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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第1章 心を壊した者
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04.罵倒

 

 そこから先は、まるで迷路の様だった。

 薄暗い空間を進んでは何度も扉に入り、階段を上り、上ったかと思いきや今度は下り、下りた先でまた違う扉に入り、そして複数に分かれた通路の一つを進んでは、また分かれた通路に差し掛かり、その繰り返しだった。

 チェルの言っていた通り、建物の中は複雑に入り組んでおり、辺りが薄暗いせいで少しでも離れれば二人を見失いかねない。

 その上、複雑すぎるせいで誰も通った道を覚えておらず、引き返そうにも引き返せない。

 もしそうしたら確実に迷子となり、そのまま取り残されて、本当に帰れなくなりそうだった。

 本当に帰れるのかという不安と、はぐれないように付いて行かなければならないという不安が交差し、気を抜いてしまえばパニックを引き起こしかねない。

 そんな緊張感が走る中、誰も口を開かずただ黙って付いて行っていた。


 そんな状況のまま十数分進み続け、一枚の扉を開くと急に開けた空間へと辿り着いた。

 相変わらず薄暗いままだが、目の前には天井から吊るされた巨大なシャンデリアが見える。

 そこから視線を少し下に下げると大きな階段が下に向かって伸びていて、ホテルのロビーの様な場所だった。

 階段を下りた先には大きな扉があり、その扉の前には人影があった。


「やっと来ましたか。予定より二ページも読み進みましたよ」


 目を凝らして見ると、扉の前には白衣を着た理系の少年が小説を読んでいた。


「前は五ページだったわ。早くなってるわよ」


「出来れば0を目指して下さい」


「早すぎても駄目なんでしょう?」


「当然です、読む予定が延期になるのは一番駄目です」


「なら二ページ位いいわね」


 サラと本の読み進み具合について討論しているが、毎度の事なのか喧嘩や口論には見えず、寧ろ挨拶に近い自然な会話に感じた。

 白衣の少年がサラとチェルの後ろに付いて来ている者達を見ると、読んでいた小説を閉じ、白衣のポケットに仕舞った。


「その人達が、例の人間ですか」


「えぇ、これで全員よ」


「私も微力ながらサポートしました~。誰一人欠けてません♪」


 白衣を着た少年が一通り全員に向けて一瞬の視線を配ると、眼鏡を直す仕草を見せてから自己紹介を始めた。


「掟を司る神テミスの後継神、フォルスです。科学班で日々実験と研究に明け暮れている錬金術師(アルケミスト)です。貴方達と親交を深める気など分子レベルも無いのですが、まぁ挨拶だけはしておきます」


 その皮肉と罵倒を含ませた、初対面とは思えない程失礼な自己紹介を聞き、殆どの者がカチンと来た。

 そして、口を開いたのはまたしてもメグムだった。


「あんたもこの二人の仲間?どいつもこいつも自分を神とか言って、頭腐ってんじゃないの?」


「腐っ……!?この人酷くないですか、フォルスさん!」


 メグムの怒りと苛立ちの込められた一言に、チェルは涙目になりながら傷付く。

 しかし、それに対してフォルスは呆れた様子だった。


「全くですね……でも安心して下さい。あの人は腐ってるどころか、原形を留めていない程にドロドロの汚物ですよ」


「はぁ!?」


 フォルスの挑発とも言える罵倒に、メグムは反射的に荒げた声を出し、サラに不機嫌サドと言われた時よりも大きな怒りと苛立ちが露わとなった。


「え?原形を留めていないって……じゃあ、あれは本来の姿じゃないんですか?」


「えぇ、ヘドロですから」


「誰がヘドロよ!」


「貴方以外誰がいるんですか。理解力の低さが異常ですね」


「至って普通よ!」


「声は公害レベルの五月蠅さですね」


「あんたが馬鹿にしたからでしょう!?」


「先に馬鹿にしてきたのは貴方でしょう、貴方自身の問題ですよ」


 水掛け論の如く、メグムが喋る度にフォルスから罵声を浴びさせられる。

 ああ言えばこう言うを繰り返し、何度も淡々と馬鹿にして来るフォルスに対して、メグムは早くも我慢の限界が来て、一気にブチ切れた。


「あんたねえええぇぇぇ!!」


 メグムの怒りはピークを迎え、拳を握り締めて、鬼の形相を浮かべながらフォルスに向かい、殴りかかる勢いで走り出した。

 しかし、


「――っ!?」


 あと一歩でフォルスに手が届く所まで距離を詰めた瞬間、メグムの目の前にサラが立ち塞がり、フォルスをガードした。

 急ブレーキをかけるかの如く、メグムの勢いは止まり、そのままサラの顔を見上げる。その表情は凛々しくも厳かに見え、そして微かな圧力を感じた。

 するとメグムは歯を食いしばり、強く握っていた拳をゆっくりと開き、今度は悔しそうな表情を浮かべながらゆっくりと後退りをした。

 そんな様子を見て、フォルスが一言。


「口ほどにも無いですね」


 火に油を注ぐかの如く、また一つ罵声を浴びさせる。

 それでもメグムは、フォルスに馬鹿にされた怒りよりも、サラにやられた恐怖心の方が勝り、足がすくんで何もする事が出来なかったのだ。

 そんな様子を見かねて、コザクラがメグムの元に駆け寄って肩に手を乗せる。


「メグムさん、落ち着きましょう。またやられてしまいますよ……」


「……分かってるわよ」


 コザクラに諭され、メグムはコザクラと共に渋々と二人から離れて行った。

 その一方でチェルがフォルスの元へ近寄り、不安そうに声を掛けていた。


「フォルスさん、喧嘩は良くないですよ?後でハーブティー淹れますので、落ち着いて下さいね……?」


「ん……申し訳ありません、人間相手に少々大人気なかったですね。お言葉に甘えて、後程ゆっくり頂きます」


「はい!ミコンも呼んでお茶会しましょう♪」


 チェルが初めに掛けたか細く弱々しい声が一変して、明るく華やかな暖かい声になる。

 フォルスが喧嘩をしていると心配していたらしいが、落ち着いて反省した様子を見て安心したようだ。


「さて、一悶着あったけど、無事に着いたわ。ここがこの施設の出入り口よ。ここから外に出られるわ」


 サラが扉の方へ振り返りながら言う。

 それを聞くと、連れて来られた者達全員が安堵の表情を浮かべた。

 長く複雑な道を進み続け、漸く辿り着いたのだ。安心しない訳がない。

 但し、これはあくまでも『一安心』だ。

 ここから先に何が待ち受けているのかは分からない。そういう意味では不安が残るが、今は誰もそんな事を気に留めたりしなかった。









 この先に待ち構えてる試練も知らずに……


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