21 直接対決
「昔は匂いで判別できたんだけどね、今じゃ判別できる方が難しい。あれはでは獣人にしか見えないよ。」
フリオさんの目は釘付けだ。
俺はちょっと準備をし、それを終えるとそれにこたえる。
「ですが、問題点もあります。」
そう言って俺もケモ耳を装着した。
俺は少し茶色混じりの黒髪に黒目なもんで、その色味に合わせた色の動物ならなんでもいいやと適当に手に取ったのはラーテルだった。
「…クマ? かな? 少し白い毛が入っているようだけれど。」
フリオさんも首を傾げる。
「ラーテルだそうです。イタチ科の。ミツアナグマとか呼ばれるんでクマっぽいかもです。」
ビーノがテレビで見て作ったやつだ。
すごい獰猛で強いやつがいると作ったはいいが、目立たないせいで使い所も何もなかったやつだ。
「…イタチにそんな種族いたかなぁ?」
この世界にはいないっぽいのはまずいかもしれない。
それでも説明のためにつけただけなのでまぁいいだろう。
「これを見て…何か思いませんか?」
フリオさんがじっくり俺を見る。
するとすぐに違和感を覚えたのか、シズの方を見てまた俺を見る。
「耳が…2種類あるね?」
そう、このケモ耳カチューシャ、最大の問題点はヒューマンの耳が消えないことだ。
頭の上部に一対。
ヒューマンの顔の横にある一対。
「…それは、どちらの耳で集音しているのかな?」
「たぶんヒューマンの耳ですね。」
「でも、そちらの耳も…動いてる…よね?」
耳も尻尾も感情に合わせて動く。
リバクロ内だと待機中は尻尾だけがフリフリ。
あとは感情を表現するための『リアクション』という機能に合わせて固有の動き方をしていた。
それがあったのでこちらの世界でも動くとは思っていたが、ちゃんと音がする方へ自動で向いたりするようだ。
「このヒューマンの耳を隠さなければ、獣人にはまず見えないでしょう。」
髪を下ろしているシズは誤魔化しが効くからまだいいが、俺は髪が短いし、ジキルはそもそもくくっている。
しかもあの様子だと頻繁に髪型を変えそうだ。
「その辺りはジキルに何か対策で作ってもらう必要があるかと。」
「それさえなければどう見ても獣人だものね。」
フリオさんがしげしげと見る俺の耳。
そんなことより、俺には気になることがあった。
尻尾だ。
尻尾が出したい。
まず何より気持ち悪い。
あと、根本が変な方向にいっていて痛い。
そこまで長い尻尾じゃなかったからまだマシなのかもしれないが、これはちょっといただけない。
俺はそっと腰を浮かせると、背中側から手を入れ、尻尾をパンツから出した。
思い切ってパンツはずり下げた。
それじゃないとまた尻尾がパンツに逆戻りして、また尻が尻尾の毛でチクチクしてしまう。
が、今度はズボンが邪魔になる。
この細袴はまだ余裕があるからいいが、細身のやつだととてもじゃないが無理だ。
うん、穴あけよう。
俺がそう思っていると、フリオさんは笑っていた。
「セイジさんも下着に穴を開けるのかな?」
「じゃないとちょっと…きついですね。」
「私は尻尾がないからわからないけれど…獣人は皆専用の服を着ているからね。」
俺もメインキャラはドラゴニュートだった。
だからわかるが、ドラゴニュートの尻尾は尻尾ではない。
あれは尾だ。
同じ意味なのはわかっているが、尾って感じだ。
そもそも全身鱗に覆われている挙句、床に付くほど長い。
先に行くほど細くはなるが、付け根のあたりはかなりの太さだ。
そう言えば、ドラゴニュートの時はパンツなんて気にしたことなかった。
だからフリオさんもその辺気にならないのかなぁと思いそちらに目をやると、フリオさんが片眉を上げる。
「なんだい?」
「いえいえ…。」
こんな紳士として振る舞っているのにノーパン。
下半身フリースタイル。
俺は浮かんだ邪念をかぶりを振って散らすと、フリオさんに向き直った。
「この『耳』ですが、まだ何種類もあります。しかし、作ったのは俺の友人です。」
「例の鍛治師の?」
「そうです。彼はドワーフでした。」
それに、今は存在しないとの意味を理解し、頷くフリオさん。
「お気付きとは思いますが、俺は様々なものを取り出す術があります。」
「あの彼らがやっていた謎のものを取り出す術だね?」
「そうだと思います。」
リバクロプレイヤーがどこからか大量の物を取り出す術。
ゲームをしている側からしたら当たり前だが、何も知らない人が見たら魔術か何かだと思うだろう。
これは俺たち、全員ができた。
問題はその持っているものの中身だ。
ジキルとシズは『ストレージ』を片方放棄したため、それらの大部分は失われている。
見てないからなんとも言えないが、ジキルはほぼ装備品とアクセサリー。シズは薬師のジョブで使えるものと偏っている。
俺本来の錬金術師、ビーノの鍛治師、μの薬師、LINDAの調理師あたりのものに加えてアカツキを含めたメンバー所有のアイテム、素材を大量に持っている俺は、フリオさんも取引する価値が十分にあるだろう。
「ではまず、お話を始めるにあたって、最初の『契約』を結んでいただきたいと思います。」
フリオさんが姿勢を正す。
「まず、これからお話しすることを誰とも共有しない。そして、こちらも全てを理解しているわけではありません。その上でお話しするということを理解していただきたいのです。」
「誰とも共有…バルゾフやアミナもかい?」
「信用って、大事ですよね?」
笑うって言うと、フリオさんは苦笑する。
「おや。彼らは信用するに値しないと?」
「秘密は人が増えればそれだけ漏れやすくなります。それに、アミナさんは出会った時がちょっと…。」
水槽から全裸で排出事件後のアミナさんの行動を知っているのか、フリオさんは眉を顰めた。
「少しでも情報が欲しかっただけなんだけどね? …バルゾフは?」
「単純に力押しされたら勝てないでしょうから。」
「…そうだろうね。やはり、バルゾフが何か知っているんだね。」
フリオさんがバルゾフさんの方に目をやる。
と、その動きが止まり、俺の方をゆっくりと向いた。
「セイジさん…君、何かしてるよね?」
やっと気づいたかと俺は頷いた。
最初にした準備。
それをフリオさんは気付かなかった。
装衣の裾からその準備したものを取り出す。
「…それは?」
「魔道具です。効果はこちらの話が一切聞こえなくなります。こちらの姿も認識し辛くなり、気配も遮断します。」
机の上に取り出したのはダンジョンなどで休む時に使われる魔道具。
掌の上にのる、小さな香炉のような銀色のそれは、淡い紫色の光を発し続けている。
「最初から、私とだけ話すために?」
「…秘密を共有する人は少ない方がいいでしょう?」




