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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第2章 神界と十聖神
12/20

11.寮棟


 時空を司る神クロノスの後継神、ルミエールの心を冒涜した罪により、神界へ呼び出され、償いの為に三年間過ごさなければいけなくなった人間達。

 その同時刻、山脈を越え、海を越え、大陸を越えた、遥か遠く離れた辺境の地では、とある騒動が起きていた。


『グルァアアアアアア!!』


 荒野の中心で、巨大な熊のような姿をした凶暴な魔物――巨獣種(ギガントモンスター)と呼ばれる凶暴な魔物が、咆哮を轟かせる。

 その大きさは十数メートルを超え、一般的な熊とはあまりにも桁外れな大きさだと、最早言うまでもない程だった。


「ヒッ……!こ、これが集落を壊滅させた巨獣種(ギガントモンスター)……こんなにでかいなんて、聞いてないですよぉ!?」


「ひ、怯んでないで体制を立て直せ!こいつはでかいだけじゃなくて、スピードも速いんだぞ!一瞬の隙が命取りに――」


 そんな弱音を言ってる間に、巨獣種(ギガントモンスター)は猛スピードで突進する。


「う、うわぁ⁉」


 突然の事に驚き、足がすくんで動かない。

 このままでは直撃してしまう。そんな時、


「ふんっ!!」


『グ!?』


 間一髪で間に入った青年が、右手に持つ刃渡の短い斧、ピッケルの様な武器で巨獣種(ギガントモンスター)の突進を止め、そしてその巨体を弾き返す。


「す、凄い……あんな巨体を、こんな小さな斧で……」


「相手から目を離すな。いつ何処から、どんな攻撃を仕掛けるのか分からないんだぞ。前後左右上下、常に警戒して連携を取れ」


「は、はい!すいません!」


「命があればそれでいい。説教はまた後だ。下がってろ」


 青年はゆっくりと巨獣種(ギガントモンスター)に歩み寄る。

 すると、巨獣種(ギガントモンスター)の口が朱色の光を発する。


「ま、まずい!火を吐いてくるつもりだ!全員援護!あいつの攻撃を止めるんだ!」


 青年の後方で、銃弾や弓矢が巨獣種(ギガントモンスター)目掛けて飛んで行く。

 しかし、


『グアアアアアアア!!』


 巨獣種(ギガントモンスター)はその口から火炎弾を、青年に向けて放つ。

 大地に直撃し、爆炎が広がり、衝撃音が荒野一帯に轟く。

 そのあまりの衝撃に、援護に回っていた者の中には後方へと吹き飛ばされる者もいた。


「な、何て力……!これじゃあ――!」


 至近距離で火炎弾を直撃した青年の心配をする。

 だが、


「え……?」


 その光景を目の当たりにして、衝撃を受ける。

 青年は、炎の中で平然と立っており、その身には傷どころか、汚れすらも付いていなかった。


「――こんなものか?つまらないな」


 呆れた様子で答えると、青年の斧に光が宿る。


「む、無茶です!そいつは魔術耐性が強い上に、筋肉も鋼鉄のように硬いんですよ!?その上この巨体……!いくら魔力で強化しても――」


「黙って見てろ」


 すると、巨獣種(ギガントモンスター)は腕を大きく上げ、青年に向けて振り下げる。

 その力は凄まじく、衝撃で大地が陥没し、砂ぼこりが舞う。

 しかし、


「闘技場総合部門の覇者を――なめるな」


 気付けば、青年は一瞬のうちに巨獣種(ギガントモンスター)の真後ろ上空で構えていた。

 そして、


『ギャアアアアアアアアアア!!!!』


 巨獣種(ギガントモンスター)の咆哮――いや、断末魔が響く。

 青年が巨獣種(ギガントモンスター)の左肩を斬りつけ、腕を斬り落としたのだ。

 その斬られた肩から血しぶきが上がり、悶え苦しみながら地に倒れる。

 そして、青年が空中に浮かんだまま斧を上空へ向け、そのままゆっくりと振り下ろすと、青年の周囲に無数の光が発生する。


流星襲(スターダストレイド)!!」


 銃弾の雨あられの如く、閃光が巨獣種(ギガントモンスター)目掛けて降り注ぐ。

 それは数秒、十数秒と続くのだが――巨獣種(ギガントモンスター)の息の根は既に止まっていて、それでも尚、無慈悲な追撃を受け続けるのだった。


「す、凄い……魔術耐性の強いあの巨獣種(ギガントモンスター)を……魔術でとどめをさした……」


 




「討伐お疲れ様〜!いやいや、見事な腕だよ。こんな凶暴な奴をあんな短時間で伸すなんて……三日三晩かかる想定だったのに、こんな早くに終わるなんて、依頼して本当によかったよ。まぁ、一瞬ヒヤヒヤしたけど……」


巨獣種(ギガントモンスター)を討伐した青年に、魔獣討伐の依頼主が気さくに声をかけて感謝している。


「ただの魔物なら、あんな単純な技でも通用するからな。心配は無用だ。それより……こいつの素材は劣化が速いんだ。腕を斬り落とした僕が言うのも変だが、価値が下がる前に処理した方がいい」


「そ、そうだった!解体班!急いで処理を!」


 依頼主が呼びかけると、医療用具の入った鞄を持っていた回収班が、まるで蟻が砂糖に群がるかの如く、巨獣種(ギガントモンスター)の解体作業を始めた。


「まさかこんなに出番が早く回ってくるなんて……こんなの初めてだ……!」


「これは、私達も負けてられないわ!こんなに早く倒してくれたんだもの、私達の手際も見せつけてやりましょう!」


「よっしゃあ!やってやるぞー!!」


 意気揚々とした声に、安心感を覚える青年は、ホッと一息吐くと、近くにあった岩に腰掛け、リラックスする。

 すると、依頼主が青年に対してある疑問をぶつける。


「そういえば気になってたんだけど……ここに来たのはお前だけか?遠征の時はいつも、仲間が誰かしら一緒だっただろ?二人も来られない程に、そっちの業務が忙しいのかな?」


「ん?いや……そんな事はないと思う。もし忙しいなら、寧ろ僕にその業務を割り振る筈だし、僕自身が何も知らないのは変だろう。これでも色々と任されてんだ。色々と、な」


「そうか……悪いね、変なこと聞いて」


 気まずそうに謝るが、青年は特に気にしていない様子だった。


「別にいい。けど……僕だけがこんな辺境に派遣させられたのは、確かに妙だと思ってる。だから、時間があれば確認しに行くつもりだし、それに意味があろうと無かろうと、それは僕達の事情だ。あんたが気にする必要はない」


「お気遣いをどうも。流石は、グランディアの血筋……ヒトを想う事を、何より大切にする一族だ」


その言葉を聞くと、青年は静かに首を横に振った。


「言うな、恥ずかしい。僕は……まだその名に相応しくない」


「そんな事言うなって。お前は十分立派だよ。それに……その事で、もう一つ聞きたい事があるんだ」


「何だ?」


 青年に対し、神妙な面持ちで、そして物憂げに問いかける。


「――ルミエールは元気か?」


「――――」






 その頃、神ノ瞳(ゴッド・アイズ)では……


「こちらが皆さんの寮になります~。お手続きをしますから、少々お待ち下さい〜」


 チェルに連れられ、人間達は全員これから長期間暮らす事になる寮棟へとやって来た。

 しかし突然の事態、あまりに現実離れした状況に置かれ、それらを目の当たりにし、体感した一同の精神は未だボロボロのままで、その疲労感が全員の顔に出ていた。

 しかも、この寮棟へ来る途中でも、驚愕の出来事が起きたのだ。


「あの扉……本当に転移門だったなんて……」


 ユミが頭を掻きむしりながら呟く。

 そう、寮棟へ来たのだが、本当は外から監視室に入った時に通った扉に、再び通っただけなのだ。

 後継神からの説明を受けた後、今度は監視室の中からチェルが扉のセキュリティを操作すると、本来外に出る筈が、全く違う場所へと繋り、そしてその扉を潜り抜けた結果、今こうしてこの場にいるのだ。


「本当にそんな物があるなんて信じられませんが……さっきの映像も、能力の事もそうですし、あの扉の事も考えると、ここが神の世界って言うのは本当で、あの人達自身が神様って言うのも本当なんでしょうね」


「そう、なるわよね……悔しいけど認めるしかないわ……」


 こんな状況でも冷静に事態を分析、把握してそれらを認めるユミとコハル。

 二人は神界の事や後継神の事を、完全にとは言わないものの、信じる事にした様子だった。


「全く、何でこんな事に……もう早く帰って寝たい気分だわ」


「あ、メグムさん」


 そんな二人の元に、文句を口にしながらメグムが近付いて来た。

 先程、自身の赤っ恥映像を流されてベソをかいていた彼女だったが、今は立ち直ったのか、自分の足で寮棟へ来られたそうだ。


「もう大丈夫なんですか?」


「いや、大丈夫じゃないけど……男に見られてないだけ良かったし、もうそんな事でウダウダ言ってる場合じゃないみたいだしね……」


 メグムも、あの時しっかりと説明を聞いていたらしく、ルミエールを冒涜した事、彼の傷を癒やす事、その期限として三年間この世界で暮らす事を理解していたみたいだ。

 そして何より、


「あの生意気メガネ、あたしにまで被害出したし……もうここまで来ると、不本意だけど信じるしかないわよ」


 フォルスが行動制限の能力を見せた時、その能力がメグムにも影響を与えていたらしく、同じ様に身動きを封じられ、呼吸も止められたらしい。

 散々神の話を馬鹿にして笑い、コケにしていたメグムも、二人と同じく神界や後継神の事を信じ始めた様だ。


「もう、外に出て噛み付いていた時からヒヤヒヤしてたんですからね?もうあんな事しないで下さいね?」


「あたし達にも被害が及びそうで怖かったわ、本当」


「え、ここでもあたしが叩かれるの……?」


 サラに首を締められ、赤っ恥映像まで流されて、漸く信じ始めたと思ったら、同志にも叩かれる。

 不憫だが、当然と言えば当然である。

 そんな三人が話をしている中、コザクラは俯き、心苦しそうにしていた。

 ルミエールの話を聞かされてからずっとこの調子なのだが、同じ相手を冒涜した他の人間達とは比べ物にならない程に思い詰めており、そしてこの事態を誰よりも重く受け止めている様だ。


「コザ、大丈夫?」


「……いや……今……」


 声を掛けて来たユミに何かを話そうとするも、言葉が詰まり、何も答える事が出来ない。

 息は上がっており、胸に強く手を当てて握り締め、汗を噴き出し、目の動きも不安定で、見るからに苦しんでいる。

 どう見ても大丈夫ではなかった。

 その様子を見たコハルは、コザクラの背中を優しく擦り、声を掛ける。


「大丈夫です、無理に喋ろうとしなくていいですよ。落ち着いてから、ゆっくりでいいので、今は無理せず休んで下さい」


 コハルも沢山思う事があり、それらを理解するのに苦労している中、コザクラの事を気に掛け、彼女に優しく接する。

 しかし、


「――っ!」


 その一言を聞いてから、コザクラの脳裏に何かがよぎる。

 そして様子は更におかしくなり、涙を浮かべてうめき声を上げ始めた。


「ちょっ、コザ?えっ、本当にヤバそうじゃんこれ……!」


「コザクラさん……!」


 明らかに大丈夫ではない事を察して慌てるユミとコハル。

 しかし、それに対して何もする事が出来ず、ただ見守るしかなかった。

 こんな時にどの様な処置を行えばいいのか、彼女達には分からず、声も掛けづらい状態の為、下手に手出しは出来なかったのだ。

 すると、チェルが指揮棒を手にしてコザクラの元に駆け寄って来る。


「大丈夫ですか!?『クリア』!」


 そう叫ぶと、コザクラの周りに温かい光の粒が発生し、彼女を取り巻いた。

 すると、コザクラの様子は少しずつ落ち着きを取り戻し、呼吸が安定し、汗も止まった。


「あ……」


 コザクラは驚いた様子で、ゆっくりと立ち上がろうとするが、その足つきはまだ不安定でバランスを崩し、倒れかける。


「おっと……大丈夫?」


「は、はい……」


 咄嗟に身体を掴んで転倒を防いだユミに、今度はしっかりと返事が出来た。

 駆け寄りながらも安心したのか、チェルはそのスピードを少しずつ緩めていき、コザクラの目の前までやって来ると、一本の瓶と、一枚の葉っぱを差し出した。


「念の為、錬成薬ポーションを持っていて下さい。鎮静剤として癒香草クリアハーブも渡しておきます。また動悸が出たら大変ですからね」


「あ、ありがとうございます……」


 渡された瓶と葉っぱ――錬成薬ポーション癒香草クリアハーブという物を受け取りながら礼を言うのだった。

 

 

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