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神ノ狂気  作者: 古芹坂 琉輝
第0章 
1/20

00.プロローグ

初投稿、初連載です。

不慣れな事ばかりで試行錯誤中ですが、どうぞお手柔らかに、温かい目で見守って頂けたら幸いです。


「どうして……?どう……しテ……?」

 

 震えた声で何度も呟き、泣き続けていた。

 かけがえのないものだった。

 何よりも大切だった。

 誰よりも大好きだった。

 だけど、それはいつしか憎悪へと変わってしまった。


「にン……ゲん……!ニンゲンガアアアアァァァァ!!」

 

 この憎悪が、後に起こる大事件の引き金となる。

 狂気に満ちた世界で起きる、世界を破滅へと向かわせた、世界が知る事無い大事件へと……











 それから長い時が流れ、現在。


 いつもと変わらない朝、とある高校の教室に高校生達が集い、男女分け隔てなく挨拶、会話を交わしている。

 賑やかな空間に一人、また一人と増えていき、そして一人の女子高生、コザクラもまたその教室の中へと入り、挨拶と会話が始まる。


「あ、コザクラ。おはよ~」


「おはよう、ユリア」


 既に教室の中に入っていた友人、ユリアの挨拶に対して、控えめな声と優しい笑顔で返し、コザクラは自分の席に着く。

 ユリアはその席へと近付き、コザクラと会話を続けた。


「昨日のテレビ見た?」


「見た見た!アイスの特集!見てたら何か食べたくなっちゃったから、学校終わったら買いに行かない?」


「うん、行こうっ」


 コザクラがユリアと、放課後にアイスクリームを買いに行く約束を交わし、二人に笑顔が浮かぶ。

 その横では、何やら男子生徒二人が喧嘩を始めていた。


「お前!ちゃんと持って来るって言ったじゃんかよ!何で忘れんだよ!」


「悪かったって、悪気は無いんだよ。明日はちゃんと頼まれたエルのCD持って来るから……」


「ふざけんな!楽しみにしてたのに先延ばしとか、生殺しじゃねぇか!何なんだよ、この馬鹿!」


「なっ、何もそこまで言う事ないだろ!」


 どうやら二人は、CDの貸し借りの約束をしていたらしい。

 だが、貸す筈のCDを持って来るのを忘れてしまい、それが喧嘩の発端となってしまった様だ。


「ちょっ、喧嘩は止めなさいよ、朝から険悪になるじゃない」


「ぐ……」


 二人の喧嘩を見ていたクラスメイトに仲裁され、何とか場は収まったものの、既に雰囲気は険悪になっていた。

 先程までの賑やかな空間とは打って代わり、ヒソヒソと小言を言う者、クスクスと笑う者、会話を止めて黙ってる者もいる。既に手遅れだった。

 それを見ていたコザクラは、溜息を吐き、呟く。


「たかがCDで喧嘩って、大人気ないなぁ……そんなに怒る事?」


 その一言を聞いていたユリアは、それは聞き捨てならないと言わんばかりに人差し指を突き立て、コザクラに反論した。


「コザクラ、確かにちょっと大人気ないと思うけど、あの二人は約束をしていたのよ?約束を破られたら誰だって傷付くし、怒る事だってあるじゃない。実際コザクラも、約束破られた上に『たかが』なんて言われたら、嫌じゃない?」


「うっ、それは……」


 ユリアから説教を喰らい、ぐうの音も出ない様子だった。

 確かに約束を破られたら嫌だし、怒るかもしれない。

 勿論、時と場合、約束の内容によるかもしれないが、嫌な思いをしたり、怒ったりしない自信は、はっきり言ってなかった。

 その上、もし自分が楽しみにしていた事、大切にしていた事を『たかが』なんて言われてしまったら、尚更の事だ。

 まるで自分の楽しみを侮辱され、踏みにじられたようで、そんな事を考えると心が傷んでしまう。

 そして、ユリアの説教は続くのだが、


「コザクラも、昔はそうだったんじゃない?ちゃんと約束を―――」


「ごめん、その話はしないで」


 説教の途中、コザクラは自身の過去の話を持ち込まれた途端、急に思い詰めた表情を浮かべ、強引にユリアの言葉を止めた。

 それに驚いたユリアは、呆れた様子だった。


「四年前の事、まだ気にしてるの?いい加減切り替えなさいよ」


「そんなの、無理だよ……」


 何やら、こちらも険悪な雰囲気になりつつあった。

 コザクラが過去の記憶を思い返し、辛そうな顔を浮かべている。そんな様子を見たユリアが反論に困っていると、学校の予鈴が鳴り響き、同時に教師が教室へ入って来た。


「席に着け~、ホームルーム始めるぞ」


「あ、もうそんな時間……コザクラ、また後でね」


 教師の言葉に従い、ユリアは自分の席へと戻る。

 ユリアだけではなく、他の全ての生徒達も同じ様に自分の席に着き、賑やかだった教室は静かになった。

 そんな中、既に自分の席に着いていたコザクラは、まだ辛そうな顔を浮かべていた。


(もういいよ……『あの人』の事は、もう……)


 誰かの事を思い出し、それを忘れたいと強く願う。




 そして、流れる様に時間は過ぎる。

 一限が終わり、二限、三限と続き、四限が終わり、友人と一緒に弁当を食べ、そして五限と六限が終わり、放課後になると部活動を始め、そして部活動も終わり、そんないつもと変わらない学校生活を送っていた。

 そして放課後、夕日で景色が紅くなる頃、コザクラは朝に約束を交わした通り、ユリアと共にアイスクリームを買いに行き、それぞれ違うフレーバーのアイスクリームを頬張りながら下校していた。


「ん~、美味しい!やっぱりチョコミントは王道ね、テレビでも人気だったし!」


「キャラメルも美味しいよ、一口食べる?」


「いいの!?じゃあ私の一口と交換しよう!」


 互いに買ったアイスクリームをスプーンで一口分掬って分け合い、満足そうに食べている。


「夕飯前だから控えめにしないといけないけど、でも美味しい……」


「本当に、この美味しさは罪だよ……」

 

 二人が喋りながらアイスクリームを食べて下校する中、ユリアはふと夕焼け空を見上げて言った。


「何て言うか、幸せだよね。好きな物を買えて、好きな物を食べて、好きな様に動けるって、本当に幸せだと思う。生きててよかった……」


「急に何?そんな大袈裟な……」


 呆れて苦笑いを浮かべるコザクラ。

 しかし、ユリアは本気のようで、首を振って続けて言う。


「いや、本当にそう思うよ。自由に生きられるって、本当にありがたいと思うもん。コザクラも、いつかそう思える日が来るんじゃないかな?」


「えぇ、どうかな……」


 全く予想が出来ないが、多分ない。そう思いながらも、濁った返事をして受け流す。

 すると、ユリアは残ったアイスクリームを一気に食べ切り、そのまま目の前にある分かれ道を右に曲がると、立ち止まって振り返り、コザクラに手を振った。


「じゃあ、私はこっちの道行くから、気を付けて帰ってね!また明日~!」


「うん、また明日!」


 互いに手を振り、別れの挨拶を交わすと、ユリアは走り去る。

 コザクラはユリアが走って行った道とは逆の方向へと曲がり、そのまま自宅へと帰って行った。


 そして、その後もいつもと変わらない、ありふれた日常だった。

 帰宅して夕食を食べ、見たいテレビを見て、ゲームをして、風呂に入り、スマートフォンをいじり、勉強をする。

 何度も繰り返した日常だった。

 時刻は二三時に迫り、コザクラは自室のベッドの上に寝転ぶ。


「明日も学校だし、そろそろ寝ようかな」


 スマートフォンを操作して、アラーム機能を七時にセットする。それをベッドの枕元に備え付けられた棚の上に置き、就寝しようと部屋の明かりを消そうとした。

 その時、ふと今朝の出来事を思い出した。


「約束……」


 それは、あの男子生徒二人が喧嘩をした理由。

 約束を守らなかった。

 悪気がないとはいえ、それが原因となって喧嘩をしていた。

 コザクラは、どうしてもその事が引っかかっていたのだ。


「『あの人』も、そうだったのかな……」


 再び思い出す『あの人』の事。

 思い出したくもない人。

 忘れてしまいたい人。

 大嫌いな人。

 私の()()()()()()

 そんな『あの人』の事を、どうしても思い出してしまう。

 約束という言葉を聞く度に、何度も思い出してしまう。

 何度も何度も繰り返し思い出し、傷付き、苛つき、苦しくなる。もう思い出したくないと何度も願い、それでもまた思い出す。

 私の中に残る『あの人』の事を……


「もういいや……寝よう」


 考えても仕方がないと、部屋の明かりを消して無理矢理眠る事にした。

 瞼を閉じ、ゆっくりと呼吸し、身体の力を抜くと、次第にコザクラの眠りは深くなる。

 部屋全体に静寂が訪れ、彼女の眠りを邪魔する物は何もなかった。


 その筈だった。


「起きなさい」


 突然、声が聞こえた。

 聞いた事のない、女性の声。静かで凛々しい声だった。

 その声に反応し、コザクラはゆっくりと目を開けると、声の聞こえた方向へと視線を向ける。

 薄暗くてよく見えないが、その視線の先には女性が立っていた。

 スタイルの良い、髪の長い女性で、ベッドで眠るコザクラをジッと見つめている。


「――誰……?」


 眠そうな声で問いかける。

 しかし、その質問に答える事はなく、女性は言う。


「貴方が、コザクラね?」


 それは、自分の名前。

 この人は誰なのか、何故自分の部屋にいるのか、何故自分の名前を知っているのか、疑問に思う事は沢山あった。

 しかしコザクラは寝ぼけており、この状況を完全に理解していなかった。

 これが夢なのか現実なのかも分からず、朦朧とした意識の中、混乱しながらも何が起きているのかを考えていた。

 そして、静かに答えた。


「はい……私、コザクラです……」


 まずは質問に答えようと、無意識に判断し、自分がコザクラだと答えた。

 その答えを聞いた女性は、ゆっくり振り返ると、そのまま部屋の奥へと歩き出した。


「なら、案内するわ。貴方を……クロノスの元へ」


 その瞬間、強力な睡魔がコザクラを襲い、そしてコザクラはゆっくりと目を閉じていく。

 薄れゆく意識の中で、女性が歩いて行った方向から、重い扉が開かれた様な鈍い音が聞こえた気がしたが、それに疑問を抱く間もなく、そのまま深い眠りへ落ちていった。



 これが、彼女の過去と未来を賭けた、物語の始まりになるとも知らずに……



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