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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
25/47

24 俺のせいじゃないかつての仲間のせいなんです。

「ねぇセイジ、ボンビックスパイダーの布って持ってる?」


 そんな中、ジキルが俺にそう尋ねてきた。

 ボンビックスパイダーとは、その糸が紡ぐとシルクみたいになる蜘蛛だ。

 強くないので採取は楽だが、そもそも数が少ない。

 鍛治師の中にはボンビックスパイダーを養殖する猛者もいた。

 そのくらいこの布は有用だ。

 染色することによってその素材の効果を全て引き継いでくれるのだ。

 錬金術師や薬師の能力を使えば鉱物だってなんだって染色に使える。

 そう何にでも染められるのだ。

 と言うことは、嫌な予感しかしない。


 ジキルに断って、俺は自分のアイテム所持枠を漁る。

 俺の手持ち、アウト。

 アカツキの手持ち、アウト。

 μの手持ち、アウト。

 LINDAの手持ちにはそもそもない。

 頼みの綱のビーノの手持ちの中に染めていないものが僅かだがあった。


 何がアウトか?

 全部、スクリロメノンで染まっている。

 スクリロメノンと何か他の素材で色は様々。

 ただ、染色済みなのは全てスクリロメノン入りだ。

 まぁ、そのスクリロメノンを用意したのも、染めたのも俺なんだけどな!


「ちょっとしかないかな?」


 そう言って一巻き取り出すと、フリオさんとバルゾフさんが身を乗り出す。

 ボンビックスパイダーシルク。

 リバクロの中でもなかなかの値段がするやつだ。


「これしかない?」

「これしか出せないかな。」

「じゃあきついか…うん。」


 ジキルは考え込んでいる。

 さすが鍛治師、この一巻きを得るのに結構骨が折れることを知っているんだろう。

 スクリロメノン入ってていいなら、値段跳ね上がるけどいっぱいあるんだけどね。


「セイジ、これ触ってもいい?」


 シズは興味深そうにボンビックスパイダーシルクを見ている。


「どうぞ。」


 そう言って渡すと、シズはその表面をそっと撫でた。


「ボンビックスってやっぱりカイコガのこと。…シルクみたい。けど蜘蛛?」


 手触りが気持ちいいのかスリスリしている。

 俺も気になってスリスリしてみた。

 おぉ、これはちょっとクセになる。

 さすがリアル。感触がばっちりあるぜ。

 それにこの透き通るような白さ。


「…ボンビックスモリって?」

「カイコガの学名。」

「なんでそんなこと知ってるのさ。」

「…ネットで見た?」


 そう言いながらスリスリしていると、ダンッとテーブルが叩かれた。


「それ、超高級物なんですよ!? それ一巻きであの研究所5個は建ちますよ!?」


 穏やかな浪漫紳士フリオさんだった。


 俺は前から思っていた。

 でかさの具合を示す時、東京ドーム何個分とかよく言われるがあれ、全くぴんとこなくないかと。

 元になるもののでかさにある程度の知識がないと、比較するものとして値しないのではないかと。


 だから、正直、あの旧世代遺物研究所の設立にいくらかかったなんて知らんわけで、なーんにもぴんとこない。


「それを素手でスリスリと…傷んだらどうするんですか!?」


 それを聞いて、シズがビクッと手を外した。

 俺でもわかるよ? 高いんだね、これ!

 じゃあスクリロメノン染めのやつは死蔵決定だね!!


「ですがここまで見事な品は久方ぶりに拝見いたしました。」


 バルゾフさんもモノクルをくいくいやりながら見ている。

 思わず触りますか?と聞くと、フリオさんに怒られた。


「ジキルー、これ、クソ高いってよ。」

「じゃあ、なんか風合いが似た布ない?」

「んー…これは?」


 取り出したのはモニュートの繻子織。

 モニュートってのは岩山にいるヤギみたいな生き物だ。

 たぶん、モデルはカシミアヤギなんだろう。

 実際カシミアの方が高いが、なんせリバクロでは元からついてる氷結耐性しかないもんで扱いは微妙だった。

 しかも染色には一回脱色する手間があるため、本当に好まれない。

 でもさすがリアル。

 手触りが半端なくよい。


「繻子織って…サテンか…悪くないな。ちょっと厚いけど柔らかい。」


 ジキルの発言にシズも近寄ってくる。

 そんなシズをジキルがこっちこいして、シズにも布を触らせる。


「セイジ、これは量ある?」

「こっちの方は全然まだある。」

「なら、お揃いでコート作ってもいい? ダメならポンチョ! それでもダメならストール!」


 その声に、モニュートの手触りにうっとりしていたシズも顔を上げる。

 その目はキラッキラだ。

 これ、手触りやばいくらいいいもんな。


「いいけど…この色?」


 モニュートは薄ら灰色がかった白で、暗めな色が好きな俺からするとちょっと派手すぎる。


「毛織物の染色と一緒だと脱色が先? いや、そうすると傷んじゃう…。」


 もしかしたら、この子はジョブのスキルなんて使わずに己の手だけで物を作り出そうとしているのかもしれない。

 メインキャラのジョブは鍛治師とは言っていたものの、このうっかり具合からすると、話に全く出ないことからスクリロメノンの存在を知らない可能性がある。

 そうなった場合、レベル不足で生育場所的にモニュートと出会えていなかった可能性もある。

 布の中で染色するのは上位のレアモノに複数効果をつけるためか、Wストレージを着飾るため。

 腕のないプレイヤーはそもそも上位のレアモノになんてお目にかかれないから、必然と錬金術師が練習で作った適当な布を使うことになる。

 なまじリアルで腕があるおかげでゲーム知識に頼らないのだ。

 だから気付かないのだろう。

 錬金術師がランク上げの一貫で布を染めまくっていることを。

 そして、その錬金術師がすぐ横にいることを。


「だから、それも超高級品っ!! むしろそっちの方が高い!!」


 俺の思考を止めたのはフリオさんの絶叫だった。


「モニュートですか!? 絶滅しましたよ!?」

「うっそぉ〜…。」

「本当です! 300年程前に絶滅してなんとか複製して作られはしたものの、品質が何故か悪く…現存するのは竜王国の国宝になっていますよ。」


 これもダメか。


「シズ、いっぱい触っとくんだよ?」


 ジキルがシズに触るように指示する。

 シズは言われるがまま、モニュートの繻子織をサワサワしている。


「本当にいいものだけ触っていれば、いいものと悪いものと区別がつくようになるからな?」

「うん。」


 ジキルはシズをどうしたいのだろうか。

 江戸時代の呉服問屋に奉公に来た子どもは質のいい生絹だけを覚えさせられて、目利きの腕をつけさせられると何かで読んだ。


 と、そこではたとジキルが顔を上げる。


「え、シズ、ネコ耳つけてるの?」

「うん。セイジがくれた。」


 やっと気付いたようで、その視線がぴこぴこと動く耳、ふりふりと揺れる尻尾に釘付けになる。


「これ、自動で髪色と馴染む、上位素材使ってるやつじゃん!?」


 おぉ、ビーノがまいていたから、ケモ耳にいいも悪いもあるなんて知らなかった。


「セイジ!」

「ん?」

「僕、ウサギがいい!!」


 まぁ、メジャー路線だといっぱいあるからいいけどさ。

 うん。ジキルはジキルだった。


 ビーノ謹製ウサ耳を渡すとジキルは即装着した。

 毛が髪色と同じ薄水色になる。


「どう?」


 耳をぴこぴこさせて聞いてくるもんだから素直に答えた。


「うん、かわいいよ。」

「…そ、そっかな?」


 自分で聞いといて照れるなと思いつつ温かい目で見てしまう。

 するとシズもジキルのウサ耳をよく見ながら頷いた。


「ジキルかわいい。似合ってる。」

「そう?」


 嬉しそうなジキルの尻にシズの魔の手が伸びる。


「きっと尻尾もかわいいよ。」


 ギュッ。


 ジキルの音のない悲鳴が上がる。

 シズもシズだった。

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