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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第2章 神界と十聖神
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12.マナと神力と魔力


「今の光……メグムさんにもやった治癒術ってやつですか?」


「はい、そうですよ。メグムさんにかけたのは体力回復魔法で、コザクラさんにかけたのは精神回復魔法なので、大まかな分類は違うんですけどね」


 治癒術。メグムに施された光を見てからずっと気になっていたものだ。

 首を強く締められて、離された後も苦しみ続けたメグムを一瞬で回復させ、そして今度は錯乱状態になりかけたコザクラを回復させた。

 まさしく魔法の代名詞と言えるもので、誰もが一度は憧れるようなものである。


「あの時は何が起きたのか分かんなかったけど、本当に魔法なのね……」


「あたし達の世界でも、そういうのがあればいいのになぁ……」


 メグムとユミが魔法の存在を羨ましく思い、溜め息を吐くと、チェルは難しい顔を浮かべる。


「人間界は極端にマナが少ないですし、地球の核にもそこまで蓄積されてないので難しいですね。それだと魔力の自然消滅で発動までに至らないですし、発動可能なのは極めて小規模なものばかりですので……」


 魔法のメカニズムを語っているようだが、何を言っているのか殆ど理解出来ず、四人は混乱する。


「えっと、マナと……魔力?」


「また中二感のあるワードが出て来たわ、もう気にするだけ無駄だけど」


 そんな様子を察して、チェルは先程語った内容をより細かく伝え始める。


「『マナ』と言うのは、大気中に存在する、実体を持たない力の源の様なものですね。私達後継神には、神の魂を受け継いだ器に『神力(しんりょく)』というものがあって、この神力の大きさや容量、持続性は個人によって全く異なるのですが、私達はこの神力とマナを結び付けて、器に『魔力』を溜めるんです。これを『魔力還元』と言って、その還元した魔力を消費する事によって、魔法を使う事が出来るんですよ」


 大気中のマナを、神力を使って魔力に変換。

 その魔力を使い、チェルが使った治癒術のような魔法を使う事が出来る。

 それが後継神が使う魔法のメカニズムらしい。


「つまり……神様に備えられた力を利用してパワーを溜めて、それを使えば魔法を使えるって事ですか?」


「ざっくりですが、そんな感じですね~。人間界にも一応マナはあるのですが、先程も言った通り、全く無いと言える程希薄なので、人間界では魔法の使用どころか、魔力還元も困難で、魔力も早めに使わなければ自然に消費されるので、尚更厳しいんですよ」


「そうなの?じゃあ、人間界にマナがもっと溢れていたら、魔法大国だったかもしれないって事?」


「そうかもしれませんが、後継神だけ使えて普通の人間には使えない状況が人間界で起きてしまうと、不満や妬み、明確な差別を火種に、反乱や紛争が起きてもおかしくはありませんよ~」


「緩い喋り方で恐ろしい事言うわね……」


「遥か昔には、人間界にもマナがもっとあったのですが、その様な事態を懸念して人間界のマナが調整されて、今も尚その姿を維持しているのですよ。そして、私達後継神は異空間に新たな世界を作り、それを神界と呼び、人間界の秩序を見守ると同時に、ヒトが持つべき心を育てているんですよ~」


 人間界におけるマナの存在事情、そして後継神としての役割、ヒトの心を育てる事を改めて伝える。

 それを聞いたコハルは、先程から気になっていた事をチェルに問いかけた。


「その、さっきも言ってた心を育てるって、具体的にはどういう事なんですか?」


「義務教育や布教活動みたいなものですよ。間違った事は間違ってると、これはこうした方がいいと言って、清く正しく純真な心を育てて、一般常識やマナーを身につけ、相手を思いやり、助け合い、その輪を広げて人間界の環境を良くするって事です」


 まさに、今ここにいる人間に突き刺さるような言葉だった。

 コハルも、メグムもユミもコザクラも、周りにいる人間達全員も、ルミエールを冒涜した事で神界に連れて来られた。

 それが間違いであると、非常識であると、思いやりや助け合う心が無いと、遠回しに言われているようなものだ。

 言っている事は素晴らしくとも、立場上聞こえは悪かった。

 しかし、


「清く正しく純真な心、ね……あのフォルスとかフランって言う神様は、そんな感じはしないんだけどなぁ」


 口を開けば皮肉を繰り返すフォルスと、威圧が強く暴力的な行動が目立ったフラン。

 あの二人が、そのような心を持っているなんて全く想像が出来ず、寧ろ真逆のダークサイドではないのか。

 とてもそんな風には見えなかった。


「あのお二人は人間に対して友好的ではないので……私達後継神に対しては強い信頼関係があるのですが、人間に対してあんな感じになっちゃうんですよね。でも、決して悪い人じゃありませんし、お二人もヒトの持つべき心を理解してますから、ご安心ください」


「本当にそんな風には見えないんだけどなぁ……」


 にわかに信じられない話だが、確かめようもない。

 何より、まだ初対面から一日どころか、数時間しか経っていない為、彼らの仲間だと語るチェルとは関係性の深さが違う。

 だからこそ知り得る事もあり、語れる事も多いのだろう。

 だが、あまりにも二人の印象が悪過ぎる。その上、優しいチェルが、二人を心の理解者だと語る。

 何が真実か嘘か、全く分からなくなってしまっていた。

 そんな時だった。


「チェル、お疲れ様です。お手続きは順調ですか?」


 寮棟の入り口から声が聞こえ、チェルのみならず四人もその方向へ視線を向ける。


「あ、ゼロさん!お疲れ様です~。とても順調ですよ♪」


 寮棟に入って来た、鎧を身に着けた騎士がチェルに声を掛け、お互い和やかに挨拶を交わす。

 このゼロという男も、チェルの仲間らしい。


「えっと、チェルさん、この人は……?」


「あ、すいません。こちらは私達の仲間、ご友人のゼロさんです。騎士団の団長さんなんですよ~」


 そう紹介すると、ゼロは右手を胸に当てながら静かに頭を下げた。


「お初にお目にかかります。只今ご紹介に預かりました、太陽神アポロンの後継神ゼロです。以後お見知り置き、ご免停の程、宜しくお願い申し上げます」


 礼儀正しく、律儀に自己紹介している。

 そのあまりにも美しくスタイリッシュな所作に、思わず声が漏れる。


「凄い紳士的……」


「もったいなきお言葉、光栄です」


 輝く笑顔を浮かべる。


「まさにチェルさんの言ってた心を見ている様な気持ちです……」


「そう言って頂けると、私もゼロさんも嬉しいです~♪」


「光栄です」


 チェルとゼロの、二人の輝かしい笑顔に圧倒される。

 すると、寮棟の入口に再び誰かがやって来た。


「人間界から来た皆~!おやつとコーヒー持って来たよ~!これ食べてゆっくりしよ~!」


 明るく元気で若々しく、そして何処か聞き馴染みのある声が寮棟に響き渡る。

 その方向へ振り向くと――


「えっ⁉」


「嘘!あの人って……!」


 そこには、コザクラ達も知っている人物がいたのだった。


「ギターボーカリストのエル――!」


 そう、彼女は人間界でも広く知られている、若くして芸能界で活躍しているアーティスト、エルだった。

 彼女はギタリスト、ボーカリストとしての音楽活動しており、その人気は絶大で、ライブのチケットは即完売、SNSや動画配信サイトの支持者は共に数百万人、彼女が使ったアイテムや食べた商品はたちまち人気沸騰、そんな影響力を持つ超有名人なのだ。

 そんなエルの登場により、静かで重々しい雰囲気だった寮棟は一変した。


「嘘だろ!?何でエルがここに!?」


「本物⁉本物なの!?キャーーー!会えるなんて夢みたい!」


「あ、握手!握手して下さい!」


 視線がエルに集中し、沢山の声が響き渡る。


「わぁ~、みんな私の事知ってくれてるんだ?こんな沢山の人に私の音を響かせられてるなんて、嬉しいなぁ~」


「当然ですよ~。私もエルさんの歌、大好きですから♪」


「元気が出ます」


 チェルとゼロからも称賛の声をかける貰い、照れるエル。

 すると、懐からマイクを取り出し、スイッチを付けると、軽いハウリングが起き、その音を聞いた人間達は驚いて歓声を止める。

 そして、暫くしてハウリングが治まると、エルが左手を天高く上げ、マイクに声を通す。


「念の為自己紹介!みんな~!私は希望の神スペースの後継神、ギターボーカリストのエルだよ~!今度私のライブに遊びに来てね~!!」


「エルが神様だって!?」


「それも納得の実力……!」


「ライブ!絶対に行きてぇ!」


 エルの盛大な自己紹介に、まさにライブの如く盛り上がる人間達。

 自分達の状況を忘れ、心の底から楽しんでいるかのように、明るく賑やかな雰囲気へ変わった。


「す、凄い熱気……さっきとは全然違う雰囲気……」


「本当にライブ会場みたいになりましたね。こんなに盛り上がるとは誰も思わな――」


 そう言いながらコハルが、ふとユミの方へ目をやると、ユミは小刻みに震えていた。


「ユ、ユミさん?」


 どう見てもおかしいと思い、声を掛けるが、ユミはそんなコハルに目もくれず、エルに声を掛ける。


「エ、エル!!いえ、エルさん!!私、大ファンです!!貴方に憧れてギター始めて、エルさんみたいになりたいって思ってました!!会えるなんて感激です!!」


 想像出来ない程はしゃいでいる。

 ユミはエルの大ファンらしく、今まで一緒に行動していた時には見せなかった一面が大きく出ていて、もはや別人のように思える程だった。


「本当!?えへへ、嬉しいなぁ~。じゃあ良かったら、今度一緒にセッションしない?弾き方とかテクニックも色々教えるよ~?」


「ええええ!!本当ですか!?」


「うん!貴方の心に私の音を響かせられて嬉しいし、音楽好きな友達大歓迎だから!」


「とととと、とモ――!?!?」


 ユミはあまりの興奮、嬉しさに顔を真っ赤にして卒倒する。


「あぁ!大丈夫ですか!?」


 チェルがユミを心配し、すぐに駆け寄り看護を始める。


「このお方は、エルの事が本当に大好きなのですね」


「えへへ~、照れるなぁ~」



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