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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
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01 覚醒は全裸で

 どうやら眠ってしまったようで、意識がじわじわと覚醒してくると、今の自分の状態がよろしくないことに気付いた。


 俺、水中。


 しかも、薄い緑色で少し粘ついている気がする。

 よく見ようとしても、ほんの数センチ先も見えない。

 しかも体に何か巻き付いている気がする。

 こんな薄汚れた水、見たことあるなぁ。なんて思ったら実家で飼ってた金魚の水槽の水で、あのえぐい臭いを思い出して吐き気がした。


 ということは、だ。

 この目をかっぴらいて見ている状況は、俺の近視でも遠視でもないこれからの人生末永く健やかに共にありたい眼球にとってよくないのではないだろうか?


 そう思うと、是が非でもこの汚水から脱出せねばと暴れてみた。

 ガボガボと水をかいて動くと、指先に何かが当たる感覚。

 それはつるりとしていた。

 それだけじゃわからないので腕を伸ばし、左右に振る。

 どうやらこのつるりとしたものは板状にゆるくカーブしているようだ。


 嫌な予感がした。

 これ、どこかの水族館でアザラシかなんかが泳いでた円柱型の水槽みたいじゃないか、と。

 じゃあこの緑色の水、水槽の汚水確定じゃないか。

 体に巻き付いている何かは水草か何かですか。


 嫌すぎる。

 嫌すぎて、目の前の水槽を叩いた。


 すると微かだが、外で何かが暴れている様な音が聞こえた。

 なんの音だかわからないが機械音みたいなものと、内容まではわからないが複数の人の声。


 水族館で知らぬ間に人が水槽に落ちていました。

 そんな事件が起きたら大変だ。

 俺だってこんなことで全国ニュースにデビューなんてしたくない。


 その一心で水槽を叩き続けると、水槽の上部から何かが作動する音がした。

 すると足元の方から汚水が徐々に排水され始め、俺の頭の先が出るか出ないかになった時、水槽の全面が開いた。

 足元側に繋ぎ目があったようで、前面に開いた水槽に吐き出される俺。

 その間にドボドボと汚水は左右から排出され続ける。

 これ、床に側溝とかないと床びちゃびちゃで大変なことになるぞと思ったけれど、俺はそれどころじゃなかった。


 慌てて顔面についた汚水を右の手のひらでぬぐい、左手で体に巻き付いた水草を引きちぎる。


 そして、顔を上げた。



『起動シーケンス完了しました。復元シーケンス、異常なし。』


 

 機械音って言ったらこれだよね。

 そんな音声がスピーカーから流れてくる。


 周囲には、人、人、人。

 大勢の人が俺をびっくりした様な顔で見ていた。


「「うわぁぁぁあ!!!」」


 途端に上がる歓声。

 まるで、スペースシャトルの打ち上げに成功した管制室の人たちみたいだ。

 映画でしか見たことないけど。


 はしゃいで持っていたバインダーを放り投げる人。

 隣にいた人と抱き合い、肩を叩きあう人。

 各々が喜び合っている。

 そう、汚水に塗れた俺が生還したことで。


 もしかしなくても、ここは水族館ではないのだろうか。

 さっきから気にはなっていたが、汚水の中で目を開けていても痛くないのはおかしいし、そもそも息ができていたのもおかしい。

 それにさっきのスピーカーから流れてきた声、『起動』だの『復元』だの言ってなかったと。


 冷静に周囲を見渡せば、どう見ても水族館の水槽じゃないやつは、もうSFものでよく見るバケモノを培養しているやつにしか見えない。


 あと、気付かないようにしていたけれど、喜んでいる人たち。

 どう見ても人間ではない。

 頭にケモ耳生やしている人や、エルフみたいに耳が長い人。

 なんの言い訳もできないレベルで違う、どう見ても頭が動物の人。



 ここは、日本ではないのではないだろうか。

 


 よし、明日のワイドショーで恥さらしにならないですむぞ。

 そう思ったけれど、俺は全裸。

 周囲に散乱する水草もよく見れば、俺の体に繋げられたコードみたいに見える。

 脳波でも測っていたのではないだろうか。


 つまり、勝手に俺を全裸にし水槽に入れていたのは、全て目の前のやつらの責任ということになる。


 もう、公衆猥褻罪とか言われても、拉致監禁罪とかなんやらをたてにどうにか経歴に傷をつけたくない。

 人を意識のない内に水槽に突っ込んで培養するって、何罪が適用されるやら。




 なんてぐるぐる考えを巡らせていると誰かが近づいてきた気配がした。

 座り込んだままの俺は見上げる形になる。


 その姿は全身防護服の様なものを着て、手には金属のホースの様なもの。

 それは背負われた大きなタンクに繋がっていた。


 俺、これ知ってる。

 除染じゃね!?


 そう思った瞬間、向けられたホースの先から水が射出された。

 温かい水。

 勢いはそこまで強くなく、全裸の俺の肌にも優しい。

 まるでシャワーのよう。

 もしかして汚水を流すシャワーを当ててくれているのかなとも思ったが、どう見ても全身防護服の存在感が強すぎる。

 あと、その足元で光る魔法陣みたいなものも気になる。


 すると、そのシャワー担当の影に隠れる様にいたこれまた全身防護服が俺の方に手のひらを向けた。


 何かが俺を通り抜けた感じがした。


 何をされたかわからないが、某サイコロステーキのようにカットされていないのでとりあえずセーフだろう。


 その手のひらを向けていた方が頷くと、例の歓声をあげていた人たちが何やら喜んでいるのが見える。

 そうして、そのまま俺との距離を詰めた。

 書類かなんかを挟んだバインダー片手の人もいれば、タブレットPCみたいなの片手の人もいる。


 もう、察した。


 あの、手のひらを向けてきた全身防護服、あいつ、エルフかなんかなんだろう。

 そんで、あれは俺に魔法でも掛けたんだろう。

 ファンタジーものにそこそこ触れている俺にはわかる。

 あれ、『鑑定』とかなんかなんだろう。

 俺の体の中、すーって通り抜けたもんな。

 あれだろ? 俺が未知の病原菌とか持ってないか確認したんだよな!?


 案の定、集団の中から1人代表者が出る。


 後ろの集団がまるで、告白する女子を囃し立てるヤカラ系女子軍団に見えてきた。

 まぁうさ耳のおっさん(髭面)とかも混ざってるけど。

 なんなら男女比半々ぽいけど。


 その代表者に目をやる。

 長い薄い黄緑色したら髪を三つ編みにしている眼鏡のエルフの女の子だ。

 耳を見ればエルフってわかるから便利でいいわ。

 狼獣人に犬獣人って言って怒られるの、異世界もののテッパンだもんね。


 俺と目が合うと、その子は意を決した様に息を呑んだ。


 背後の軍団も息を呑む。



「あのっ…お加減はいかがですか!?」


 お加減?

 訳もわからぬまま全裸で汚水に突っ込まれ、培養たぶんされ、意識が戻ったと思えば洗車するかのような除染でばっちいもの扱い。

 これで『いい感じっす。ハハッ!』なんて爽やかに笑うメンタルは俺にはない。


「あの…言葉、通じますか?」


 途端、軍団もざわつく。

 共通語が通じないとなると、念話に切り替えるか。とか、耳が聞こえない可能性は。なんて話し合い始める。


 培養してたバケモノと、意思の疎通ができるか。

 そりゃ大事だよね?

 除染するくらいばっちいバケモノだもんね?


「….どうしよう、私、古代語なんてわからない。」


 代表者の眼鏡エルフがプルプルし始めた。

 その姿にガハハ系上司に放置されてテンパっている新入社員みを感じる。

 あの時は思わずフォローに入ったけど、笹川くん元気かなぁ。そう言えば笹川くんも眼鏡掛けてたなぁ。なんて思って、フォローすることにした。


「言葉はわかります。ただ、加減を聞く前に体を拭くものと着る物を何かいただけますか?」


 その瞬間、室内の誰もが黙った。

 皆こちらを向いている。

 

 そして、やっとこさ研究対象っぽい俺がびしょびしょ全裸なのに気付いてくれたらしい。

 軍団から数人が慌てて部屋の外に出るとすぐ戻ってきた。

 持ってきたタオルとかを眼鏡エルフに手渡し、凄い勢いで軍団の群れに戻る。

 そうだよね、まだ近づくの怖いよね。

 俺、ばっちいもんね。


「すみません…気付きませんで…。」


 そう言いながら眼鏡エルフがタオルを手渡してくれる。

 どうやら大判のバスタオルみたいだ。

 ホテル並みのふっかふかを期待したが、適当に洗濯している俺の家のバスタオルレベル。

 使えないことはないけれど、やっぱり扱い良くないなぁと頭を拭きながら思う。


 あらかた履き終えると、タオルと交換で服を手渡された。

 

 服をひろげる。


 嫌な予感がして、一度目線を外してからもう一度見る。


 見直しても、軍団も着ている白衣にしか見えない。


「えっと…これしか、今ここに衣服っぽいものが無くてですね。」




 俺、異世界っぽいところで白衣の下、全裸確定。

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