15.六人と三人
「さて、そろそろ質問に答えて差し上げましょうか。何故僕達がいるのかと仰いましたが……それは、僕達が十聖神だからです」
「……え?あんた達が?」
思いもよらなかった答えに、メグムは間抜けな声を上げながら二人の顔を交互に見た。
「恐らくアナウンスが流れた時点で、十聖神の事についてゼロやエルから大まかな説明は受けたと思いますが、僕は闘技場の効果術部門――魔術における能力の強化・弱体を駆使した、サポート特化の殿堂入りチャンピオンです。僕自身の戦闘能力は低い方ですが、人間相手でしたら強化一つでも簡単にねじ伏せられますよ。そしてフランですが……ご自身で説明致しますか?」
「説明する必要性を感じないわ。人間相手に面倒だし、するならそっちで任せる」
気だるげに、無関心な態度を取りながら、フランは自身の髪を人差し指でくるくると回して答える。
そんな態度を特に気にする様子もなく、フォルスは説明を続けた。
「では手短に……フランは闘技場の射術部門の殿堂入りチャンピオンです。銃や弓等の、狙撃技術を競い合う部門です。こちらは分かりやすいと思いますので、それ以上の説明は蛇足ですかね……それに、僕達だけではありません。そちらのゼロやエル、チェルも然り、貴方達を人間界からお連れしたサラもその一人です。貴方達は既に、六人の十聖神と会っているのですよ」
「あの馬鹿力も!?」
「誰が馬鹿力よ」
「うわっ!?」
いつの間にかサラがメグムの背後に立っており、突然聞こえた声に驚く。
コザクラ達もサラの存在に気付いていなかったのか、メグムと同じように驚いていた。
「貴方の首を絞めた事を言ってるなら、あれは強化術で筋力を部分的に強化しただけよ。あんなの、フォルスの方が得意だわ」
「何だ、その程度の事でしたか。てっきり岩でも持ち上げたのかと思いましたが」
「どんなシチュエーションよ」
「あははは!戦う女の子ものでよくあるやつだ〜!」
「あら、フォルスもそういうの見るのね?」
「いえ、僕はそんなものがあるというのは初耳ですが……参考資料として一度見ておきますかね。エル、それはどういったものなのですか?」
「えっとね〜、人間界のアニメなんだけど――」
十聖神のメンバーの話をしていた筈が、何故か人間界のアニメの話に話題が逸れてしまった。
エルがアニメの事を楽しそうに話し、フォルスはその話を真剣に聞いているが、フォルスと質疑応答の真っ最中だったメグムは取り残されてしまい、苛立ちを隠せなかった。
「ちょっと!私を無視して世間話してんじゃないわよ!大体何であんたが女児アニメなんか――」
「『喋らないでください』」
フォルスがそう口にした瞬間、メグムの言葉は途切れる。
彼の、行動を制限する能力が発動したのだ。
「――!?〜~~!!」
喋る事が出来なくなったメグムは、それでも身振り手振りを使い、必死に何かを訴えているが、フォルスはそんな様子を気に留める事は無かった。
「先程から貴方ばかり喋っててうんざりしてるんですよ。そんなドブの様な汚いだけの大声聞かされている僕達の身にもなって欲しいものです。少しは人の迷惑というものを考えたらどうですか?これ以上騒ぐならまた呼吸を止めますが、それでもいいのですか?」
罵倒の中に脅迫を含ませ、気だるげに答える。
その言葉を聞いて一瞬たじろいでしまうが、メグムは苛つきながら地団駄をつき、そしてそっぽを向く。
「最初からそうしていればいいのですよ。全く、これだから低能と関わると疲れて仕方ありません……貴方達も大変ですね、こんな馬鹿と一緒に連行されて」
「え?えっと……」
急に話を振られるコザクラ。
あまりにも急過ぎた為、どう答えていいのか分からずにオドオドしてしまう。
「その困惑は肯定と捉えられますが、宜しいのでしょうか?」
追撃の如く指摘され、コザクラは完全に黙ってしまう。
そんな様子を見かねて、コハルがフォルスに抗議をするが、
「本人を前に、答え辛い質問はしないで欲しいんですけど……」
「それは遠回しに肯定してると捉えられますが、宜しいのでしょうか?」
「えっ、そんなつもりは……」
呆気無く論破されてしまい、コハルも困惑する。
チラッとメグムの方を見てみると、そっぽを向いたまま落ち込んでいるのが分かった。
明らかに、二人の言動が原因だ。
「あーあ、もう……後でケアしておかないと。ああいうのは結構メンタルに来るからね……」
ユミが頭を掻きながらボソッと呟く。
フォルスは三人の間に亀裂を生じさせ、その後特に何もフォローする事無くエルとの話を再開してしまい、何とも微妙な空気になってしまった。
そんな中、ゼロがサラに声を掛ける。
「サラ、館内放送が流れてから暫く経ちましたが、道中で後の御三方はお見かけしていませんか?」
「あぁ、多分二人は図書館とジムに居たから、距離的に今向かってる最中だと思うわ。もう一人は……まぁ、時間通りに来ないでしょうね」
「あの馬鹿は放っておいた方が気が楽だわ」
「フラン、仲間をそんな風に言うのは頂けませんよ?」
「相性ってもんがあるのよ」
どうやら今ここに居ない、ルミエールを除く残り三人の十聖神の話をしているようだ。
微妙な空気に耐えかねて、コザクラがその三人の話について聞こうとする。
「そ、その三人って、私達がまだ会ってない方達ですよね?それって、どんな人達なんですか?」
「あぁ、ハッキリ言って、関わらない方がいいわ」
「え?」
思いもしなかった返事に、コザクラはキョトンとしてしまう。
これから顔合わせをするというのに、その三人と関わらない方がいいとは、一体どういう事なのだろうか?
そう考えていると、コザクラの反応を察してサラが詳しく説明する。
「私達は後継神だから、互いに渡り合える力があるの。でも、人間には後継神に対抗する力も手段も無いし、あったとしても実力差で圧倒されるわ。私達は人間相手にそれなりの手加減は出来るけど……あの三人は、人間が関わっていい相手じゃないわ。人間に対する憤りや不信感はそこまで問題ないのだけど、三人とも戦闘面においては加減を知らないから、人間の場合なら峰打ちでも即死すると思うわ」
「それ、峰打ちじゃないですよね……」
「あら、じゃあ試してみる?手加減なしの音速を超える峰打ち」
「ごめんなさい、死んじゃいます」
恐ろしい話を聞いて、即座に訂正し謝罪する。
そして、サラはそっぽを向いているメグムにチラリと視線を送ると、説明を続けた。
「まぁ、あの不機嫌サド――メグムみたいに噛み付いたりしなければ、危害は無いでしょうけど。私もフォルスも内心怒っているけど、ある程度は長い目で見てあげているもの。でも、他の後継神にあんな態度取ったら、そうはいかないわ。本当に死ぬわ」
怒っていると薄々気付いていたものの、身の毛がよだつ。
そして、二人ともあんな事—―首を絞めたり、身動きや呼吸を止める魔法をしておいて、長い目で見ていると言っている辺り、その恐ろしさが分かる。
「そんな方達と一緒に、私達がここに呼び出されたんですよね……その話を聞いちゃうと、凄い怖くなってきました……」
「怖いって、今更ね。貴方達の立場上、処刑を言い渡された時の方がもっと怖いと思うけど?」
「うっ……あはは……」
思いもしなかった話の展開に、コザクラは苦笑いしてしまう。
まさか、場の空気を紛らわせる為に話を聞いた筈が、もっと重々しくなってしまうなんて、想像もしていなかったようだ。
話を聞かなければよかったのではと、軽く後悔していたコザクラだったが、その近くで声が聞こえた。
「遅れたな、すまない」
声が聞こえた方を見てみると、そこには二人の人影があった。
一人は、ダメージを負った様なボロボロの服装に、腕全体が包帯で薄く巻かれた高身長の男性。
もう一人は、黒いゴシックロリータ風のドレスを纏い、分厚く大きな本を持った暗い雰囲気の少女だった。