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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第3章 誰かを愛する事
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20.サラの祈り


 ゼロとロアーの模擬戦がガノンの乱入によって幕を閉じ、暴れるガノンを取り押さえるべく乱闘へと突入してから暫く経った頃。


「ガッハッハッハ!なかなかやりやがるなぁ!おめぇらと()ってると楽しいぜぇ!」


「そうかよ……ハァ、ハァ……こっちはいい迷惑なんだけどな……」


「なかなかに手強かったですが、やっと押さえ込めましたね……」


 ゼロとロアーの前には、縄で拘束され横に倒れたガノンの姿がある。

 しかし、当の本人は激しく暴れたにも関わらず、元気だった。


「おいフラン!まだ()ってる途中だからよぉ!こいつをさっさと解きな!」


「解く訳ないでしょう、馬鹿なの?いや知ってるけど、馬鹿なの?」


「ガッハッハッハ!相変わらず辛辣だな!」


「うるさい、黙って」


 どうやらフランが拘束したらしい。

 フランは不機嫌に苛立ちを吐き捨てると、煙草に火を付ける。


「フラン、本当にありがとうございます。お陰でガノンを大人しくする事が出来ました」


「貴方がこいつの動きを止めてくれたからよ。流石は騎士団長の防御術は伊達じゃないわね……まぁ、大人しくはなってないんだけど」


「こいつ、本当に声でけぇし乱暴にハイテンションだよな……」


「ガッハッハッハ!ありがとよ!」


「褒めてねぇ!」


 拘束されて尚騒がしいガノンに、三人は頭を抱える。

 そこにサラとフォルスが歩み寄り、サラが労いの言葉をかけた。


「みんな、本当にお疲れ様……フォルスも、援護ありがとね」


「後方支援は僕の役目ですのでお気になさらず。流石に肉弾戦は専門外なので無理でしたが……」


 援護に回ったものの、フォルスもガノンの強大な衝撃の余波を受け、流れ弾を喰らったようにダメージを受けていたようで疲弊していた。

 サラも表に出さないようにしているが、苦戦を強いられた為息が上がっており、ガノンを止める為に応戦した五人全員が体力を消耗された状況であった。


「……」


 サラは息を整え、静かにガノンの元へ歩み寄る。

 その最中(さなか)に右手に光が集まり、それは少しずつ形となっていき、細剣(レイピア)として具現化した。


「サラ――!?」


「安心して、手荒な真似はしないから」


 慌てるゼロに落ち着いて応えると、サラは細剣(レイピア)を拘束されたガノンの顔に向ける。

 その剣先は一切揺らぐ事なくガノンの目の前でピタリと止まり、サラが鋭い眼光で睨みつける。


「ガノン、貴方分かってるの?今回の招集……人間界でまだ活動中の人間を、一度に十数人も連れて来ているのよ?本来であれば一人でも異常事態なのに、それを『秘密裏に』行っているの。少しでも上手く行く為に、わざわざ感付かれないようにしているのよ?そうして動いてる私達の苦労を、水の泡にするつもり?」


「ガッハッハッハ!大変なのは分かるけどよ!もっと気楽にいこうや!堅苦しいのは俺の性にゃ合わねぇんでな!」


 身動き出来ない状況でサラの威圧を受けていながら、変わらず豪快に笑う。

 一切反省の色が見えない中、ガノンが続ける。


「しっかし、言いにくいよなぁ!クノロスの事、最初っからそのまま――」


「っ!」


 ガノンが何かを言いかけた瞬間、サラがそれに即座に反応して細剣(レイピア)を突き出した。

 その衝撃は大きく、地面に大きな亀裂が入り、土煙を上げながら広がって行く。


「余計な事を言わないで……それがあの子達にとって、一番大切な事なのよ」


 細剣(レイピア)はガノンの右頬スレスレの所で、地に突き刺さっている。

 サラが理性を働かせ、外した様だ。


「んだよ、やりにくいな!まぁ、縛られてりゃあやりにくくて当然ってか!ガッハッハッハ!」


 ここまでしても反省の色が見えない。

 あまりに強靭でブレる事の無いメンタルを、もうどうする事も出来ないと諦めたのか、サラは溜息をついた。


「仕方ないわね……じゃあ、指示に従ってくれたら、貴方の好きなお酒を十樽用意してあげる。従わないなら当分禁酒よ」


「おぉ!?禁酒する気はねぇが、そりゃいいな!今の言葉忘れねぇからな!?」


「禁酒を含めて忘れないで頂戴」


「誰がするもんか!んで、忘れねぇからなぁ!?」


「はぁ……まぁ、いいわ」


 妥協案ですら都合の良い部分だけ呑まれ、頭を抱える。

 それでも、指示に従ってくれるなら良い方なのかもしれない。サラ達の計画が、こんな粗暴で破天荒な男一人に脅かされる位なら、多少のリターンを払ってでも大人しくさせた方が安全だ。

 まだ計画が実行されて一日も経っておらず、それどころか乱闘騒ぎに発展させたガノンと、面倒事を嫌い一人勝手に帰ってしまったミコンのせいで、本来の予定を見送らなければならなくなった。

 今後も予定外が起き続ければ、人間と後継神、お互いにとって最善の結末を迎えられなくなるかもしれない。

 それを回避する為には、軌道修正が必要だ。だからこそガノンを、好物のお酒を使って交渉材料にしたのだった。

 交渉が無事(?)に成立した所で、遠くから声が聞こえた。


「皆さ~ん、大丈夫ですか~?」


 声の聞こえた方へ振り向くと、チェルとエルが駆け寄って来ていた。


「二人共……皆は無事に送れたの?」


「はい。でもやっぱり心配だったので、大通りまで案内して戻ってきたんです。あそこでしたら、直進して右折するだけで寮棟に着きますから……それと、お食事の件も伝えておきました。もうすぐご飯なので、後程食堂のルール案内もします、と」


「そう、ありがとう」


 人間達の案内兼避難をしながら、こちらの様子も気にしていたチェルに優しく微笑み、礼を言う。


「てゆーか、もう終わっちゃった!?あ~、私も一緒に騒ぎたかったなぁ!」


「あんたは本当にうるさいから、騒ぐのは勘弁して欲しいわ」


「えっへへ~、照れちゃうなぁ」


「褒めてないわよ」


 似たような会話が、エルとフランによって再び繰り広げられる。


「早速だけど、みんな消耗しているから皆に治癒術をお願い。私と……ガノンは最後でいいから」


「はい!」


「オッケ~!」


 チェルとエルが、傷付いた仲間の元へと駆け寄る。

 サラはそんな二人の背を見つめ、そしてゆっくりと天を仰ぐ。


(これから、何事もなく進んでくれるといいのだけど……)


 一抹の不安を感じながら、静かに祈る。

 人間と後継神、どちらも望んだ結末を迎えられるように……

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