夏祭りのデートイベント
「お手をどうぞ」
店を出たロブ殿下がわたしをエスコートするかの様に手を差し伸べられた。何度もその手には触れている筈なのに、ドキドキとする胸の高鳴りを感じながら手を乗せる。直に殿下の手の温もりを感じて、胸がキュッとなった。
爽やかな笑顔がわたしへと向けられる。うぐっ……相変わらずカッコいい。周りには沢山の人達が居るのに、ロブ殿下は気にもしていないみたいだ。
「お嬢ちゃん、あの定食屋の子だろ? もしかして王太子様の恋人なのかい」
急に声を掛けられて声の主を見ると、何度か店にも来てくれている常連のおじさんだった。
「えっ、あの……」
わたしが返答に迷っていると、ロブ殿下がわたしの肩を抱き寄せてにこやかにおじさんに答える。
「そうだよ、もうすぐ私の花嫁になるんだ」
「ろ、ロブ様っ」
その言葉に周りから歓声が上がる。
「って事は、未来の王妃さまだ!」
「こりゃ、めでたい!」
「宴だ~!」
祭りの気分も加わってか、みな陽気に祝いの言葉を述べながら乾杯を始め……あっと言う間にどんちゃん騒ぎが始まる。元々今日は夏祭りで街は騒がしく、年に一度の夏祭りは庶民にとって恰好の息抜きの場なのだ。あまりに酷い騒ぎ様だと見回りの衛兵に注意はされるが、この程度ならいつも通りなんだそうな。
「宜しいんですか、話してしまわれて」
「もう婚約発表は済んでるし、問題ないよ」
ロブ殿下はそうは言うけど、ブラッドの方を振り向くと苦笑いを浮かべていた。どうやらロブ殿下は、わたしが知らなかっただけでかなり市井に溶け込んでおられた様だ。
「……わたし、自分で思ってたほどロブ殿下の事を知らなかったみたいです」
「呆れたかい?」
「いいえ、もっともっと知りたいって俄然興味が湧きました」
その答えにロブ殿下は目を細めて微笑まれる。
「では……改めて。お手をどうぞ、婚約者殿」
「はいっ」
わたしたちは初めての夏祭りデートを手を繋いだまま、屋台巡りをして楽しんだ。
そういえば途中で、ジャスティン殿下と遭遇した。もしやリップル王女も一緒かと思ったけど、彼女の姿は無く。ジャスティン殿下は従者を連れて何やら屋台の食べ物を一通り買いあさっておられる様子だった。後で知ったのだけど、城から自由には出れないリップル王女の為にジャスティン殿下が屋台の料理を買いに来ていたらしい。
後日リップル王女とお会いした時に、それは嬉しそうにジャスティン殿下の事を話してくれた。お二人の仲は日に日に仲睦まじくなっておられる様で安心した。ジャスティン殿下からしたら、急に降ってわいた婚約話だっただろう。なのに、リップル王女へと誠実に向き合っておられる姿に感心するばかりだ。
わたしとロブ殿下の結婚式が近づいた頃、庭園でとても幸せそうな笑みを浮かべながらお二人が談笑されている姿を見掛ける様になった。お二人の婚約発表も近いのかもしれないな、と自分の事の様に頬を緩ませてその様子を眺めた。