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ナスがいっぱいナス祭り

「見て下さい、このナスの量!」


 ここは王都にある定食屋。わたしは久々にお忍びで店へと訪れていた。目の前にはババーン! という効果音が付くくらいに大量のナスが積み上げられている。それは厨房だけには収まり切らず二階へと続く階段は勿論、二階にある仮眠室、従業員の更衣室までもがナスの山で溢れ返っていた。


「うわ……想像より多いわね」


 何処を見てもナス、ナス、ナス……な光景に思わず溜息が零れた。何故こんな状態になっているのかと言うと、どうやらナスの注文数を間違って発注ミスしてしまったらしい。最初の数日は頑張ってナス料理を作って店に出していたらしいが、作っても作っても減らないナスたちにとうとうロマノが悲鳴を上げてわたしを頼って来たのだった。


「申し訳ありません、わたしのせいで……」


 ロマノの妻ケイトが泣きそうな顔をしながら頭を下げて来た。


「気にしないで。それにそんな風に落ち込んだらお腹の子に響いちゃうわ」


 わたしはケイトの肩に手を置いて彼女を励ました。普段しっかり者のケイトがこんなミスをしてしまったのは本当に珍しい。最近つわりが酷かったらしいので、彼女もぼーっとしてしまったのだろう。


「大丈夫よ、このナスを使ってナス祭りを開催しましょう」


 そう言ってわたしは腕まくりをして厨房へと立った。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 まずはナスを料理ごとに下処理していく。普段の定番定食は親子丼定食、塩サバ定食、ハンバーグ定食、八宝菜定食だけどこのナス祭り開催中は少しそれをアレンジしていく事にした。


 親子丼定食はナスとひき肉を豆板醤を加えて味噌炒めにした“ナスのピリ辛みそ炒め丼”へ置き換え。副菜として出汁巻き、そしてナスの浅漬けと、ナスと玉ねぎの味噌汁付き。塩サバ定食はメインの塩サバはそのままで、副菜として擦り下し生姜と刻みネギを乗せた焼きナス、そしてこちらにもナスと玉ねぎの味噌汁を付ける。


 ハンバーグ定食はメインのハンバーグの代わりに、ナスでミンチ肉を挟んで甘辛に炊き上げたオリジナル料理に置き換えた。縦割りにしたナス一本の表面に味が染み込みやすいように切込みを入れ、片栗粉をまぶしたらポークハンバーグのタネをサンドウィッチのように真ん中に挟んでナスと肉が外れにくいようにようじを刺して留める。そしてフライパンで両面がしんなりする迄焼き上げてから、醤油味ベースの甘辛ダレで煮込む。


 少し手間はかかるけど、前世で母がよく作ってくれた絶品料理の一つだった。豆板醤を使えば中華風に、出汁を使えば和風に仕上がるので好みで味も選べる。前もって仕上げ手前まで作っておけば、注文が入ったら鍋で温めるだけで出せる。こちらにはいつものサラダと一緒にナスの冷製スープを添えた。


そして八宝菜定食はメインの八宝菜を麻婆ナスへと置き換える。こちらには味噌汁ではなく、カラフルなミニトマトとナスの中華スープ、そしてサッパリとした春雨の中華サラダを一緒にセットした


「うわぁ……どれも美味しそうでヨダレが出そうです……」


 ヘレンがキラキラとした目で出来上がっていく料理を眺める。


「沢山作るからお昼の賄いで好きなのを食べたらいいわよ」

「やった! ありがとう御座います~」

「それから今日は単品メニューとして、ナスのチーズ焼きと揚げナスも出すわ」


 揚げナスはサッと素揚げして刻みネギを乗せ、一味とポン酢をかけて頂く簡単料理だ。これがまたシンプルで美味しいのよね。


「ナス料理がこんなに……」

「それでも今日だけじゃ消費しきれないと思うから、後で他にも色々作り置きを教えておくわね」

「ありがとう御座います、アリエッタ様」


 大量のナスを調理しつつ、今度城でもロブ様や子供達にナスづくしの料理を提供しようかな……なんて考えながらほくそ笑んでたら侍女のベッキーが何やらこちらを見てニコニコしている。


「アリエッタ様は料理するのがやはり楽しそうですね」

「ふふ、とっても楽しいわ」

「幸せそうでなによりです」


 王妃となって以前よりは料理する頻度は減ったけど、自分の作った料理を食べて幸せそうな顔を見せてくれる人が居るだけでわたし自身も幸せな気分になれる。きっとこれからも誰かの為に、料理をしていく自分が居るんだろうなって思える。そしてわたしの料理を食べてくれる人たちには感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ルンルン気分でフライパンを振っているわたしの料理を食べる為に、ロブ国王陛下がひょっこりとやって来て大騒ぎになったのはこのすぐ後の話。陛下となったロブ様は、相変わらず街の民からの大歓迎を受けていた。さすがに店の周りは護衛で囲まれていたのは仕方ない。


 でもナス祭りは大繁盛で積み上げられていたナスたちはものの数日で消費されたらしい。

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