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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
23/47

22 勘のいいガキ(500才↑)

 正直、すごく怖い。

 1体とは言え、目の前には人化できるドラゴニュート。

 本気になれば俺なんて塵にできる。


 それでも、びびっているわけにはいかない。


「これ、見たことあります? ダンジョンやどこかへ行く途中、休む為に使うやつなんですけど。」


 フリオさんはただ、首を横に振った。


「店で売っているか、錬金術師に作ってもらうことになります。素材自体は簡単に集められます。」


 ポーション、MPポーションの次に覚える初級のやつだ。

 この香炉を炊いてさえいれば、この中に敵が入ってくることはできない。

 この中でHPやMPを回復させたり、救援を待ったりさせたものだ。

 対戦中に使うことはできないが、今回はバルゾフさんがシズにペースを崩されかかりきりになっていたのが幸いした。


「セイジさんもこれを作れると?」

「その辺りも含めて『契約』していただければお話ししましょう。」


 フリオさんは少し考え込むと、頷く。


「条件は君たち3人の心の体の自由?」

「この領でお世話になる限り、ここの法律に基づいてで構いませんが軟禁でもなんでも我々に拘束具をつけることはやめていただきたい。」

「法を犯した場合は拘束されると?」

「それはここにお世話になっている以上、従わねばならないでしょう。ですが違えた場合、報復行動を取ります。」

「…それは、問題ない…かな?」


 ここからは通るかはわからない。


「…追加で、バルゾフさんの我々への一切の攻撃を禁止していただきたい。」

「…バルゾフの?」


 怪訝そうに顰められたフリオさんの眉。

 だか、これは死活問題だ。


「あの攻撃力で力押しされたら『契約』なんてあってないようなものでしょう?」


 黙り込む、フリオさん。


「…あの人、『雷帝』ですよね?」

「…知っていたのかい?」


 俺はそれに微笑むだけで答えた。


「いくら穴のないように契約を結んだところで、盤をひっくり返されたらたまらないんですよ。」

「でも、バルゾフが勝手に動く可能性も…ないとは言えない。」

「でも、あなた、命令できる立場でしょ?」


 フリオさんは顔を硬らせて黙り込んだ。


「…彼女を起こすのに、我々の力が必要なんですよね?」


 忘れてないぞ、女神様。

 茜ちゃんに似ている気がするあのアーケイン様に対するフリオさんの執着は異様だった。


「そのためにも…我々の秘密をお話しする必要があるんです。」

「だが…彼女のことは…。」

「話すのがまずいならば話しませんが、彼らの力も借りる必要があると思います。」

「…3人ともできることが違うと?」

「少なくともジョブは違いました。」


 フリオさんの目が揺れる。


 対象者 : フリオ・ゼル・バルミエ

 内容 : セイジがヒューマンとそのヒューマンを囲う者についての秘密を話す代わりに、セイジ、ジキル、シズは法律に背かない限りその身と心の自由を保証する。なお、何があろうともバルゾレイニフにこの3人を攻撃させないこと。


 俺の飛ばした『契約』は少し間を置かれてから、承認の返答が来た。


「…私の名前、ちゃんと覚えていたんだね。」

「じゃないと、危険ですから。」


 俺も承認する。

 緑色のキラキラエフェクトが出た。

 それを眺めながらフリオさんが呟いた。


「この花緑青は…呪いなのかな?」


 俺からしてみれば、ただの『契約』エフェクトだ。

 あと、なんでこの人は色を雅に言わなければ気が済まないのだろうか。


「では、お話ししましょう。」


 そう言うと、フリオさんが姿勢を正した。


「まず、ヒューマンとそのヒューマンを囲う者の関係ですが、囲っているわけではありません。おそらく、本人です。」

「…本人? そのヒューマンと…その他の種族の人間が同一人物…ということかな?」


 さすができるドラゴニュート。

 話が早い。


「そうです。2人で1人なんです。」


 フリオさんの青緑色の目が俺を写す。


「では、セイジさんにも別の姿が?」

「そうです。ジキルにも、シズにもあります。皆、家にいるヒューマンにアイテムを預けるんですよ。」

「だからヒューマンは家からでない? あの何もないところからアイテムが出てくるのもヒューマンの力?」

「そう思っていただいていいです。」


 フリオさんが考え込んだ。

 俺は机の上の紅茶を飲みながらそれをただ見ている。


「もしかして…その弊害で彼らは動けない?」


 さすがフリオさん。

 もう、さすフリでいいや。


「そうです。動かないけれど周りは見えるし、音も聞こえる。」

「ならばあそこで彼らが動かなかったのは…。」

「単純に動けないからです。そして、動き方を知らなかったからでしょう。」


 フリオさんもカップに口をつけた。

 口の中が乾いているのだろう。

 先が二股に割れた舌で唇をなめている。


「セイジさん…あなたは2人に何を言った? 2人に何をさせた?」


 勘のいいガキは嫌いだよ!なんて言ってみたい。

 フリオさんの方が年上だけど。

 それに、こちらとしてはその方が話が早くて楽なんだけど。


「このまま消えるか、動くかの選択をしてもらいました。」

「…その代償は?」


 想像がついているんだろう。


「所持アイテムの半分以上の破棄です。」


 フリオさんが香炉の効果外にいるシズとジキルを見た。


「我々がヒューマンである以上、基本的には動けません。なので、我々のもう1人である人格がフリオさんが望む生産職を持っていたことになります。なので、やり方は知っている。」


 そこでフリオさんは思い出したようだ。


「え、あれ、ジキルくん、彼、鍛治師って言ってなかった?」

「ソウデスネー。」

「なのに彼、服とアクセサリーいっぱいって…。」

「そうなんですよー…。」


 ジキルと俺を交互に何度も見直している。

 何度見たって残酷な現実は変わらないんだぜ?


「生産職系のものは残しとけっていったんですけどねー。」


 フリオさんがわなわなと震えている。


「俺もさっき聞いた瞬間、マジかよって思いました。」

「そんな…貴重な…鍛治の知恵が…。」

「ちなみにシズは薬師だったそうで、それ系の残してくれてるみたいですよ。」

「…鉱物…鍛治…。」


 相当ショックだったようだ。

 大丈夫、俺もびっくりしたから。


「…ジキルくんは鍛治師。シズくんは薬師。じゃあ、セイジさん、あなたは?」


 それでも頭が回るのはさすが。


「それもあるので、実際に何か作れるか試していいですか? それによって色々変わってくるので。」

「それに……何故、君だけ動けたんだい? 君は何の代償を払ったんだい? それに何故他の種族は復元できない?」


 なんとなくわかることと、全くわからないことがあって、俺もその辺は混乱している。

 ただなんとなく復元できる条件は、あの日インしていたキャラ。な気がしている。

 その辺、ジキルとシズに確認しなきゃだけど。


「…君は、元から囲われていない…いや、違う。その姿で外に出ていた。そうだね?」

「それは正解です。」

「じゃあ、君は…何を失ったんだい?」

「俺もそれがわからないんですよ。…この世界、わからないことだらけなんです。」

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