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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
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20 シズvsオムツドラゴン

「こちらがまず1番に知りたいのは、あなたの持つ能力です。」


 フリオさんの指示でバルゾフさんがテーブルに大きな紙を広げる。

 促されるまま、それをのぞいた。


「文字は大丈夫ですか?」

「ええ…問題ありません。」


 俺にひっつき虫になっているシズも頷く。


「これは…あなた方の言う、ヒューマンを囲っていた者たちの職業のリストですか?」

「ええ、こちらが確認できたものだけですが。」


 そこにはリバクロの主に生産系のジョブが並んでいた。

 薬師、鍛治師、錬金術師、料理人。

 色々並んではいるが、農家や漁師なんていう第一次産業系は見当たらない。

 並んでいるのは街で店を構えていた生産系だけだ。


「まず、欲しいのは薬師。ポーション類はロストテクノロジーでいくらあっても困りません。もし、作れるのであれば優遇いたします。」


 やはり、ゲームのプレイヤーがやっていることは細かくはわからないようだ。

 ポーションを作るのは薬師と錬金術師。

 ランクによって良し悪しは関係あるが、ただ出来上がった『ポーション』に差はない。

 錬金術師が作ったポーションと薬師が作ったポーションの見分けがつかないのではないだろうか。


『シズ:セイジ、私のメインキャラ、エルフで薬師だった。ただあんまり強くないみたいで、レシピ本はいくつかあるけれど等級が書いてあるのは初級しかない。どれが必要かわからないけれど、それっぽいのは全部残してある。』


 シズは俺の後ろでコソコソ調べていてくれたのだろう、情報を教えてくれた。

 ならばうちのギルドの薬師μ(ミュー)からもらったもので補完すれば、薬師にはなれそうだ。


 だが問題は、俺たちのジョブが生産職ジョブではないということ。

 俺はストレージとアサシン。

 ジキルとシズはストレージのみだ。

 このリアルっぽい世界でゲームのように教本を持っているだけでジョブを得、技術を使いこなすのができるのかがわからない。

 薬師に鍛治師、どちらも全等級のマニュアルとレシピは持っているが、使いこなせるかは別だ。


「こちらの能力についてお話しする前に、1つフリオさんたちが勘違いしていることについてお話しする必要があります。」


 フリオさんとバルゾフさんがこちらを見る。


「ですが、その前に『契約』していただけますか?」

「あぁ、勿論。ただ…条件は精査させてもらうよ?」

「構いません。」


 バルゾフさんが用意し整えたテーブルに俺とシズが並んで座り、その向かいにフリオさんが座る。

 テーブルには大きなタブレットPCのようなものが置かれ、そのまま書き込めるようだ。


「まず、君たちがこちらに望むことは?」

「心と体の自由です。」


 フリオさんが目の前のモニタに書き込む。


「その範疇は?」

「単純な拘束はもちろん、行動規制もしないでいただきたい。この街の民として行動したい。そう言う意味になります。」


 それも書き込むと、フリオさんは考え込んだ。

 そして、『この街の民」の所を指差す。


「これは難しいかもしれません。あなた方が、ヒューマンにしか該当しないからです。」


 ヒューマンの価値は理解している。

 自由には危険も伴うことも。


「街の人々が物盗りなどに襲われた場合、反撃することは許されていますか?」

「あぁ、勿論。私の領には警邏隊もいるし、捕縛なら関しては彼らが対応するよ。」


 警邏隊ってのが日本でいう警察みたいな仕事をしているのだろう。


「…ねぇ、反撃して、相手に治らない怪我をさせたり、殺しちゃっても大丈夫なの?」


 黙っていたシズが口を挟む。


「わざと怒らせて、怪我して…それでもこっちが悪いの?」


 過剰防衛やはめられだ場合を想定しているのだろう。

 それに、俺の所持枠の中にはいわゆる『犯罪の証拠』が今もある。

 フリオさんもそれは知っているはずだ。


「汚い話をするとね…証拠がなければ、捕まって裁かれることはないんだよ。」

「…ふーん、証拠がなければいいんだ?」

「…そうだね。」


 フリオさんは相変わらずにこにこと笑っている。

 背後のバルゾフさんも変わらず。


「…わかった。ありがとう。」

「いえいえ。」


 俺だけが、首筋に寒気を感じていた。


「エルフでもない、獣人の耳があるわけでもない。そして、我々ドラゴニュートでもない。外見的特徴がどれにも当てはまらないので、そのまま往来を歩くのは危ないと思うんだ。」


 シズは目の前のドラゴニュート2人をじっと見ている。 

 彼らのヒューマンとは違う特徴にはすぐ気がつくだろう。


「それに関してはどうにかなると思います。」


 俺にはこの外見の問題をクリアできそうなものにあたりがあった。

 そう、鍛治師ビーノ渾身のケモ耳カチューシャだ。


「シズは動物だったら何が好き?」

「うーん…猫は好きだけど、あのネコと一緒は嫌。」


 その視線の先にはアミナさん。


「色がちがければいい?」


 頷くシズの頭に取り出したネコ耳カチューシャをセット。


「おや?」

「…これはこれは。」


 なんだろう、発言のせいで全く驚いている感じはしないが、これでもこのドラゴニュート2人は驚いているんだろうか。

 シズの頭には黒いネコ耳があった。

 ビーノ特製カチューシャの凄いところは、この髪色と同じケモ耳が生えてくるところだ。

 リバクロでの2Dアバターの耳が動いていたことからいけるかなと踏んでいたが、こうしてみるとなんの遜色もない。


「なんか…頭、痒い。」


 そう言って頭に手をやるシズ。


「ん!?」


 驚いたのだろう、シズの感情に同調するように動くネコ耳。

 

「感覚がある…耳?」


 そして、なんと同色の尻尾も生えるのだ!


「…パンツ…気持ち悪い。」


 容赦なくワンピースに手を突っ込んでパンツ……モラルをいじるシズ。

 パチンパチンゴムの位置を直している。


「なんと…レディが…。」


 バルゾフさんが目を見開いてる。

 長いドラゴニュート人生において、パンツのゴムを目の前でパチンパチンやる女はいなかったらしい。

 残念ながら俺の妹静香はやるタイプの女だったし、痒いとパンツ線を掻く女だったぞ!


「大丈夫…食い込ませた。あとでジキルに穴開けてもらう。」


 一仕事終えたと言わんばかりにシズがふーっと息を吐く。


「…獣人用の下着でしたら尻尾の対応もできますので。」


 あわあわしているバルゾフさんなんてなかなか見れるもんじゃないだろうに。


「? パンツに穴開けちゃダメなの?」

「いえ、だめというわけでは…いや。」

「でも邪魔だよ? 食い込んでると痛いよ?」


 シズの猛攻は止まない。

 フリオさんは楽しそうにそれを見ている。


「バルゾフを怯ませるなんて…シズくん、いいね。」


 やっぱりこんなバルゾフさんは滅多に見れないらしい。


「レディがそんな…!」

「レディもパンツが食い込めば痛いよ? やっぱり、パンツ大好きなんだね?」

「好き!?」

「オムツオムツ言ってた。オムツもパンツも大好き…すごいね。」

「そんなことはっ!?」

「そっか。オムツじゃなくておしめだったね。さっき自分で言ってた。ごめんなさい。」


 執事服をパリッと着こなす老紳士をおちょくる少女。

 地味に凄い絵面だな。


「とりあえず、尻尾に干渉しない下着はある。アミナにでもあとで用意させよう。」

「それは…助かります。」

「それよりも、あの耳。あれは何だい?」


 フリオさんはバルゾフさんを見捨てたようだ。

 

「あれは見たことがない! いや、見ても気付かなかったということかい!?」


 古代技術に浪漫を求めるフリオさん。

 とりあえずバルゾフさんを剥がしてくれたシズに感謝。

 これで俄然、交渉がしやすくなった。

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