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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
31/47

30 違う、そうじゃない

 コットンフラワーの群生地。

 ジキルとシズは一心不乱に白い綿毛をむしっている。

 

 俺もその綿毛に触れてみた。

 本物の綿みたいだった。

 リバクロはVRゲームじゃない。

 俺の知ってるコットンフラワーはこんなふわふわしてなくて、いやふわふわっぽい絵ではあったけど。

 そんな小さいことが、ここが俺の知っているリバクロじゃない、ゲームの世界じゃないんだって言ってくる。

 綿毛をいじっていると中に種みたいなのがあった。

 ここは現実。

 指先から感じるその種の硬い感触がそう言っている。

 最新のVRゲームをやったことがあるなら区別がつきそうだけれど、俺がやったことのあるVRゲームは視界を覆うギアをつけてやる黎明期のやつだけだ。

 それ以降は高くてとてもじゃ無いけど手が出なかった。

 じゃあ、本当にここは現実なのか?

 現実ならなんでリバクロの世界観なのか?

 頭の中がぐるぐるする。


「セイジ! 見て! いっぱい!」

「いっぱい。」


 ジキルとシズは笑顔だ。

 こちらに見せてくるバケツの中は白い綿毛でいっぱいだ。


「いっぱい採ったな!」

「うん。布作って服つくってやる!」

「染料つくる。」

「うん。一緒に服作ろう!」

「うん。一緒にやる。」


 2人が楽しそうだからこれでいいかな、なんて思った。

 年長者の俺がぐるぐるしてる場合じゃ無い。


「何色にしたいんだ?」

「とりあえず赤系と青系と黄色系は抑えたいかな。」

「それがあれば色んな色作れるね。」


 俺は言われた染料が作れるこの辺で取れそうなものを見繕った。

 赤系だったらワイルドベリー。

 これは食べるとちょこっとだけMPが回復するまんまノイチゴみたいなやつだ。

 青系だったらツルシアン。

 麻痺解除の薬の材料になる薬草。

 黄色だったらベルリリー。

 黄色い鈴蘭みたいな花だ。

 幻覚作用のある罠を作る時に使う…って、これはランクがちょっと高いからだめだな。


「赤ならワイルドベリー、青はツルシアン、黄色は…ちょっと記憶にないや。」


 そう言うとジキルも考え込んだ。


「僕、染料は買っちゃってたからなぁ…。」


 2人で頭を捻っているとシズが言った。


「他の素材じゃダメ?」

「他って?」

「タマネギで染めると黄色くなる。」


 それにジキルが顔を上げる。


「野菜染ってこと?」

「タマネギの皮で染めるやつ。ネットで見た。」

「そうだよ。シズの言う通りだ。あれじゃなきゃダメ…ってのが、もうないんだよ。失敗したっていいから色々試さないと!」


 ジキルは喜んでシズに抱きついた。


「うん。色々試す。」

「なら、色んな素材集めて…いっぱい採ったコットンフラワーの布を染めまくる!!」

「まくる。」


 2人はキャッキャしている。

 そうだ、レシピ通りに作らなきゃものができないなんてことはない。

 それが望んだ効果のあるなしは関係なく、何かはできあがるんだ。

 リバクロ通りにやる必要はもうないんだ。


「よし、じゃあとりあえず色がつきそうなのを集めるか?」

「他のだと染料、花だった。」

「花で染めるのかわいいかも。」

「桜で染められるってネットで見た。」

「うそ、マジで!?」


 それから3人でその辺の花や草、色々集めてみた。

 名前が分からないのはその都度鑑定士のモノクルの出番で。

 持ってきたバケツだけじゃ足りなくて、錬金して作った薬包紙も使った。

 とりあえず満足した頃、俺たちの周りは素材だらけだった。

 なんというか、生産職の血が騒ぐ。


「こんだけあれば色々試せるね!」

「アマガエル色の服欲しい。」

「…それ、どうなんだ?」


 3人でキャッキャしていると、おとなしくしていたアミナさんが挙手していた。


「あの…そろそろ日が落ちるので帰りません?」


 確かに随分と時間が経ってしまっていた。

 アミナさんは暇だったからだろうか目が死んでいる。


「そうだな。けっこう採取できたし。」


 シズとジキルも目を見合わせてキャッキャしている。


「セイジ全部持てる?」

「余裕。」


 それらを全部アイテム所持枠に入れる。

 入れてしまえば品質の劣化もしないし安全だ。


「あと、あの…全部、それで染める…みたいな?」


 アミナさんは不安そうだ。


「アミナ、大丈夫だって! アミナの勝負服はばっちり染めるからさ!」


 対してジキルはニッコニコだ。

 その笑顔は自信に満ち溢れている。


「いや…そうじゃなくて…染料なら、売ってるんだけど。」



 静寂があたりを支配した。



 フリオさんの屋敷に帰ると、泣きじゃくるジキルを見てバルゾフさんが驚いていた。

 俺の腕に引っ付いて泣くジキルをシズがずっとよしよししている。


「何があったのですか?」

「赤ネコがジキルいじめた。」


 シズはキッとアミナさんを睨みつけている。


「…アミナ、あなたは。」


 ため息を吐くバルゾフさんにアミナさんはあばあばしている。


「いや、違くて…ちょっと、ちょーっと言うのが遅かったかなぁ…みたいな?」

「アミナは悪くないもん! …悪いのは僕だもん。」


 泣きながらフォローするジキルは間違ってはないが、そのタイミングだと、アミナさんへの疑惑が余計深まりそうな気がする。


「こんな幼い子にあなたはっ!!」

「ちょ、セイジさん!? フォローしてくださいよ!?」


 この世界の獣人が、バルゾフさんの電撃食らうとどうなんだろう。

 一瞬そんな疑問が浮かんだけれど、さすがにかわいそうなのでやめておく。


「いや、染料があるの知らないで色々集めまくったあとだったんで…。」


 ことの顛末を言うとバルゾフさんは困った顔で「はぁ。」と頷いた。

 だが、すぐ姿勢を整えると、


「お食事とお部屋の準備が整ってございます。」


 と。

 すごい執事っぽい。

 

「とりあえず色々ご報告できることがあるのでフリオさんに繋いでもらえますか?」


 そのthe執事に言うとすぐそのまま、俺たちはフリオさんの執務室に再び案内された。

 仕事のできる人の部下はやっぱり仕事ができる。



 

 数時間前と同じ場所、同じメンツで集まる。

 フリオさんは高そうな机で作業していた手を止めると、こちらを見た。


「…ジキル…くん?」


 そしてやっぱり明らかに泣いた後の顔をしているジキルに注視している。

 そりゃそうだ、まだ肩はひくついているし、目の周りは真っ赤だ。


「…なんでも…ありまぜんっ…。」


 ウサ耳まで震わせて鼻声で言うジキル。

 そんなもん、何かありましたって言っているようなものだ。

 俺も正直もうちょっと早く言ってくれよとは思ったが、アミナさんが悪いとはちっとも思えないわけでなんと言っていいかわからない。

 なのにフリオさんの状況説明を求める視線は俺にガッツリ向いているわけだ。


「セイジ、いらないハンカチみたいなのある?」


 シズの問いかけでフリオさんから自然に視線を外すことができたぞ!


「これでいい?」


 所持枠から適当な布を出すと、シズは頷いた。

 そのままそれをジキルの顔に当てると、その顔を優しく拭く。


「ジキル、顔腫れちゃう。チーンして?」


 言われるがままこなすジキルに年上感はない。

 背が低いからだが、小さいシズの方がお姉ちゃんのようだ。


「綺麗になった?」


 それに頷くジキル。

 姉弟通り越して母子のようだ。


「…せぇの。」


 ーーバシャン


 誰も何が起きたかわからなかった。

 ただ目の前の出来事を呆然と見ている。

 それは張本人であるはずのジキルも同じようで、薄緑色の液体を顔面にかけられたというのに呆然としている。

 シズはそそくさとジキルの鼻をかんだ布でその液体を拭う。


「こんな感じで腫れた目もスッキリ元通り。回復薬できた。」


 ジャーンと効果音でもついてるんじゃないかと思うぐらいドヤ顔で綺麗になったジキルをお披露目するシズ。


「全部その辺の草で作った。お金稼げる?」


 その視線の先は、変わらず呆然としたフリオさん。

 いや、シズ…そうじゃないだろう?

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