01.違和感
「うぅん……」
コザクラは唸り声を上げ、自然に眠りから目を覚ました。
スマートフォンのアラームは鳴っていない為、まだ起床時間ではないと分かっていたものの、コザクラは妙な違和感を覚えていたのだ。
静かな空間に響く水が滴り落ちる音、重々しくヒヤリとした空気、そして自分の部屋とは全く違う匂い。
まるで自分の部屋どころか、自分の家で眠っているとは思えない程の、大きな違和感だった。
そして、ゆっくりと目を開き、自分の目に映る光景を確かめる。
「え……!?」
その光景を見て、驚きを隠せなかった。
今まで感じていた違和感が示していた通り、今居る場所は、本当に自分の部屋でも、自分の家でもなかったのだ。
ベッドは自分の部屋で使用してる物と同じだが、辺りは薄暗くて広く、天井は高過ぎて見えない。
目を凝らして見てみると、所々に色んな物が散乱していた。その殆どが鉄製品で、錆びた歯車、折れたノコギリ、壊れてネジやバネが飛び出した何かの機械、更には血の付いた手錠まで落ちている。
とても居心地の良い場所ではなく、明らかに異常な光景だった。
「何これ……ここ何処……?」
もしかして、夢でも見ているのではないか。
そう思いながら、寝転んだまま自分の頬を強く抓ってみたが、頬に強い痛みが走り、これが夢ではなく現実だと知る。
しかし、現実だと知ると、余計に分からなくなった。
何故こんな場所に居るのか、いつの間にこんな場所へ移動していたのか、そもそもここは何処なのか。
考える事が山積みで、理解が追い付かなかった。
そこで、ふと思い出したのは、
「髪の長い……女の人……」
それは、昨夜自分の部屋で見た人物。
はっきりと見えなかったが、声と影は記憶に残っていて、何処かに案内すると言っていた。
もしかしたら、その女の人がここに連れて来たのではないか?夢だったのかもしれないが、そう考える他なかった。
だとすると、その女の人は、今もこの近くにいるのだろうか?そう思い、怯えながら無意識にベッドの枕元の棚に手を伸ばす。
そこで、コザクラは気付く。
「あれ?私のスマホがない?」
いつも寝る前、アラーム機能をオンにしたスマートフォンを置いてある筈の場所、そこにスマートフォンがなく、身の周りを探して見ても見当たらない。
しかし考えてみれば、それは当然の事だ。
自分の部屋で寝ていた筈が、いつの間にか知らない場所で眠っていたのだ。
誘拐、監禁の可能性もあり、寧ろその可能性が高いのだから、連絡手段であるスマートフォンが近くにある訳がない。
連絡手段が何もなく、今何処に居るのかも、助けを呼ぶ事も出来ない。
どうしよう、と不安になる。
しかし手足は動き、体も拘束されていない為、自由に動く事は出来る。
それなら、一度ここから一旦離れて、周りに何があるのか、誰かがいるのか、何処かに出入口がないかを確かめてみよう。
そう思い、コザクラはベッドから起き上がると、また一つの違和感に気付いた。
「え?この服……?」
薄暗い空間の中、全身を毛布に包まれていた為気付かなかったが、パジャマに着替えて眠っていた筈なのに、パジャマではない別の衣装に着替えられていたのだ。
それは見覚えのあるもので、白いブラウスとクリーム色のニットベスト、首元には赤い蝶ネクタイが締められ、紺色のブレザーが着せられている。下半身は赤とグレーのチェックが入ったスカートに、黒いハイソックス、更には茶色のローファーまで履いている。
コザクラの通っている高校の制服だった。
「どうして?ちゃんとお風呂に入って、パジャマに着替えて寝たのに……着替えた記憶なんて無いし……」
そうなると、考えられる可能性が一つ浮かんでくる。
誰かが自分の服を、パジャマから制服に『着替えさせた』事である。
思わずそのシチュエーションを想像し、ゾッとしてしまうが、今はそれ所ではない。
目が覚めたら、何処なのか分からない所に居たのだから、やる事は決まっている。
「と、とにかく動かなきゃ。誰か居るのかだけでも確認しないと」
自分に言い聞かせるかのように呟き、深呼吸をすると、ベッドから降りて慎重に歩き始めた。
床には様々な鉄製品が散乱している為、一歩進むだけでも鋭く不気味な音が辺りに響き渡る。
初めてこの光景を見た時の薄気味悪さが蘇り、コザクラの身体は小刻みに震える。
それが止まる事ないまま、ゆっくりと時間を掛けながら十数メートル程の距離を進んだ。
進んだ先には扉があり、辺りを見回しても、この扉以外に出入りが出来そうな場所はない。
つまり、この扉が唯一の出入り口だ。
コザクラは恐る恐るドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと回す。
ギィ、と重い音を立てて、扉は前に向かって開かれた。
すると、次の瞬間、
「誰!?」
「ひゃあっ!?」
突然、大きな声が響き、コザクラも声を上げて腰を抜かしてしまった。
そして扉は開かれたまま、誰かがコザクラに向かって駆け足で近付いて来る。
コザクラは驚きと恐怖のあまり、身動きが取れない。
これからどうなってしまうのだろう、何をされてしまうのだろうと、様々な不安が交錯し、パニック寸前となり、事態は最悪に思われた。
しかし、
「あんたも……ここに連れて来られたの……?」
「――え?」
コザクラに近付いて来た女性が、息を切らしながらそう問い掛けてきた。