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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第2章 神界と十聖神
14/20

13.事実

 

 そのまま、急遽エルの握手会が開催され、彼女の両脇に並ぶゼロとチェルによって、クッキーとコーヒーが渡される。

 それが全員の手に渡り、暫しの休憩時間となった。


「あ、これ美味しい……!」


 クッキーを口にして、美味しさのあまり目を輝かせるコザクラ。

 その横では、ユミがエルとの会話を思い出しながら、未だ目を輝かせていた。


「エルさんと……友達……!」


「ユミさん、意外とミーハーだったんですね。あんまり想像出来ないですが……」


「いやぁ、だって……うふふふ……!」


 最早会話にならない程、メロメロな状態だった。

 憧れの存在に出会えた上、友達と呼ばれたのだから、その喜びは計り知れない。

 自分の立場や状況を冷静に考えていたユミが、渡されたクッキーとコーヒーに一切手を付けないまま浮かれているのだから、余程の事だろう。

 そんなユミを尻目に、既にクッキーを平らげ、コーヒーを飲み干したメグムが、椅子にもたれかかりながら天井を見上げる。


「ふぅ……今置かれてる状況を忘れそうだけど、落ち着けるなら落ち着いておやつ食べるのが一番いいわよね……実はお腹空いてたし、甘味もありがたいわ」


 やや満足気に呟き、背伸びをする。

 そんな言葉に、コザクラが反応する。


「今の状況……」


「あっ、あんたはちょっと事情が複雑なのよね。思い出させちゃった?」


「いえ、メグムさんの言う通り、落ち着けるならその方がいいので……私の事は気にしないで下さい」


 メグムを気遣い、言葉では大丈夫そうに応えるも、コザクラは再び思い詰めてしまい、食べかけのクッキーを手にしたまま俯く。

 そんなコザクラ達の近くのテーブルで、エルとチェルとゼロの三人は、人間達に配ったものと同じクッキーとコーヒーを口にしながら、賑やかに会話を弾ませていた。


「それでね~、暗転した瞬間コードに足引っ掛けて転んじゃった子がいて~」


「おや、それは大変でしたね……緊張で足元がおぼつかなかったのでしょうか?」


「沢山の人が見てる中ですから、それは緊張してしまいますよ~。アーティストって凄いです……」


 エルが、以前ライブで新米アーティストが起こしたハプニングを、面白おかしく話す。

 そして、エルはふと過去を思い返しながら、天井を見上げる。


「何かそういう子見てると、昔の私を思い出すなぁ~。自信もなくて緊張してばかりで、言いたい事も言えない時期があったから……カンジョーイニューって言うの?そんな感じになっちゃうなぁ~」


「あぁ!分かりますそれ!応援したくなりますよね!」


「うん!だからそんな私を助けてくれたみたいに、私も――」


 エルが顔を輝かせ、そしてそれを口にする。


「クロノスが私を救ってくれたみたいに、私も助けたいんだ!」


 その言葉を聞いてコザクラの手が止まる。

 クロノスが、エルを救った。

 それを、クロノスを傷付けたコザクラのすぐ側で、誇らしげに語った。

 更に――


「素晴らしい心掛けですよ、エル。私もクロノスには恩がありますので……クロノスの様に、人の為に行動する優しさを忘れず、それを私が行う事で、少しでも恩返しが出来たらと思います」


「ゼロさんも、とても素晴らしい心掛けですよ~。私もお二人と同じく、クロノスさんの力になりたいです!」


「あはは!皆同じ事言ってるじゃーん!」


 ゼロとチェルも、クロノスに恩があり、彼の力になりたいと、エルと共に和やかに笑い合った。

 そんな話を聞いたコザクラは、胸が苦しくなる。


「――っ!」


「そう言えばさ~、こないだクロノスってば――」


「やめてよ!!」


 コザクラが突然、大声を上げながら立ち上がり、エルの話を遮った。

 そして、俯いたまま手を強く握り締め、視線を送る事なく、心の内をさらけ出す。 


「人の為だとか、優しさだとか……そんなのやめてよ!何も知らない癖に……放っておいて欲しいのに、それでも声掛けて来て……私がどんな気持ちでいるのか、考えもしないで……!そんな優しさなんて欲しくなかったのに!!一人で考えたかったのに!!それなのに……そんな話しないでよ!!」


 大粒の涙を零しながら、声を荒らげて訴える。

 コザクラの、クロノスに対する不満、怒り、そして……彼女達が語るクロノスの否定。


「コ、コザクラさん……?」


 突然の怒りように驚きながら、コハルが声を掛ける。

 その声でコザクラは我に返り、そのままゆっくりと座り込んで、テーブルに顔をうずめる。

 辺りは一気に静かになり、殆どの者が、何が起きているのか理解していない状況で、あんなに賑やかだった雰囲気が再び険悪になってしまった。

 そして、そんな状況の中、エルが立ち上がり、ゆっくりとコザクラに歩み寄る。


「ねぇ、貴方――」


 エルに呼ばれ、歯を食いしばる。

 どうせ悪口を言われる。どうせクロノスの肩を持つと、そう思い込むコザクラだったが……


「――クロノスと色々あったみたいだね~……その様子じゃ全然力になれてないっぽいし、もう何やってるんだろ~、クロノスってば情けないなぁ」


 エルの口から出た言葉は、そのどちらでもなく、クロノスに対する呆れの言葉だった。


「まぁまぁ、エルさん。そう言わずに……失敗なんて誰にでもあるんですから、長い目で見た方が……」


「え~!だって私にはあんなヒーローみたいな事しておいて、他の子のとこでテコンパコンってカッコ悪いじゃん!」


「コテンパンですね」


「ちゃんと悪いのフンギャーって言わせないと!」


「ギャフンですね」


「怪獣か何かですか……?」


 そのままクロノスに対する文句が止まらず、そんなエルをチェルとゼロがなだめる。

 予想と全く違う展開に、コザクラが不思議に思い、エルに問いかける。


「怒ってないんですか……?私達、ルミに……クロノスに酷い事してここに呼ばれたのに……心を殺したって言われて、それにあんな事まで言って……どうして……?」


 絞り出すかの様な、か細い声だった。

 その問いに、エルは深く考え込む。


「うーん、確かに仲間を大変な目に遭わせちゃったんだから、そこは勿論怒ってるって言うか、残念って言うか、悲しいって言うか、何かもやもやした感じだけど、でもさ――」


 エルはコザクラの目をしっかり見て、真っ直ぐに答える。


「クロノスが貴方の力になれなかったのは『事実』でしょ?それを否定するのは違くない?」


 思わぬ答えに、コザクラがきょとんとしてしまい、何も口にする事が出来なかった。

 そして、エルはそのまま続けて語り始める。


「私はね~、クロノスにはどんなに返しても返しきれない恩があって……クロノスが居なかったら、私に元気と勇気をくれなかったら、絶対音楽続けられなかったし、今頃塞ぎ込んでたと思うんだ。今の私があるのはクロノスのお陰……それが私の『事実』。でも、貴方のそれも、貴方とクロノスの間にある『事実』なんでしょ?」


 エルの言葉を受け、コザクラがクロノスの事――ルミエールの事を思い出す。

 その思い出は、コザクラの中に残る『事実』。

 かつて、嘘をついてまで切り捨てたその思い出は、エルの言う通り、コザクラにとって嘘も偽りもない、確かな『事実』なのだ。


「貴方がクロノスにした事は、本当に良くない事だよ。この世界に呼ばれて、罪人にされちゃう位良くない事なんだよ。だけど、貴方とクロノスの間にある『事実』は、何をどうしたって変わらないんだから、それは誰だろうと否定しちゃいけないんだよ」


 すると、エルはコザクラの寮頬を軽くつまんで引っ張る。


「だから貴方も!私の『事実』を否定しないでね!貴方はクロノスが気に入らないかもだけど、私にとっては仲間で恩人で友達なの!分かった!?」


「へゃ、ひゃい……」


「うん!分かればよし!!」


 手を離し、そして笑う。


「よーし!私もクロノスに負けない位ヒーローしちゃうぞ〜!もっと人間達と仲良くして、クロノスが出来なかった分みんなの力になっちゃうぞ〜!お〜!!」


 両手を高く掲げて、大声を上げて意気込む。

 そんな様子に、コザクラだけではなく、ユミとコハルも驚きを隠せなかった。


「さっきの神様とは大違い……ちょっとびっくりした」


「これが、純真な心なんでしょうか……何か感動してしまいました……」


 フランやフォルスとは違う心の在り方に驚くが、どちらもクロノスの事を思っての行動。

 そして、芸能人として知っていた彼女の真っすぐさが、自分の思っていた以上に、純粋で綺麗なものだと知り、こんな心を育て広げるという話に感銘を受ける。


「て言うか、まさかエルの活躍にルミエールが関わってたなんて……凄く勿体ない事しちゃったかも」


「ユミさん、その下心はちょっと頂けませんよ……」


 クロノスとエルの関係を聞き、もし縁を切ってなかったら、憧れの存在と近付けたかもしれない事実に落胆。

 そんなユミに、コハルは正直に引いていた。


「コザクラさんも、流石にあれは無いと思いますよ。人の事言えた立場じゃないですけど、ルミエールさんのご友人――恩人と言ってる相手に本人を悪く言うなんて……」


「分かってます。分かってますけど……」


 胸が締め付けられる思い。苦しそう。


「それにしても、あんな奴に恩ねぇ。ただのうざったい奴としか思った事ないし、確かに恩着せがましい所もあったけど、わざわざ口にする程の事かしら?どうせ大した事でもないでしょうに」


「メグムさん、私がコザクラさんに言った事聞いてましたか?今ここで言わないで下さい」


「はいはい」


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