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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
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16 異世界パンツ談義

「バルゾフ…もう、ぼっちゃまはやめてくれよ。」


 人化したドラゴニュートが2体。

 これは、ちょっと勝つのは無理かもしれない。

 それを知っているジキルの顔も険しい。

 シズはリバクロの基本知識がないおかげでキョトンとしているが。


「ほっほっほっ、爺はぼっちゃまのおしめを変えた身、ぼっちゃまのお子様のおしめを変えるまでくたばれません。」

「それ、父さんの時も言ってたって言うじゃないか。」

「このバルゾレイニフ、この身朽ちようともぼっちゃまのお子様のおしめを変えるまではっ!!」


 ジキルのプレイ歴がわからないから知っているかわからない。

 ただ、俺は『バルゾレイニフ』の名に聞き覚えがあった。

 リバクロの最初期のレイドボス『雷帝バルゾレイニフ』。

 立ち上がったばかりの全ギルドが合同で立ち向かった、運営がバランス調整をミスったと言われているドラゴンの魔物だ。

 いや、だったはずだ。

 まさか、ドラゴニュートの完全獣化とは…。


『ジキル:セイジ…あの爺さん…もしかしてやばいの?』


 顔を取り繕えていなかったのか、ジキルが個別チャットを飛ばして来た。

 その顔には不安がありありと出ている。


『セイジ:もしかしたら、1番最初のバランス調整明らかにミスってておかしかったレイドボスかもしれない。』

『ジキル:…マジ?』

『セイジ:ドラゴンだと思ってたんだけど、ドラゴニュートだったなんて…。』

『ジキル:完全獣化するドラゴニュートなんて聞いたことないんだけど』

『セイジ:俺もだよ。馬鹿でかいドラゴンだったんだせ? "雷帝バルゾレイニフ"って言って、間髪入れずに全体化の雷放ってくるんだ。未だ忘れられないよ。』


 ジキルと俺の間に気まずい空気が流れる。

 が、リバクロ内の出来事も設定も何も知らないシズはシズだった。


『シズ:…おしめってオムツだよね? この世界、パンツはオムツなの? それともあのおじいちゃんがオムツが好きなの?』


「「ぶっww」」


 うっかり吹いた俺とジキルにシズ以外の視線が集まる。


『シズ:雷帝オムツドラゴン。』


「「ぐふっww」


 ジキルが恨めしそうにシズを見るが、シズは我関せず顔をしている。

 ジキルがあんな表情をしているのだから、それは無理だと思うぞシズ。


「おやおや、内緒話かな?」


 フリオさんがにこにこしている。

 個別チャットで話しているのがばれているのだろう。


「すみません…この世界の下着事情について話していたら、ちょっと…。」

「下着? そう言えばセイジさん、君の服を用意していなかったね。…バルゾフ。」


 指示を出されたバルゾフさんは美しいお辞儀をすると、音もなく退出していった。


「2人にも着替えを用意したんだけれど、セイジさんが来るまで何もいらないと言ってね。」


 フリオさんの視線の先、ハンガーラックにいくつかの服がかけられている。

 こっそり確認するが下着は見当たらない。

 そう言えばリバクロ内で水着や水着に準ずる装備はあったが、下着や鎧の下に本来なら着るであろうものについての描写はいっさいなかった。


『ジキル:まさか…下着はつけない文化なの!? 最悪褌?』

『シズ:大丈夫。銀髪ドラゴンも赤毛ネコも皆オムツ。雷帝オムツドラゴンもオムツ。…怖くないよ?』

『ジキル:パンツがないくらい怖くない! けど…落ち着かなくない?』


 ジキル、そうじゃない。

 あとシズ、呼び名酷いな。


 それはそうと、確かにパンツがないのは落ち着かないかもしれない。

 最悪、こっそり作るか?

 でも、自分のメインキャラの得意分野の錬金術にそんなレシピはなかった。

 もしかしたら、ゲームの枠組を超えたことでパンツ錬金でも可能になるのか?

 縫った方が早くないかとも思ったけれど、縫い物なんて取れたボタン付けくらいしかしていない。

 手持ちの中にゴムになりそうな素材はある。

 ただ、これが今のこの世界で採取できるかの問題がある。


「おや、セイジさん、ご心配なことでも?」


 黙りすぎたのかフリオさんが首を傾げている。

 いや、心配なことしかないからなんとも言えないけれど。

 それにパンツの話題はどうなのだろうか。


「ジキルがパンツがあるのかないのか心配してて、セイジはたぶん縫うしかないと思ってるんだと思う。」


 まさか答えてくれたのはシズ。

 ただ、その言い方はどうなんだろう。


「なんでばらすの!?」

「隠し事、よくない。」


 ジキルが半泣きでシズに勝ってかかるのを、フリオさんはにこにこ見ている。


「セイジさん、作るの?」


 フリオさんの『作る』が何気に怖い。


「針と糸があればなんとかなるかなぁ…と。」

「え、セイジ、縫い物できるんだ?」


 うきうきし始めたジキルに残念なお知らせ。


「ボタン付けぐらいしかしてないけど…頑張るよ。」


 ジキルの理想のパンツは無理かもだけど、ステテコパンツならなんとかいけると思うんだ。

 真っ直ぐ縫うだけだしな。


「え…布は?」

「フリオさんが服くれるみたいだから、この白衣掻っ捌いて作ろうかと。」


 じぃーっとジキルが俺の着ている白衣を見る。


「ちゃんと洗うよ!?」


 おっさんが全裸で着てる白衣なんてちょっとあれだもんな。

 どうにか洗濯してそれでステテコパンツを作ってみせる。

 俺は気合をこめてジキルを見るが、当のジキルの目は座っている。


「なら、僕がやる。」


 そして俺の白衣の裾を掴む。

 指先で材質を確かめているようだ。


「素人がやるんだったら、僕が作る。服飾科なめんなよ!?」


 服飾『科』。

 ジキル、高校生かよ。

 小学生のシズに高校生のジキル。

 これは色々気を遣わねばならんのが確定した。

 まぁ、薄らわかってはいたが。


「おや、ジキルくん、服が作れるのかい?」


 興味深そうなフリオさんに、びくつきながらジキルが頷く。


「…はい。そう言う学校に通っていたんで…パンツは作ったことないけど。」

「ほぉ…学校か。どこにあったんだろう? ヒューマンだけの学校?」


 フリオさんは更に質問を続ける。


『シズ:ねぇ、これ、ばらして大丈夫?』


 シズのチャットにジキルが体をびくつかせた。

 ここはどうにか誤魔化さねばだろう。


「ほとんどが店を開いている人が弟子をとる。みたいな感じでしたけどね。弟子が多いのは学校って呼ばれてました。」

「ほぉ、トルミラにも?」

「俺の知り合いは上位の薬師のところに頻繁に行ってましたよ。」


 かつてのギルド仲間、妖精族のμ(ミュー)の話をする。

 メインのジョブは盗賊だったが、サブは薬師だ。

 知り合いの自分よりランクが上の薬師のところでバイトしたりしていたから嘘ってわけでもない。


「そのお知り合いは?」

「妖精族です。」

「こちらで会ったりは?」

「いやいやいや、俺が水槽から出たてなのご存知でしょうが。」


 それもそうか、と残念そうなフリオさん。


「ジキルも装備だからどこかの鍛治師のとこか?」

「うん…流行ってる装備を作る人がいて、そこにいっぱい押しかけてた…うちの1人。」

「鍛治師が服飾もするのかい!?」

「えぇ。装備するものは鍛治師の領分でした。その中で武具専門だったり、アクセサリー専門だったり…そんな感じですね。」


 フリオさんかジキルをまじまじと見る。


「その細腕で槌を握るのかと思っていたよ。」


 その視線が嫌なんだろう。

 ジキルは自分の腕をさすりながら俺の後ろに隠れた。


「素材と工具があれば簡単なアクセサリーなら作れる?」

「たぶん、できると思う。」


 俺の後ろが落ち着くのか、そこでジキルはこくんと頷いた。

 それをかわいいななんて思いながら、もう1人のかわいい子に目をやる。

 するとシズはどうしたのと言わんばかりに首を傾げた。


 俺はちょっと気になっていた。

 この子、空気が読めすぎないかと。


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