お店を見つけたはいいけど…… ※改稿版
※第一話~第六話まで2021.06.19に大幅改稿しました。
詳しい経緯・詳細は第一話の前書き&後書きをご覧下さい。
第七話からは新規投稿となります。
「え、嘘……」
我がネリネ侯爵家経営のカフェの一つである建物の前まで来たわたしとベッキーは、店の前で呆然と立ちすくんでいた。どんな素敵なカフェがあるのかと期待に胸をふくらませてやって来たのだけれど、目の前にあるのはかなり古く傷んだ小さな建物で、しかも入口には貼り紙がしてあった。
「老朽化が進んだから建て直しするみたいですね……」
「なんてタイミングの悪い……これじゃ、どんな店だったのかよく分からないわ」
「でもお嬢様、逆にこれはチャンスかもしれませんよ」
「どういう事、ベッキー」
曇って汚れた窓ガラスから店の中を覗き込んでいたベッキーが笑顔を向けて来た。
「これから新しくオープンするんですよ、そのオープニングを任せて頂いたらどうですか?」
「あ……そうか」
今は改装を控えて店は閉まっているけど、これから工事も始まって新しい店としてオープンを迎える。詳細はお父様に聞いてみないと分からないけど、そのオープニングに立ち会う事が出来るかもしれない。そういった経験を積んでいけば、将来的に自分で店を持つことも可能かもしれない。侯爵令嬢の力を使うのはズルイかもしれないけど、別にお父様たちから勘当されて家を出る訳でもないのだ。それくらいの支援は受けても良いのかもしれない。
「よーし、そうと決まればお父様に相談だわ」
わたしはベッキーと一緒にウキウキとしながら馬車へと乗り込んだのだった。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「――――ダメだ」
開口一番にお父様から出た言葉がそれだった。
「どうしてですか、お父様」
簡単にはいかないとは思ってたけど、こうも全否定だと納得もいかない。お父様の隣りに座るお母様も困った顔をしてわたしを見ている。
「アリーちゃん、何も苦労して庶民のお仕事なんてしなくて良いのよ?」
「そうだ、いずれは何処かに嫁ぐんだ。余計な事はしなくていい」
「……わたしは今は結婚する気はありません。だから事業のお手伝いをさせて下さい」
お互い引かないわたし達を見ていたお姉さまが、おずおずと口を挟んで来た。
「お父様。一度やらせてみてはどうです? 出来なければ諦めもつくでしょうし」
「お姉さま……」
「丁度あのお店はグレン様とリニューアル計画を立てていたところですし、料理の得意なアリーの意見も聞いてみたいですわ」
助け舟を出してくれたお姉さまに、お父様もお母様も渋い顔をする。グレン様とは、お姉さまの婚約者で学生時代から次期宰相候補といわれていた優秀なお方だ。お父様もグレン様に自分の跡を継がせる為、お姉さまとの婚約をまとめたと聞く。現在、第一王子のロビウムシス殿下の側近を務めておられる。
「それに何かしていた方がアリーの気もまぎれて、心のケアにも良いかもしれませんわ」
お姉さまがとどめの一言を添えてくれたお陰で、渋々ながら手伝いの許可が下りた。
「ただし、失敗したその時は大人しく縁談を受けると約束するんだぞ」
「はい、お父様! ありがとう御座います」
お父様の口ぶりからすると、既に何処かからの縁談を手に入れているのかもしれない。さすがに第二王子と婚約していた娘を、年の離れた殿方の後妻にねじ込むことはしないだろうけど……。これは頑張ってお店を成功させなければ!
いつかは結婚するのかもしれないけど、出来たら親の決めた相手でなく自分で見つけた殿方と恋愛してからがいいな。お父様とお母様が今でもお互いを大切にされている姿を見て育ったから、余計にそう思ってしまう。因みにお姉さまもグレン様とは大恋愛の末の婚約だったりする。
クリス殿下とそういった関係になれなかったのは残念ではあったんだけど、こればかりは互いの気持ちの問題だから仕方ないよね。