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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第1章 心を壊した者
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03.神を名乗る者


 一同の頭に『?』が浮かぶかの如く、ポカンとした表情を浮かべる。

 神?ミネルヴァ?後継?

 あまりにも予想外かつ意味不明な一言で、誰も理解出来なかった。


「えっと、もしかしてあんた中二病?」


「聞いた事の無い病名ね?でも安心して。私は健康よ」


「いや、どう考えても中二病でしょ……?自分を神って、恥ずかしくないの?」


 こんな状況で何を言っているんだと、サラの発言に引き気味に答える。

 しかし、サラもその反応の意味を理解出来ていない様子で、眉間にシワを寄せ、右手の人差し指を唇に当てながら考え込んだ。


「――もしかして、虚言癖の事?だとしても安心して。私は虚言癖なんて患っていないし、神というのも本当よ。正真正銘、神の魂を受け継ぎ、幾千万の長い月日を生きているの。本当の事に恥ずかしいも何もないわ」


 考え抜いた結果、自分が嘘をついていると思われてるのではと思い、決してそんな事はないと釘を刺し、自分は本当に神であると主張した。

 そう真面目に考え、真面目に答えたサラを見たメグムは、遂に我慢が出来なくなり、


「ぶっはははははは!本気!?本気で言ってんの!?あんた、自分が神だって本気で思ってんの!?真面目そうな顔して、そんな中二病拗らせてるって、もう人として終わってんですけど!あっはははははは!」


 サラを指差しながら、声を上げて笑い始めた。

 まるでダムが決壊したかの様にゲラゲラと大声で笑い続け、それにつられるかの様に他の者達もクスクスと笑い始め、メグムと同じ様に大声を出して笑う者もいた。

 それでもサラは、自分が笑われている状況を特に気にするどころか、何故笑われているのかすらも理解しておらず、メグムを初めとした笑う者達をただただ眺めているだけだった。


「何も可笑しな事は言ってないと思うのだけど……とりあえず状況の説明はしておくわね」


 コホン、と咳払いをしてから、サラは一同に向けて状況の説明を始める。


「貴方達が今居るこの世界は、本来は貴方達が住んでいる『人間界』とは違う別の世界……神が住む世界『神界(しんかい)』よ。本来、生きた人間が神界に来る事は滅多にないのだけど、今回は特例が起きたの。それで貴方達は神に呼び出されて、今この神界に居るのよ」


「聞いてるだけで恥ずかしいよこの妄想癖女!」


 状況の説明を信じていない、それ以前に、サラが神だと言う事すら全く信じていないメグムは、笑う事を一切止める事なくサラを馬鹿にし続けている。


「だったら聞かなくていいわ、まだ終わってないけど。あと妄想癖でもないから安心して」


「あんたの心配なんか誰もしてないわよ!」


「聞いてるわね。じゃあ続けるわよ」


 笑って馬鹿にしてくるメグムに仕返しするかの様に揚げ足を取り、サラは説明を続ける。

 それが気に入らなかったのか、メグムは一瞬ムッとした表情を浮かべるが、特に何も言う事はなかった。


「それで、人間界で眠っている貴方達をこの場に集めて、全員の目が覚めるのを待っていたのよ。心理的に考えて、こんな薄気味悪い場所の方が、勝手に行動する事はなさそうだから、本来呼び出す筈の場所から離れたこの施設に集めたんだけど・・・予想以上に時間が掛かって、待ちくたびれたわ。これなら、初めからここじゃなくても良かった気がするわね」


 呆れる様に溜息を吐く。

 サラの説明が終わった時には、先程の爆笑が収まっており、ある程度は落ち着いている様子だった。


「そういう訳だから、今から私が貴方達をその本来呼び出す筈の場所、目的地まで案内するわ。本題はそこで事細かに話すから、本当に帰りたいって思っている人だけ付いて来――」


「待って、待ちなさいよ」


 サラの言葉を遮ったのは、またしてもメグムだった。

 メグムは目の前に立ち塞がって来た男性を押し退け、一歩前に踏み出すと、サラに対して嘲笑う様な態度で反論を始めた。


「あんたさぁ、さっきから何言ってんの?人間界とか、神に呼ばれたとか、中二臭い事ばかり言って……そんな非現実なファンタジーが起きてるって、本気で言ってる訳?」


「非現実なファンタジーじゃなくて、現実なのだけど。さっきからそう言ってるじゃない」


 またしても当然の様に即答し、サラは変わらずに自分の主張を揺るがさない。

 すると、メグムは先程の大笑いとは打って代わり、突然キレ始めた。


「ふざけんな!そんな悪ふざけの為に私を拉致ったの!?犯罪犯してまで神様ごっこしようっての!?あんたどうかしてんじゃないの!?こんな馬鹿げたお遊びに付き合うつもりなんかないのよ!さっさと家に帰しなさいよこのナルシスト女!!」


 遂に我慢の限界が来たのか、メグムは小柄な容姿からは想像が付かない程の剣幕でサラに怒りをぶつけ始めた。

 それでもサラは一切怯む気配はなく、それどころかメグムが最初に怒りをぶつけて来た時と同様に呆れた様子だった。


「だから、それは底辺のやる事だって言ったでしょう?大声出したって、威嚇にも威圧にもなってないし、喉を大切にしなさいって言ったでしょう?声も肌も、顔も頭も悪くなるわよ?あとナルシストでもないから安心し――」


「あんた本当にいい加減にしなさいよ!!」


 尚も主張を変えず、賺した態度で平然と挑発してくるサラに対し、メグムの怒りは更にヒートアップした。


「あんたが神だって本気で言ってるなら、何かやってみなさいよ!証拠よ証拠!空飛んでみたり、瞬間移動してみたり、どっかから物出してみたりしてみなさいよ!やれるもんならやってみせなさいよ!出来る訳ないわよね!?だってあんたはただの――」


 その瞬間、全員の視界からサラが消え、突風が突き抜けた。

 それ程の速さだった。


「!?」


 サラは十数メートル離れたメグムの目の前まで一瞬で移動し、片手で彼女の首を掴み、その小柄な体を持ち上げ、彼女の足を宙に浮かせた。

 その力は彼女の容姿からは想像出来ない程強く、メグムの首がまるで熟れたトマトの様に、簡単に潰れてしまいそうな程だった。


「ぐぅ!があぁぁぁぁ……!!」


 首を握り締めて来るサラの片腕を両手で掴みながら、必死にもがき、抵抗する。

 しかし力の差は歴然で、離れる様子などなかった。

 そんな圧倒的な力の差を目の当たりにしている周りの者達も、恐怖のあまり足がすくみ、メグムを助けに行く事が出来ず、ただ黙って見ているだけだった。

 そして、サラがメグムを掴み上げたまま、彼女に対して口を開く。


「ごめんなさい、貴方の要望に全部答えられなくて。私は飛行術や空間術はあまり得意ではないから、即座に空を飛んだり、物を出したりは出来ないの。けど……」


 握り締める力を更に強め、ギロリとメグムを睨み付ける。


「瞬間移動なら、私の得意分野よ。これで満足したかしら?」


 鋭い眼光に圧倒され、メグムは恐怖を覚える。

 それはメグムだけではなく、今この状況を目の当たりにしている全員が体感しているものだった。

 そんな恐怖の中、サラはメグムを床に投げ捨てるかの様に手を放し、彼女を解放する。


「ぐっ!ゲホッ、ゲホッ……!」


「だ、大丈夫ですか!?」


 地べたに転がり、悶え苦しむメグムを心配し、コザクラが彼女の元に駆け寄る。

 それにつられ、ユミとコハルも共に彼女の元に駆け寄って行った。


「な、何とか……ゲホッ、グエェ……」


 喉を押さえながら苦しそうにえずくメグムの肩を、コザクラが支える。

 見ると、彼女の喉は赤く腫れ、首筋には五箇所の黒い点――恐らく指の力が入って内出血を起こしたのか、痣の様なものが浮かんでいた。

 ユミとコハルは、メグムの目の前に立つサラに恐れながらも、彼女の行動に疑問を抱いていた。


「さっきのは何?一体どうやって動いて……?」


「流石に種も仕掛けも無い……訳ないですよね?人間が一瞬で移動するなんて……」


 サラが十数メートルの距離を、一瞬で移動した現象を不思議に思う二人に対し、サラはまたしても呆れた様子だった。


「だから、瞬間移動したじゃない。彼女の言う神って証拠に。まぁ速く動いただけだから、瞬間移動と言うよりは高速移動だけどね。それと、この世界では私は人間じゃなくて神よ。正確には後継神だから、人間界では普通に人間だけど」


 反論の一部にまだ何も説明されていない事柄があるものの、それはこの場をどよめかせるには十分な台詞だった。

 神だから瞬間移動を見せた。人間には決して出来ない技を、神と言う証拠に。

 そんな理由で、あっさりと瞬間移動を披露してみせたと言うのだ。


「う、嘘!何かトリックがあるに決まってる!だって、瞬間移動でも高速移動でも、そんなの常識的にあり得ないもの!」


「貴方の言う常識は、人間界の常識でしょう?神界に人間界の常識を持ち込まないで欲しいわね」


 人間界の常識なんて通用しないと、それこそ常識であるかの様にハッキリと言い放ち、溜め息を吐く。

 すると、サラはふと天を仰ぎ、過去を振り返り始めた。


「思えば、人間が初めて飛行機を作った時も、そんな事を言う人が居たわね。鉄が空を飛ぶなんてあり得ない。何か仕掛けがある。そう言って目の前の事実から目を背けて、信じようとしない人も多かったわね……結局、目の前で起きた事よりも、自分が納得できるかどうかなのよね……」


 一体何年前の話をしているんだ。思わずそんな指摘をしてしまいそうな台詞だったが、誰も何も言う事はなかった。

 しかし状況を見れば、その理由はハッキリと分かった。

 目が覚めたら不気味な場所に居て、神と自称する者が現れ、ここが神の世界だと言い、常人ではあり得ない行動を見せ、圧倒的な力を見せつけられ、人間界の常識が通じない事を言われ、何年も前の事を懐かしそうに語っている。

 この短時間で起こったそれら全てを受け入れ、理解、納得するには、時間も材料も足りなさすぎる。

 そんな混乱状態の中、これ以上詮索しても、事態を余計にややこしくしてしまうと、殆どの者が判断したのだろう。

 そんな事を考えているなどと思ってもいないサラは、続けて口を開く。


「まぁ、その内信じられるわよ。それまで待ってなさい」


 それだけ言って呆気無く話を終わらせた。

 突然理屈や理論を語るのを止めて、投げやりな事を言って話を終わらせてしまった。

 見ると、サラの表情からは微かに疲れが出ている様にも見える。

 恐らく面倒臭くなったのだろうが、誰一人納得していない。


「あ、貴方ね……無理矢理終わらせてない?」


「さっきから説明ばかりで疲れたのよ。後でちゃんと話すからいいでしょ」


「最後は世間話だった気がするんですけど……?」


 サラの正直な言動に呆れるユミとコハル。

 そんな中、不安な気持ちを抱き続けているコザクラは、メグムの肩を支えたままサラを見つめ、何かを感じていた。


(この人は一体……どうしてこんなに胸騒ぎがするの……?)


 何か悪い事が起こりそうな、そんな気がしてならなかった。

 話を聞く限り、神が自分達を呼び出して、何かをしようとしている。

 まるでフィクションの様な話で、リアリティも信憑性もない話だ。

 だがもしそれが本当だとしたら、神は何の為に呼び出したのだろう?

 それとも、本当は言ってる事が全部嘘で、何か別の目的があるんじゃないのか?

 考えれば考える程に混乱するが、それは同時にコザクラが抱く不安を増幅させるのだった。

 何を信じ、何を疑えばいいのか分からなくなる程に、頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、胸を針で突き刺されている様な、そんな痛苦しい感覚に襲われていた。


 そんな中、遠くから足音が聞こえて来た。

 誰かが駆け足で移動しているらしく、その音は少しずつ大きくなり、近付いているのが分かる。


「サラさ~ん。皆さん集まりましたか~?」


 不気味な空間で、殺伐とした雰囲気の中に響く声。

 それはとても優しく緩やかで、包容力のある可憐な声だった。


「チェル、来たの?」


「はい!何かお手伝い出来る事があれば、何なりと!」


 サラの傍に、小さな女の子が駆け寄って来た。

 チェルと言う少女は、ふわふわとした雰囲気に包まれた優しい笑顔を浮かべており、この場に居るだけで空気が一変しそうな、癒しのオーラを醸し出している。


「だ、誰……?」


「私の仲間、チェルよ。今回貴方達を連れて来る手伝いをしてくれたのよ」


「はい、私が皆さんの衣装をコーディネートしました♪」


 チェルのその発言は一同を驚かせ、そして一部はホッとした。


(よかった、男性じゃなくて……)


 自分の服を着替えさせたのが、男性ではなく可愛らしい少女だった。

 見ず知らずの男に変な事をされてないと知り、女性陣は安心したのだ。

 ただ――


「こ、こんなかわいい子が……俺の着替えを……!?」


 何故か興奮している者がいた。

 男性陣が何かを想像し、顔がにやけ赤くなっている。


「言っておくけど、着替えは魔術でやったから直接触れてないわよ」


「えぇ……」


「皆さん、何で残念そうなんですか?」


「知らない方がいいわよ、こればかりは」


 安心する女性陣と、興奮したが残念そうな男性陣。

 その理由をチェルは理解していない様子だが、サラはその方がいいと判断して、生温かい目でスルーしたのだった。


「さて、そろそろ行かないといけないのだけど……一つ、片付けないといけないわよね」


 そう言ってメグムを見る。

 彼女はまだ、コザクラに肩を支えられたまま喉を押さえて嘔吐いており、辛く苦しそうな状態で、歩くどころか立ち上がる事も出来そうになかった。


「チェル、あの馬鹿を治してあげて」


「は~い、あの苦しんでる人ですね?」


 馬鹿と言われ、真っ先に当てられたメグム。

 明らかに苦しんでいて分かり易かったとは言え、彼女にとってはショックだった。


「直ぐに治りますから、ちょっと待ってて下さいね?」


 そう言ってチェルは懐から細長い小さな棒――指揮棒を取り出した。

 チェルは指揮棒の先をメグムに向け、近付ける。


「『ファーストエイド』!」


 そう唱えると、指揮棒の先から小さな暖かい光が生まれ、メグムを包んだ。


「え……?」


 すると、メグムは驚き困惑した。

 先程まで喉を強く締め付けられて苦しんでいたのに、その痛みが嘘の様に無くなったからだ。

 それだけではなく、喉の腫れも、首筋の痣すらも綺麗に無くなっている。

 メグムの肩を支えていたコザクラは、それを間近で見ており、直ぐに変化に気付いた。


「あ、あの、メグムさん……?」


 コザクラが支えていたメグムの肩は、先程まで彼女の重みが掛かり、しっかりと支えてなければ倒れてしまいそうだった。

 しかし今その肩は軽くなり、メグムはコザクラの支えが無くても倒れずにいられる様になっていた。


「嘘、何で……?」


 何事も無かったかの様に痛みが消えたメグムは、訳が分からないままゆっくりと立ち上がり、チェルに視線を送る。


「治りましたね?良かったです♪」


 満面の笑みを浮かべるチェルに、メグムは不思議そうに問う。


「あんた、一体何を……?」


「何って、治癒術ですよ?」


 驚きを隠せないメグムに対し、チェルは首を傾げてあっさりと答える。

 互いに言ってる事が理解出来ずにいると、サラがチェルに事情を簡単に教えた。


「チェル、まだ誰も神の事を認めてないのよ。驚いてるのよ」


「あ、そうだったんですか。そういえば自己紹介もまだでしたし、それでは驚かれるのも無理はないですよね……」


 説明と理解が追い付いていないと知ったチェルは、申し訳なさそうに頭を下げ、そして自己紹介を始める。


「申し遅れました。私は、四季を司る神プロセルピナの魂を受け継ぐ後継神、チェルです。救護隊の隊長を勤めてまして、治癒術を使って救護活動をしてます。どうぞよしなにお願いします♪」


 明るく丁寧な自己紹介をして、深々と頭を下げる。

 しかしサラの自己紹介の時同様、一同はポカンとした表情を浮かべている。

 また自分を神と名乗る人が現れ、また訳の分からない事を言っている。

 そう思い、チェルの言っている事の殆ども、誰一人信用していない。

 しかし、


「さっきの光……」


 苦しむメグムに向けられた、小さな光。

 それに包まれた途端、彼女は嘘の様に元気を取り戻した。

 その光景を目の当たりにした所為か、サラが説明していた話よりも信憑性がある。

 それどころか、サラが説明していた神の世界の事が、それらを目の当たりにした事で本当の事だと思ってしまいそうだった。

寧ろ、受け入れざるを得ない。それ程リアリティのある出来事だった。


「さぁ、治った所だし行くわよ。何度も脱線してるし、これ以上は待ち人も待ちくたびれそうだし、皮肉が五月蠅いから行かなきゃね」


 脱線したのは誰のせいだと思ってるんだと、連れて来られた者達の誰もが思ったが、それを誰一人口にする者はいなかった。

 サラはゆっくりと歩き始め、チェルもそれに続くように軽い足取りで歩き始めた。


「皆さん、付いて来て下さい~。複雑に入り組んでますので、迷子にならないように気を付けて下さいね~」


 その言葉を聞くや否や、そそくさと付いて行く者が続々と出始めた。

 そんな中コザクラはその場に留まり、全員が抱いているであろう不安を口にする。


「これから何処に連れて行かれるんでしょうか……本当に帰られるんですかね……?」


 そしてコザクラに続き、メグムとユミも不安と不満を口にする。


「本当かどうか怪しいし、胡散臭いにも程があるわ。帰る為には行かなきゃだろうけど、何で自称神なんかに……素直に誘拐犯って言ってくれた方が、信用出来るわ」


「本当、どうしてこんな事に……大事な予定があったのに、間に合うのかな……?」


 そんな二人を見かねて、コハルが励ます様に答える。


「でも、サラって人は、私達を帰す事が目的って言ってましたし、大人しくしていれば帰してくれるんじゃないですか?ほら、私達がどうするのか、結果次第って言ってましたし」


「そのどうするかが分からないから不安なのよ……本当かどうかも分からないし」


「そ、それはそうですけど……だったら、尚更大人しくしているべきじゃないですか?抵抗するよりも、その方が帰してくれる可能性も高くなりそうじゃないですか」


 確かにコハルの言う通りだ。

 ここが何処なのか、これから何をされるのか分からない状況で無暗に抵抗しても、帰られる可能性は無いに等しい。

 それなら、今は大人しく彼女達に付いて行って、そこからどうするか考えればいい。その方が合理的だ。

 

 そんな事を話し合っている間に、コザクラ達四人以外の全員が、既にサラとチェルに付いて行き、気が付けば遠くまで離れていた。

 その状況に焦ったコザクラは、不安を口にする二人を何とか説得しようと試みると、


「ユミさん、メグムさん、行きましょう。皆もう行っちゃいましたし、残っているのは私達四人だけですよ?早く行った方が――」


「そ、そうね!急いで行きましょう!」


 コザクラが言い終える前に、メグムは先程まで自分の肩を支えてくれていたコザクラを、半ば押しのけるかの様に動き出した。

 そんな彼女を見て、ユミとコハルは呆れた様子だった。


「コザを押して行ったわね、最低……」


「ちょっと今のは酷いですね……」


「あ、いや私は気にしてないですから……ね?」


 フォローしつつも、内心ショックだったのか、コザクラは浮かない表情を浮かべていた。

 そして三人も、メグムに遅れない様に駆け足で動き出し、全員がサラとチェルに付いて行く事となったのだった。



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