37 異世界ごはん(豪華版)
「…せめて差し色入れよ?」
何故、食事の席でセンスについて注意を受けているのでしょうか?
このやりとりを聞いてフリオさんはにこにこしている。
フリオさんもファッションの方のセンスがないから、仲間と思って喜んでいるのだろうか。
あの穏やかな笑顔、殴りたい。
「セイジ、大丈夫。希望を言えばジキルがどうにかしてくれる。私もしてもらった。怖くない。」
キリッとした顔で俺の肩を叩くシズ。
ただそれは誇っていいことじゃないぞ。
「じゃあ…とりあえず観葉植物置くよ。」
ジキルは頷いている。
「ならば、ボブからヘボンナサラの木をもらうといい。」
と、フリオさん。
ヘボンナサラ?
俺の記憶が正しいならばそれは葉が石鹸とか調合する時に使えるやつではないだろうか。
そして高さは2m。
幹の太さは大人が抱きついてやっと手が回るくらいある。
あれを部屋に?
「は?」
ジキルの忖度ない「は?」が出た。
ジキルもちゃんと知っていたらしい。
「あれは常緑樹だからね。落葉もしないし室内向きだよ。」
フリオさんはにこにこだが、本気でこの人頭おかしいんじゃないかと思う。
「あぁ、ボブは庭師だよ。鉢に入れてくれるだろうからすぐに頼むといい。」
本気か?
もろに木だぞ?
それを鉢に?
どんだけでかいんだろうか。
そんなの部屋にあったら邪魔でしょうがない。
「いや…ヘボンナサラは大きくないですかね?」
「ボブは熊獣人だから大きくてもちゃんと運べますよ。安心してください。」
違う、そうじゃない。
あと、全く安心できない。
「違くて、室内にあんな木置くのがおかしくないですか?」
ジキルがそう言うが、フリオさんもバルゾフさんもキョトンとしている。
全くかわいくないが。
「セイジ、木を置くなら、実がなるやつがいい。」
シズ、それも違う。
なんと言ってこのずれてるドラゴニュートずにそれはおかしいことですよと伝えればいいのだろうか。
なんも伝わらない気がする。
「あぁ、あと部屋に女神像はどうですか? 私のものを1つお譲りしますよ。セイジさんには特別ですよ。」
そんな特別いらない。
あと、部屋に大木と女神像あるのは嫌。
ちっとも安らげない。
「セイジ、この人らやばいよ? 次元が違う。」
ジキルは真剣だ。
言ってる内容はクソだが。
そしてそれに完全同意だ。
「俺…あの人よりはマシだと思う。」
「うん、セイジは何も冒険しないだけだもんね。あんな冒険するくらいならしない方がいいよ。」
やっぱりジキルの発言内容は酷いが否定できない。
どうしたもんかなと思っているとメイドさんたちがプレートを配膳し始めた。
入口で会ったメイドさんが俺の前にプレートを置く時、アイコンタクトされる。
これは、ヤバい御主人様のはっちゃけガードとみた。
軽く会釈すると微笑まれる。
目の前にはおそらく前菜、オードブルだろう。
ということはフランス料理のコースと同じと思っていいかな?
魚料理に使うようなナイフもあるし。
「わ! かわいい!」
「花。」
ジキルがキャッキャするそのプレートには花が咲いていた。
だが、普通の花ではないようだ。
「オードブルでございます。カロンとラディのビボラ仕立てでございます。」
バルゾフさんがそう教えてくれた。
カロンはニンジン、ラディはカブ。
ビボラは花なのは知っている。
と言うことはこれはやっぱり花じゃなくて野菜なんだ。
やっぱり小洒落たもんが出てくるなぁと思っていると、シズが仏頂面をしていた。
「…これ野菜?」
「そうだよ。嫌い?」
「…あんまり好きじゃない。」
「そっか…でもこっちの世界のは食べたことないだろ? 食べてみたら? せっかく綺麗に作ってくれたんだし。」
そう言うとシズは頷いてナイフとフォークを動かす。
なんとか切り分けるとそれをじっと見てからぱくんと口に入れた。
そのままもぐもぐしている。
そしてごくんと飲み込む。
「どうだった?」
「やらかい。おいしい…かも?」
「ならよかったね?」
俺も口に運びながらシズが頷くのを見た。
お、おいしい。
繊細な中に野菜自体の旨味をすごい感じる。
某スポーツ用品メーカーのロゴの文字抜いたやつみたいな感じで彩られたソースは何でできてるのかさっぱりわからないけれど。
「あとね、なんでも好き嫌いして食べないと美容に悪いんだから。」
「そこは健康じゃないの?」
「美容にもよくないんだから!」
「むぅ…美容はどうでもいい…。」
「今からやったら10年後違うんだからね!?」
そんな俺たちを見て、フリオさんは笑っていた。
「騒がしくして申し訳ありません。」
そう言うとフリオさんは違うと首を横に振った。
「いや…10年…我々にとっては一瞬だなぁ…って。」
忘れてたけど、フリオさんは少なくとも500才オーバー。
バルゾフさんに至っては500年前の段階で既に『雷帝』。
「あぁ、でも我々の中でも美意識の高い者はよく火山にいくそうだよ。」
「火山…ですか?」
「泥パックだ!」
突然叫んだジキルにびっくりしてそちらを見ると、やけにイキイキしている。
「そうです。何でも鱗の美しさを保つのに最適だとかで。」
「やっぱりその土地土地の民間美容法とかテンションあがる〜。」
俺はあがんねぇな。
そう思ってシズを見ると、我関せずでラディの白い花と格闘していた。
「…マグマダイブとかだったらテンション上がるのに。」
うん、わかる。
マグマからドラゴンがざぱぁーって出てきたら面白いのにな。
「そんなの真似できないじゃん!」
「さすがに我々もマグマは燃えますねぇ。でも、泥も熱いまま使うのがポイントらしいですよ。」
「え…めっちゃ熱そうなんだけど。」
ドラゴンだもん、そりゃ熱そうだ。
そうこうしているうちにプレートが下げられ、次のスープが運ばれてくる。
今度は透き通った黄金色のスープだ。
一般人の俺からすると、コンソメかブイヨンかそのあたりなんだろうかとしか思えない。
皿の底には大きめの肉の塊が鎮座している。
「アースドラゴンのスープにございます。」
アースドラゴン?
今、バルゾフさん、アースドラゴンって言った?
俺の表情に気付いたのか、バルゾフさんが追加で教えてくれる。
「アースドラゴン骨と野菜から取った出汁をベースに作られたスープです。中には柔らかく煮込んだ尾の肉が入っております。」
わ、テールスープみたい〜。
なんて言うわけがない。
あれ、ドラゴン…なのに食べるんだ?
なんかリバクロプレイヤーが散々同族を殺したって言ってたわりに、同族?食べちゃうんだ?
スープにスプーンを入れる。
さらりとしたそのスープ。
一口口に入れればその上質な肉の旨味が脳天を突き抜ける。
リバクロ内でいくらドラゴンステーキなんだのを食べても味がわかるわけではない。
VRだったらこの味も香りもわかるんだろうけど、リバクロではそんなシステムない。
それどころかこの味が再現できるかも問題だ。
鼻に残るこの香りは言いようがない。
肉の臭みは全くなくて、舌の上に残る肉類を食べた時のあの脂感も嫌味がない。
「やっぱり飛竜より、地竜だよね。」
朗らかにそう言うフリオさんにバルゾフさんも頷く。
「飛竜はよりさっぱりしていますので、調理法によって使い分けられますね。」
「私は断然地竜派さ!」
なんだろう、会話からドラゴン食に馴染みがあるのがわかる。
ただ、解せぬ。
そう思っていると、うちの特攻隊長がぶっ込んできた。
「強いドラゴンで作ったらもっとおいしい?」
視線の先はフリオさんとバルゾフさんだ。
フリオさんなんて笑顔のまま固まっている。
わかるぞ?
この視線は、聞いているんじゃない、食材として見ているんだ。