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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第1章 心を壊した者
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05.神界

「招待するわ、私達の世界……神界へ」


 サラは目の前の大きな扉に手を掛け、ゆっくりと押して開いた。

 開いていく扉の隙間に、薄暗い室内からは想像出来ない程まばゆい光が差し込み、その場に居た全員を包み込んだ。

 あまりの眩しさに目を閉じ、暫くして目が光に慣れ始めた頃、漸く目を開いて目の前の光景を確かめる。


「わぁ……!」


 扉の向こうには草木が生い茂り、色鮮かな花が咲き、蝶が花の蜜を吸い、奥には森林が広がり、木々に小鳥が止まり、さえずりが聞こえる。その更に奥には町も見えた。

 どうやら、ここは町の外れにある草原の様だ。


「んん~!太陽さんさん、草木もにこやか!気持ちいいです♪」


 一足先に外へ出たチェルが、太陽の光を浴びて気持ちよさそうに背伸びをする。

 続いてサラとフォルスも外へ出て行きながら、一息吐いた。


「本当ですね。あんな薄暗い場に長居したら、精神がどうかしてしまいます」


「殆どその為に選んだ場所だけどね。本当に外の空気は美味しいわ」


 まだ施設内に居る全員に嫌味を言うかの如く言うと、その言葉が癪に障ったのか、全員が順番に外に出て行き、周りの景色を眺める。


「随分のどかな場所……都市じゃなくて、町みたいだな。さっきの中の様子からして、工業地帯みたいなとこだと思ってたんだが……」


「ここ何処?見慣れない景色だし、私の住んでる町の近所じゃないみたいだけど、誰か心当たりある?」


「いや、俺も知らない……」


「寧ろ海外に見えない?そんな遠くまで連れて来られたの……?」


 ここは何処なのか、誰かが知っている場所なのかどうなのかを、今まで説明された全てを無視し、各自確認し合いながら話している。

 まだそんな事を言うのかと、サラは呆れながら溜息を吐き口を開くが、


「だから、ここは貴方達の住む人間界とは違う、神の住む世界で――」


「まーだあんな事言ってる、本当ウザいんだけど!」


 サラの説明を無理矢理遮るように、メグムが私怨を込めて強く言い放つ。

 発言の邪魔をされたサラは少し考えると、左腕の袖を捲り、手首に付けられた小さな機械を操作して、素早く何かを打ち込み始めた。

 その機械は一見、腕時計の様な物で、形も大きさもそれと同等ではあるが、使ってる様子を見る限りスマートフォンやパソコンの類いに見える。

 しかし、普段自分達が使ってるそれらの機械とは逆に、形も大きさも違い、使った事はおろか、見た事すらない物だった。


「そうね、百聞は一見に如かずって言うものね。実際に見て貰った方がいいわよね」


 サラが打ち込みながら言うと、今度はその機械に向かって喋り始める。


「私よ。悪いんだけど、監視システムの映像にある例の物、纏めて小型機にバックアップして貰えない?もうすぐ着くから、お願いね」


 通話機能が搭載されているのか、誰かと話をしている様だ。

 サラはその機械を使い終えたらしく、捲った袖を元に戻すと町の方へ振り返る。


「じゃあ早速だけど、本拠地へ向かいましょう」


 まるで何も無かったかの様な振る舞いだった。

 そんなサラを見たメグムは、勝ち誇ったかの様な顔を浮かべてにやける。


「あらあら?さっきまで神だの何だの言ってた癖に、急に無視?ねぇ、証拠も根拠も無いからって神様ごっこ諦めちゃったの?だっさいわねぇ~?言い返せなくなって急にだんまりなんて、みっともないと思わないのぉ~?あんたら揃いも揃って、しょっぼいもんよねぇ~?」


 これでもかと嫌味を込めた私怨を、ねじ曲がった微笑みを浮かべながら、嘲笑う様にサラ達に向かって言い放つ。

 先程受けた痛みを忘れているのか、その様子からは恐れを全く感じない。

 何も考えず、ただ思うがまま嫌がらせを言っているだけだった。


「何ですかあの気色悪い顔は。新種のナメクジですか」


「後で塩掛けるから放っておきましょう」


 相変わらず罵るフォルスに対し、サラは完全に無視する事にした様だ。

 サラはそのまま町へ向かって歩き出し、その後ろ姿を見たフォルスはサラの様子を察して溜め息を吐く。


「仕方ないですね……ここは僕が取り締まりますので、チェルはサラと一緒に先に行ってて下さい」


「あ、はい……お願いしますね?」


 チェルもサラの様子を察したのか、フォルスの提案通りサラの元へと駆け足で付いて行った。

 二人を見送ると、フォルスは振り返り建物の前に留まる全員へ声を掛ける。


「皆さん、町に馬車を用意していますので、そこまで付いて来て下さい。まぁ路頭に迷いたければ付いて来る必要はありませんので、決断はご自由にどうぞ」


 それだけ言って、フォルスも町へ向かって歩き始めた。

 自分から取り締まると言っておきながら、連れて来られた者達全員を殆ど放置状態である。

 しかし、付いて行かなければ、彼の言う通り路頭に迷う事になってしまうと、全員が理解している為、また移動か、面倒くさいなどと小言を口にしながらも付いて行く者達が現れ、それに続いて一人、また一人と、少しずつ歩き始めていた。

 コザクラもユミとコハルと共に行動し、その後ろ、最後尾にメグムが歩く事となったのだが、


「あのサラって人、急に雰囲気が変わりましたけど、それって多分……」


「そうよね、絶対あいつが原因よね……」


「明らかに言い過ぎだと思います……」


 ヒソヒソ話をしながら、自分達のすぐ後ろを歩くメグムの姿を見ると、当の本人は腕を組みながら口笛を吹いていて、機嫌が良さそうだった。

 明らかに状況の不味さを理解していない。

 誘拐されているに等しい状況に置かれている上、神の魂を受け継いだ、神の世界だなどと、リアリティーのない話をする人達が現れて混乱状態だと言うのに、その誘拐犯の一人に対してあんなに強気で、しかも一度痛い目に遭っているにも関わらず、露骨に馬鹿にしているのだ。それも仲間達を巻き込んで。

 完全に火に油を注いでいる。

 この先にまだ何があるのか分からないと言うのに、あの態度だ。

 関われば飛び火を食らいそうで気が気ではなく、三人の不安に拍車がかかっていた。


(何事もありません様に……)


 心の中でそう祈るばかりだった。


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