32 ゲームとリアルと
そりゃあゲームだもの、出てくるモンスターにしろ魔物にしろ狩って武器やアイテム作ったり売っぱらったりする。
それが実は人格のある人ですよって言われて、どんな顔をすればいいのか。
出してはないけど俺のアイテム所持枠の中に眠るスクリロメノンやスクリロメノンを含む物がどんだけあるんだって話で。
それにドラゴン素材を含むものなんてそれこそ五万とある。
それくらい世界観がファンタジーだとドラゴン素材は切っても切れぬってやつだろう。
だいだいドラゴンステーキなんていう尻尾の輪切りを焼き上げたよくあるメニューはどうすればいいっていうのか。
バルゾフさんの視線は鋭いがその横のフリオさんは笑っている。
「バルゾフ、そんなめくじらを立てることもないだろう? 負けたものが弱かっただけのことだ。」
フリオさんをバルゾフさんが見返す。
室内の空気は冷え切っていた。
ジキルもじっとこちらの話を聞いているようだし、シズはそんなジキルの腕を掴んでその後ろに隠れるようにしている。
「女神の鉄槌により上位種を好んで殺すはぐれ共が一掃できたのはようございましたが…。」
「はぐれ…とは?」
「竜王国に属さぬドラゴニュートです。以前は多くいましたが、それもデア・エクス・マキーナーが起きた後全てが消え去りました。」
思わずフリオさんに目をやると、黙っていろとばかりにウインクされた。
はぐれはどう考えても、リバクロをドラゴニュートでプレイしていたプレイヤーだろう。
所属も生まれも全くわからない同族が同族を屠る。
『ジキル:ねぇ、それってプレイヤーの…こと?』
ジキルの顔は凍りついたように青くなっていた。
『シズ:ジキル、表情変えちゃダメ。』
シズはジキルの手を握った。
すると少しは落ち着くのかジキルはシズと目を合わせる。
『セイジ:上位種のドラゴンはドラゴニュートの獣化した姿なんだと思うよ。』
『ジキル:…ゲーム…だったんだもん。そんな、そんなの知らないじゃん。』
「旦那様だってはぐれ共に…。」
「バルゾフ!」
バルゾフさんを止めるフリオさんの声は鋭い。
「…父上も戦場で死ねて本望だろうよ。」
「ぼっちゃま…。」
フリオさんは俺がドラゴニュートだったと聞いて、どう思ったのだろうか。
ドラゴン、それも上位種の討伐経験なんてシズはまずないだろうし、ジキルもレベル的にきついと思う。
と言うことは、俺だけが上位種の討伐経験があるということだ。
「それに強い者が正しい。それが竜王国のルールじゃないか。」
フリオさんがそう言うと、バルゾフさんも黙った。
室内に冷たい空気が流れる。
それを打ち砕いてくれたのはフリオさんだった。
「そう言えば、セイジさんたちは知らないですよね? 竜王国から外れ、こちらの大陸に領地を持つドラゴニュートについて。」
その声は明るい。
頷くと朗らかに続けた。
「こちらに領地を持つ家はそれぞれ特定の属性に秀でた一族なんですよ。我が家は雷。」
となると、雷帝の名を持つバルゾフさんとフリオさんは親族ということになる。
「バルゾフは今はバトラーとして支えてくれているけど、本来は私の祖父の弟なんだよね。」
バルゾフさんも頷く。
「それでね、リムザを治めるナバール家はね、火に秀でた一族でね…。」
あ、嫌な予感してきた。
レイドボスで炎帝って呼ばれる上位種のドラゴンがいた。
雷帝バルゾレイニフでプレイヤーは学び、その次の次くらいにきた炎帝カールハインツは属性の読みがドンピシャで大変だったものの勝つことができた。
そう、炎帝カールハインツ。
「先代の当主がカール様って言うんだけど、知ってるかな?」
はい、黒寄りのグレー。
限りなく黒いグレー。
「カールハインツ・ゼル・ナバールって言うんだけど。」
ほぼアウト。
ていうかアウト。
「イオラの父上なんだよね。」
アウトどこじゃねぇ話きた…。
もう絶対リムザに行けない。
それどころか、この大陸にある都市は全部で7つ。
属性は火、氷、風、地、雷、聖、闇と無属性。
無属性を除外すると7つ。
嫌だっ、一緒じゃーん。
はい、つんだ。
どこへ行ってもレイドイベントでちょこっと因縁のある方がおられる街じゃん。
「ねぇ…セイジ、顔色悪いけど大丈夫?」
ジキルは純粋に俺を心配してくれている。
シズは気付いたようで、俺の出方を見ているようだ。
「…俺、もうドワーフの鉱山都市に行くわ。」
「え、ちょっとセイジ、目が…死んでる。」
「それか…どこかの森に籠るわ。そこで自給自足のスローライフ送るわ。」
もう、それ以外ドラゴニュートに関わらないで生きるなんて無理だろう。
というかどのツラ下げて会えると言うのだろうか。
敵討ちでいつ殺されるかわからん生活はちょっと耐えられない。
「うん、一緒にこもろう。私、こもるの得意。」
シズは俺について来る気満々だ。
「大丈夫、数年経てば夫婦に見える。どこかで引きこもりがちな森の薬屋さんやろう。」
「…それでシズはいいのか?」
シズは大丈夫なんだぞ? 恨まれているであろう人間は俺だけなんだぞ。
そう思いを込めてシズの目を見るが、シズは穏やかに笑っていた。
「うん。私、セイジと一緒にいれるならなんでもいい。」
そして、俺の腰に抱きついた。
ちょっと泣きそうだ。
「待ってよ!? 僕も行く!」
ジキルが慌てて言う。
「ジキルは…大丈夫だぞ?」
そう言うと、ジキルはぶんぶんと頭を振った。
「置いてかないでよ! 僕も一緒がいい!」
「…そうすると困る。」
シズの冷静な言葉にジキルが頭を捻る。
「なんでよ!?」
「私はセイジのお嫁さんになる。ジキルは…ペット? いやでもありかも?」
「はぁ!? なら、僕もお嫁さんでいいよ!?」
「だって、セイジ。…この世界、重婚できるのかな?」
話がずれてきた。
何で俺と結婚するって話になってるんだろうか。
「え、養子でよくない? それか兄弟。」
思わずそう言うと、シズに真面目な顔で諭された。
「田舎で結婚もせず引きこもっていると怪しまれる。」
「…そう?」
「セイジの感じだと、客のおばさんに嫁候補を紹介されそう。」
「あ、わかるー。普段野菜とかもらいまくってるから断りきれなくて、気付いたら結婚してそう。」
シズもそれにうんうん頷いている。
「そうそう、こういうタイプって若い女は警戒するくせに、まるっきり善意の塊のおばちゃんとかに弱いのよね〜。」
アミナさんまで参加してきた。
「しかも無害そうな真面目で手に職のある好青年でしょ?
しかも資産持ち。仲人ばばあからしたら好物件よ。」
そう言われるとなんかすごい嫌。
「だから私とジキルで周りを固める。どちらか片方なら舐められるけど私とジキルの2人ならなかなかの壁。」
「なんの話だよ…。」
シズは真剣だ。
「嫁が私とジキル。まともな人なら逃げる。」
「え〜まともじゃない女はどうするのよ〜。」
「そんなのセイジ自身が跳ね除ける。赤ネコ相手にするみたいに。」
「…その言われ方ムカつくけど…納得。」
あれ、当事者を置いてけぼりにして俺をひきこもりのちょっとアレな感じの薬屋さんにしようとしてないか?
どうせなら地域密着型の細く長く食っていける薬屋さんがやりたい。
そんなイロモノ勘弁してくれ…。