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湯たんぽよりも、欲しいもの(夫婦。ほのぼの)

作者: 飛鳥井作太


 ヒュー……ガタタタッ バタタタタタッ

 風が窓ガラスを揺らし、そこへ雨粒が、容赦なく追撃する。朝とは思えない薄暗さ。

 ゴロゴロと遠く、不穏な音が響いている。

「生理と台風が同時に来るとか、嫌がらせとしか思えない……」

 外の暗く、不穏な空気と同じように、私の身体も今、暗く不穏だ。

 もっと詳しく言うと、腰とお腹が痛く、身体全体が重い。頭も痛い。

 鉛が入っている……というより、内臓がぜんぶ石化したみたいな感じだ。

 や、どっちも実際に経験したことは無いけど、ニュアンス的に、だ。

「地球と己の身体から裏切られるとは、なかなかダメージがでかいな」

 旦那殿が、ベッドの縁に座ってこちらを見下ろしながら言った。

「つらみのきわみ……」

 絶不調とは、まさしくこのこと。

 どの体勢をとっても、腹も腰も頭も痛い。地獄かな?

「とりあえず、今日は寝てたら?」

「うぅ……せっかくのお盆休みなのに……」

 私は、悔しさのあまり唇を噛んだ。

「ソシャゲの鬼周回をして楽しむ私の予定が……」

「例え元気な時でも、ほどほどにしときなよ。止められなくなっちゃうからね」

 旦那殿は、ソシャゲの周回にはデッドラインを設けているという。

 どんなに欲しい報酬でも、デッドラインを越えなければならない場合、潔く諦めるらしい。

 いったい、どんな精神修行を積めば、そんな神がかったことが出来るのが教えて欲しい。

 聞いても、「ルールを決めたら守る。それだけだよ」としか答えないし。

「くっ……寝ながらやると意外と腕とか凝るんだよね……」

「うん。だから休みなよ……?」

 旦那殿が、そっと私の手元からスマホを遠ざけた。

「ぐぬぬ……経験値……報酬……」

「自分のHP回復に努めてね……」

「どっちかというと個人的には状態異常……」

「どっちにしろ休みなよ」

 ぽんぽん、と私の頭を優しく撫でる大きな手。

「生姜湯と湯たんぽ、用意してくるからさ」

「あー……じゃあさ」

 立ち上がりかけた旦那殿の服の裾を摘まむ。

「湯たんぽだと熱すぎるから……添い寝でお手てカイロは……駄目かな……」

 旦那殿は目を軽く見開いてから。

「──いいよ。ちょっと待ってて」

 ふ、と目元を綻ばせてうなずいた。

「うん。ありがと」

 私は嬉しくて、思わず笑ってしまう。

 少しだけ身体の石化が解けたような気が、した。

「ゲームして待ってる」

「寝て」

 ベッドサイドに伸ばしかけた手を、旦那殿は容赦なく叩き落とした。


 END.


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