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リップル王女の恋物語 ジャスティンSide③

「少しは変わったのだろうか」

「なにがですか?」

「だから、私の顔だよ。最近少しリップル王女が見てくれるようになったんだ。やはり肌の手入れに力を入れたのが良かったのだろうか」

「……は?」


 私の執務室で机越しに側近のテオドールに向かって、リップル王女との現状を伝えると眉間にシワを寄せた後、おもむろに手に持っていた冊子を筒状に丸めたかと思ったらソレで私の頭をポカリと叩いた。


「な、なにをするのだ」

「アホですか!?」


 驚いて抗議の声をあげるとアホ呼ばわりされた。


「まったく……あなたはどうしてあの王女が絡むとポンコツになるんだ」

「幼馴染だからといってアホとかポンコツとか酷いじゃないか」

「真実でしょうが!」


 やれやれという感じでテオドールは額に手を当て、首を振る。


「いいですか、ジャスティン殿下。リップル王女殿下は元から貴方を嫌ってはおりません」

「え……いや、しかしだな。現に私を避けて……」

「あなたの前だとそう見えるかもしれませんが、少し離れてお二人の事を観察していて確証致しました。リップル王女殿下はジャスティン殿下の事がお好きなのだと思います」

「…………んんっ?」


 どういう事だ。り、リップル王女が私を好いている……?


「コンフォーネ王国に居る時は気付きませんでしたが、最近お二人の姿を遠目から見ていたところ……リップル王女が殿下の事を直視されないのは、恐らく恥ずかしいからだと思われます」

「恥ずかしい……」

「現に殿下のお姿を離れた場所からリップル王女が物陰に隠れて見つめておられる姿を何度も拝見しております。妹にも見て貰いましたが、あれは恋しているお姿に間違いないと申しておりました」

「私を……見つめて……」

「はい」

「あのリップル王女が?」

「はい」


 ……うそだろ。私の知らぬところでリップル王女が、私を見つめてくれているのか!?


「だったら何故、もっと近くで見つめてくれぬのだ!? 堂々と見てくれて構わないのに」

「ですから、それが恥ずかしくて出来ないのですよ」

「私は見たいぞ!? リップル王女の事を目の前で、こう、ガン見したいぞ?」

「いや、それはそれでどうかと思いますが……とにかく、妹曰くそれが“乙女心”だそうですよ」

「……乙女ごころ」


 力が抜けたように椅子の背もたれへ身体を預ける。それが本当なら、王太子妃の試練なんて受けないで欲しい。だが、今更受けない訳にはいかない。私たちの想いは陛下たちも兄上も知らないのだ。


 ――どうか、試練が失敗しますように……。


 私は夜空の星へ向かって、不敬に当たるかもしれない願いを祈った。そして……試練の日、当日。その知らせは早々にやって来た。


「お呼びでしょうか、陛下」


 試練が開始されて落ち着かない時間を過ごしていると、突然父上の執務室へと呼ばれた。部屋へ入るとロブ兄上と母上も居た。


「まあ、そこへ座れ。ジャスティン」

「はい」


 父上にソファーへと促されて、ロブ兄上の隣りへ腰掛ける。なんだろう……この変な空気は。父上と母上は少し渋い顔をされている。そして隣に座る兄上は……なんか、とても良い笑顔をされている。いやいやいや、ロブ兄上のこの笑顔は危険な笑顔だ。何か企みがあるに決まっている。


「リップル王女の試練が終了した」

「え……」


 テーブルにお茶の用意がされてすぐ、父上が口を開いた。試練が終了した? いやまだ開始されて一時間も経過していないぞ。


「その……なんだ、お前は心に思う令嬢とかはおるのか?」

「ごふっ!? えっ、ごほ、くはっ……」


 お茶を口に含んだ所で来た質問に吹き出してしまった。慌ててメイドが零れたお茶を片づける。


「い、いきなり、なんですか?」


 口元をハンカチで拭きながら、私は父上の顔を見る。なんだ、なんでそんな風にこちらを伺うような顔をされているのだ。母上は母上で困ったような表情を浮かべている。


「父上、ハッキリ聞いた方が早いですよ。……ジャスティン、お前リップル王女と婚約しないか?」

「……!?」


 ロブ兄上の発言に目の前がグルグルと周りそうになった。願ってもない話だが、なぜそんな話が急に出たんだ。


「さっきリップル王女の試練は、試練の王によって強制的にリタイアされて終了した。試練の王が言うにはその理由は二つ。王妃になる気持ちが残念ながら皆無。そしてもう一つは、彼女には既に心に想い人が居てその相手がお前だ。ジャスティン」

「……えっ、…………あ……」

「私は側室を設けるつもりは無い。そこへ無理にリップル王女を側妃として迎えるよりも、想いを寄せるお前の元へ嫁いだ方が彼女も幸せになれるんじゃないかな」

「…………は、はい」

「お前だって彼女が好きなんだろう?」

「なっ……」


 自分の気持ちを急に暴露されて驚いてロブ兄上を見ると、はニヤリと微笑まれた。テオのやつ、いつの間に兄上にその話を……。


「という事で父上、ジャスティンとリップル王女の婚約の話を早急に進めてあげて下さい」

「ジャスティンもそれで良いのだな?」


 父上からの確認に、私は覚悟を決めた。まだリップル王女本人から気持ちは聞いてはいないが、これを逃したら一生後悔する。このチャンスは絶対に掴まなければならない。


「はいっ! 彼女の事は私からもお願いします。兄上も後から返せとか無しですよ?」

「分かってるよ」


 その日の内に魔道具である通信鏡を使ってコンフォーネ王国へ連絡を取った父上から、コンフォーネ王国側からの許可を得たと連絡を貰う。そして翌日には早速リップル王女との茶会の場を設ける事となった。


 さあ! 気合を入れて彼女を陥としにかからなければならない。彼女に私の気もちを伝えたら驚くだろうか。今度こそ、私の顔を見てくれるようになるだろうか。不安と期待を胸にしながら、私は彼女が待つ庭園へと足を向けた――。

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