表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第2章 神界と十聖神
17/20

16.模擬戦


「はぁ……何でこんな所まで出向かなきゃいけないのよ。図書館から遠くて歩くの嫌だし、訓練場って土臭くてもっと嫌なんだけど」


「そう言うなよ。閉じ籠もって本ばっか読んでないで、運動しろよ、運動。実戦に響くぞ?」


「黙りなさいよ運動中毒の筋肉馬鹿。男臭いのなんかもっと嫌だし、嫌過ぎて殺したい程嫌なのよ」


「おー怖い。その殺気、もっと他の奴に向けてくれれば有り難いんだが」


「心配しなくても、あんたより問題のある馬鹿がいるわよ」


「それじゃあ俺に殺気向けてる事には変わりねぇだろ……」


 ゴスロリのドレスを纏った女性の文句に、ボロボロの服装の男性は呆れる。

 しかし、サラとフォルスが廃墟で言い合っていた時と同じく、挨拶に近い自然なやり取りに見えた。

 その内容は物騒なのだが。


「ごめんなさいね、ミコン。ロアーも、付き添ってくれてありがとう」


「付き添ったって言うか、来る時たまたま一緒になっただけなんだけどな。バテてたから錬成薬ポーション渡してやったよ」


「男から錬成薬ポーションなんて受け取りたくなかったけど、背に腹は代えられなかったわ……」


「それは今後も我慢して頂戴。それこそ実戦の緊急時に響くわよ」


「考えておくわ」


 やる気のない返事をするミコンという女性。

 ただ図書館から訓練場まで移動しただけでバテるなんて、体力が無さすぎる。

 その施設間にどれ程の距離があるのかは分からないが、神ノ瞳( ゴッド・アイズ)の敷地内であり、集合を呼びかけた放送から十数分程度しか経っていない事から、そこまで長距離という訳ではないようだ。

 その上、男だからという理由で錬成薬ポーションの受け取りを渋るというのだ。

 一緒に来たロアーという男性は、サラと共にそんなミコンに呆れ果てていた。


「そんな事より……そこにいる見ない顔達が、今回引き連れた人間なのかしら?」


「そうよ。とりあえず全員いるわ」


 ミコンは神界に連れて来られた人間全員にサッと目を配ると、軽くため息を吐く。


「――男が少ないわね、残念……」


 先程の話とは打って変わり、今度は男が少ない事について残念だと言った。

 一体どういう事なのだろうか?人間達は理解出来なかったが、サラはその発言に尚呆れる。


「その話はいいから、二人は皆に名乗っておきなさい。簡単にでいいから」


「はいよ」


「仕方ないわね……」


 そして、ミコンとロアーの二人は、人間達に向かって自己紹介をする。


「天罰の神、ネメシスの後継神、ミコンよ。普段は図書館にいるから、用のある時は図書館に来なさい」


「俺は災害の神、レシェフの後継神、ロアーだ。特攻部隊の隊長を務めている。以上」


 どちらも興味無さそうに、淡泊にそれだけ言う。

 そして――


「顔合わせは終わったわよね、帰るわね」


 訓練場に来てまだ間もないにも関わらず、ミコンはさっさと帰ろうとしていた。


「駄目に決まってるでしょう。まだ一人来てないんだから、せめて集まるまで我慢して」


「何で私があんな馬鹿を待たなきゃいけないのよ、滅茶苦茶嫌なんだけど」


「気持ちは分かるけど、人間がいるんだから本当に我慢して。後継神として。業務命令」


「はぁ……仕方ないわね」


 露骨に嫌な顔をしながらも渋々承諾すると、訓練場の端にある木の方へ向かい、その木にもたれて座ると、手に持っていた本を開き、読書を始めた。


「来たら教えて。直ぐに帰るから」


「……まぁ待ってくれるだけいいわ。それで折り合いをつけてあげるわ」


 サラが溜息を吐き、了承する。

 すると、今度はロアーが口を開いた。


「俺も、トレーニングの途中だったから戻って続きをしたいんだが。戻るの駄目ならここのトラック走っていてもいいか?」


「本当に自由ね、貴方達……」


 集合を呼びかけられたというのに、纏まりが無く、協調性も感じられない。

 この二人に初めて会った人間達が、漏れなくそう感じていた。


「まぁ、トレーニング目的なら別に駄目とは言わないけど。日々鍛錬に励むその姿勢は、私としても見習いたいもの――」


 サラがロアーに対してそう語っていると、ふとある事を思い付く。


「待って、ロアー。それなら、ここで模擬戦を披露してくれないかしら?」


「あ?模擬戦?」


「えぇ。ここにいる人間達に、後継神の戦闘技術を少しでも見せてあげたらいいと思って。みんな神界に連れて来られたばかりで、さっきまで神って事も信じて貰えなかったし、魔術や能力もそんな感じだったし、魔技に至っては披露もしてないから、実戦形式で見せつければ流石に色々と飲み込んでくれるかなって」


「ほう、そういう事なら俺は構わないが……相手は誰がしてくれるんだ?」


「それは――」


「それでしたら、私がお相手致します」


 サラがロアーの問いかけに答える前に、ゼロが自ら名乗り上げた。


「あら、いいの?私が相手するつもりで言ったのだけど……」


「サラがどうしてもと仰るのであれば、ロアーとの相手はサラにお譲り致します。ですが、サラは人間の方々の引率、並びにそれらの準備で大変だったと思います。それに引き換え、私は本日の勤務は警備のみでしたので……特訓の意味でも、私がお相手出来ればと思います」


 サラに対する気遣いと、やる気。

 丁寧で紳士的な返答の中に、そんな思いが強く感じられた。


「気を遣ってくれてるのね、ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて……ゼロ、ロアーとの模擬戦をお願いするわ」


「畏まりました。全力で務めさせて頂きます」


 話が纏まり、ゼロはサラに向かって敬礼をする。


「決まったようだな、それじゃあゼロ……模擬戦とはいえ、久々のサシでの勝負だ。手加減しねぇぞ」


「私こそ、全身全霊お迎え致します。神ノ瞳( ゴッド・アイズ)騎士団長、ゼロ・アルフェニウスの名の下に」


 二人から強い闘志を感じ、空気が震える。

 そして、二人の模擬戦が始まると知ったエルは、大いに盛り上がっていた。


「わぁ~!ロアーとゼロの一騎打ち!?それ、闘技場のエキシビジョンマッチ位アツい決闘デュエルじゃん!こんなの、滅多に見られないよ!」


「そうですね……幸運ですね、貴方達。本来でしたら人間が見られるようなものではありませんよ。僕ですら数回程度しか見た事ありませんからね」


 エルだけではなく、フォルスも静かに胸の高まりを口にしていた。

 それ程に貴重な催しが、今始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ