちまうぞ?」


 そう言うと、ジキルは顔を上げる。


「セイジが淹れてくれたの? …失敗してない?」

「じゃあ確認してくれ。」


 頷いたジキルは横で眠るシズを揺り起こす。


「シズ、ごはん! セイジが準備してくれたって。」

「…むぅ。」

「セイジ! メニューは?」

「バルゾフさんからもらったスープとサンドイッチ。あと、絞ったオレンジジュース。」


 それを聞くとシズを再び揺する。


「生搾りオレンジジュースだって! ビタミンとれる!!」


 が、シズは微動だにしない。

 諦めたのかジキルはベッドを飛び降りた。


「僕着替えてくるからあとよろしく!」


 パジャマの裾を翻してジキルは部屋から出ていった。

 残されたのは俺とシズ。

 シズは丸まってアンモナイトみたいに進化している。

 

「シズ、ほら起きろー。」


 そう言ってシズの顔を覗き込むと起きかけてはいるんだろう、眉を顰めている。


「ほらごはん食べて色々作るんだろ?」


 頬を突くと薄ら目が開いた。


「…バスボムに布だって染めるんだろ? あと金を稼ぐなら回復薬か?」


 そう言い連ねていく度にその目の開きが大きくなる。

 そしてその目が完全に開き切ると、俺をじーっと見つめた。


「…セイジ?」

「…うん?」

「セイジだ。」


 確認するように何度も言ってシズは頷いている。


「ほら、ごはんできてるから食べるぞ。」


 そう言って頭を撫でるとクスクス笑っている。


「ジキルは着替えに行ったけど、シズはどうする?」

「このままでいい。」

「はいはい。」


 シズもやっぱり蓑虫からうごうご脱出するとベッドから降りて伸びをした。

 俺はその横で掛け布団を畳んでベッドを整える。


「ほら、行くぞ。」


 そう声をかけるとシズは俺の腕にしがみついた。

 そのままキッチンへ向かう。

 ジキルはまだ来ていないので、シズの前に温かいスープを置いた。


「お茶とオレンジジュースどっちにする?」

「オレンジ。」


 ピッチャーから注いでシズに渡すと、そのままごくっと飲む。


「…おいしい。」

「そりゃよかった。」


 俺はお茶を口に含む。

 ちゃんとできているかはわからないが、とりあえず鑑定通りほうじ茶っぽい味がするから大丈夫…と思いたい。


「そうだ。今日回復薬作るだろ?」


 尋ねるとシズは頷く。


「瓶、昨日のみたいなので良ければ用意できるけど、何本くらいいる?」

「…うーん…いっぱい?」

「多い方がいいか…余れば次に回せばいい話だし。」

「…私の手持ちのアイテムの確認を一緒にしてほしい。」


 そう言えば、リバクロのことがよくわかっていないんだったら何もわからないよな。

 そう思って頷く。


「セイジは…自分の手持ちアイテム、全部把握してる?」

「いや、俺は色々あってシズやジキルよりアイテム所持枠が多いから…さっぱり。」


 そう言うとシズはちょっとだけ笑った。


「セイジ、私たちと違って全部出して確認できないから大変。」


 そうなんですよ。

 全部出すにしても量が多いし、そもそも出したもの他の人に見られるのがまずいんですわ。


「それより…ジキル、遅くないか?」

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