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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
20/47

19 きっと若い頃は肩パッド入ったスーツ着てたんだよ!

 アミナさんのジキルの手首を掴む手が少し強くなった気がした。

 が、ジキルは気づいていない。

 フリオさんもバルゾフさんも何もなかったかのようににこにこしている。


『シズ:セイジ、どうする?』


 やっぱりシズは気付いていた。


『セイジ:どうするもこうするもないだろう…バッチリ聞かれてるよね?』

『シズ:銀髪ドラゴンとオムツドラゴンはそういうの抜け目無いと思う。赤毛ネコは仕掛けた本人だから当たり前。』


「…いっぱいあるんだ?」

「うん、殆ど僕が作ったやつだけどね。」


 もう、セルフィオーネさんといううっかり眼鏡がいない今、うっかりの名前を継ぐのはジキルしかいないだろう。


「服なら何でも作れる?」

「採寸して素材があれば…あと、デザインにもよるけど。」


 アミナさんのジキルの手首を掴む手が強くなる。


「お金払うからオーダーしてもいい!?」

「え、服作っていいの!?」


 あ、そっち?

 そっちならこちらとしてはどうでもいいです、はい。


 が、そうは問屋がおろさない。


「アミナくん、…違うよね?」


 フリオさんだ。

 アミナさんは、何がと言わんばかりに首を傾げている。


「御主人様、わたくしいいテーラーと出会えたようでして、とりあえず今度の合コンに着ていく勝負服を作ってもらいますの。」


 そのアミナさんに肩を叩かれている、ジキル。

 どう見ても捕獲されているようにしか見えないが、そのジキルは考え込んでいる。


「ねぇ…勝負服って清楚系? セクシー系? 相手メンバーのランクは?」


 その問いにアミナさんは目を輝かせる。


「他領の領主館に勤めるメンバーよ。私のランクからすると特上。外せない…しくじるわけにはいかないのよ!」

「…相手にドラゴニュートなんていないよね?」

「まさか! 私レベルじゃ、手が出ないわ!」

「ドラゴニュートがいないなら…勝機はある。」


 ジキルの発言にアミナさんが首を捻る。


「でも、ドラゴニュートはガチのセレブなのよ?」

「いや、ドラゴニュートってなんか、センス…レトロ? なんじゃないの?」


 視線の先にはドラゴニュートずが用意してくれた服。

 言いたいことはわかるよ?

 全力でオブラートに包むと、世界史の教科書で見る感じの服。

 どストレートに言えば100年単位で古い。

 年齢を考えると200、300、それ以上も狙える。


「…あー…ほら、お年をめした方が多いから。」

「いや、それもおかしいと思う。だって、自分たちの服は別に古臭いデザインじゃないもん。」


 ジキルさん、人を指で指してはいけません。

 そう思ったが、言われてみればその通り。

 フリオさんは仕立ての良さそうなキャメル色のスリーピースのスーツ、バルゾフさんは黒のザ執事といった感じの燕尾服を着ている。

 それを考えると、あの俺たちに着せようとしたセンスが妙なのだ。


「私たちが古い時代の人だと思ってるからでしょ?」


 シズにそう言われて納得した。

 うっかり忘れていたが、俺たちの扱いは古代人だった。

 それも500年くらい前の。


「いや、あの人たち俺たちや他の人たちの服装を見ていたはずだからそれはない。」

「…そっか。」


 俺のアサシン初心者フル装備を見たことがあると言っていたフリオさんを覚えていたのだろう、シズも考え込み始めた。


「いや、燕尾服は制服。…セレブはスタイリストみたいなのがついてるだけでしょ?」


 ジキルがそう言うとアミナさんが頷いた。


「バルゾフ様は私がここに雇われてから一度も私服を見たことがないし、御主人様には専用のメイドがついているの。」

「え、あのおじいちゃん、寝る時もアレなの!? やばくない!?」

「お二人のネグリジェでも見たいの? 逆に想像つかなくない?」

「三角のキャップかぶってて欲しい!!」


 アミナさんとジキルは2人でキャッキャ言い始めた。

 まるで姉妹のようだ。

 雇われ人がこれでいいんだろうかとフリオさんに目をやれば、寂しそうな顔をしていた。


「私はね…昔からファッションセンスが…ちょっと、アレな感じでね。」

「っぼっちゃま! 泣かないでくださいませ!!」


 カオス。

 なんなんだろう、これ。

 でも確かにいるよね。

 制服やユニフォームを着ていればパリッとしているのに私服が残念な人。

 横にいるシズに目をやればにっこりと微笑まれた。


『シズ:このまま有耶無耶にできれば勝ち。』

『セイジ:ソウデスネー。』

『シズ:最悪ジキルを生贄にして逃げよう。』

『セイジ:コラコラ。』


 ジキルはアミナさんと何やら話し込んでいるし、フリオさんは机に突っ伏し、バルゾフさんはそれを宥めている。

 そんな賑やかな情景を、シズは静かに見つめている。


『シズ:ジキルはいいな。』

『セイジ:なんで?』

『シズ:やることみつかりそう。そうしたら居場所ができる。』

『セイジ:まさかの就職一番乗りっぽいもんな。』

『シズ:私なにもできない。』


 シズの頭を撫でた。


『シズ:あっちでもなにもできないからなにもしてなかった。』


 俺はただ黙ってそれを聞いていた。


『シズ:お父さんが学校行かなくていいって言うから行かなくなった。お父さんいないから、なにすればいいのかわからない。』


 小学たぶん4年生で不登校のシズ。

 それぞれの家庭で教育方針は違うから何とも言えんが、俺は学校は社会性を身につける場所じゃないかと思う。

 勉強だけじゃなくて、遊んだり喧嘩したり。


『シズ:あんまり…いいことじゃないのは知ってた。だから、セイジに声かけられた時、お父さんいないからチャンスかな…って。』


 シズはきっと賢い子なんだろう。

 それで自分なりに考えて俺の手を取った。


『セイジ:じゃあ、一緒にいっぱい考えて、いっぱいやってみようよ。どうせ、俺たちのこと知ってる人、この世界にいないんだからさ。』


 父親代わりとはいかないかもしれないけれど、少しでもこの子より長く生きている大人として導くなんて大それたことは言えないけれど、隣で歩くぐらいならできる。

 シズはただ頷いた。

 俺もやっぱり何かを続けて言えるわけでもなく、シズの頭を撫でる。

 そして2人で生き生きとしたジキルを見ていた。



「で、いい感じの空気を出してるところ申し訳ないんだけど…ジキルくんがまだ服を持っている。ということは、君たちも何か持っているんだよね?」

「え?」


 ニコニコのフリオさんがこちらを見ている。

 その後ろに控えるバルゾフさんもニコニコだ。


『シズ:有耶無耶失敗。』


 知ってる。

 ワンチャン誤魔化されてくれるかなって思ってたけど、無理だろうなって知ってた。


 シズが俺の装衣の陰に隠れる。

 俺もシズを守る体勢に入った。

 離れた場所にいるジキルを確認するが、アミナさんと紙に何やら書きながら喋っているから…まぁいいや。

 たが、ドラゴニュート2人。

 この装備で耐え切れるとは思えないが、ここでスクリロメノンを出すのは悪手だ。

 最悪シズだけでも逃すかと思ったが、何も持っていないシズをこのまま放り出すわけにもいかない。

 

 バルゾフさんが一歩前に出た。

 雷帝バルゾレイニフ。

 魔素が少なく魔術が大して使えないこの世界であの広範囲の多重雷撃が出せるとは思わないが、そもそもの身体スペックが違う。


「…おや、セイジ様。もしかして、以前お会いしたことがございますでしょうか?」

「…さぁ、俺の記憶にバルゾフさんとお会いした覚えははありませんが?」


 集団の中の俺を認識しているとは思えない。

 それにバルゾフさんとは会ったことないし?

 俺が会ったのドラゴンのバルゾレイニフさんだし?


「…バルゾフ、やめなさい。」


 バルゾフさんがこちらに出した殺気を抑える。


「セイジさん、私はあなたと『契約』したいのですよ。できるだけ、対等でありたいと思っています。」


 かなりの譲歩だ。


「…では、内容をつめましょうか?」


 シズの俺の装衣を掴む手が更に強くなった。

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