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楽しい 楽しい 夏祭り! 

 王都の街で開催される夏祭りは、とても賑やかだ。街のあちこちには華やかな飾り付けが施され、屋台から流れてくる美味しそうな匂いが食欲をそそる。いつも以上に多い人混みを抜けて、わたしはプリメラとの共同出店をした噴水広場の屋台へと顔を出した。


「追加の材料、持ってきたわよ」

「アリエッタ様、ありがとう御座います~」


 ロマノと一緒に屋台を任されているケイトへと、持って来た材料を渡す。今回、お姉さまたちから許可を得てプリメラと考えたメニューはカスクートだった。ホットドッグの様に、フランスパンに様々な具材を挟んだ軽食で前世でもプリメラは好んで食べていたらしい。一般的にはハムやチーズなどを挟んだものが主流で、食べ歩きするのにも合いそうだから……という話になった。


 そこで、ハム&アボカド&スライスオニオン、牛しぐれ煮&かいわれ大根&カボチャのソテー、明太ソース&ジャガイモ&レタス……の三種類を用意してみた。そしてプリメラのパン屋前にはチョコバナナの屋台、わたしの定食屋の前では焼きトウモロコシの屋台を設置。


 物珍しさもあるのか、それぞれなかなかの売れ行きで安心しているところだ。特にカスクートはワイン片手に食べると美味しいらしくて、一緒にワインも売れている。


「後でワインの追加を持って来させるわ」

「おお、宜しくお願いしますぜお嬢様」


 大忙しでケイトと二人で注文をこなしていくロマノと、客さばきが上達しているベッキーに屋台を任せて今度はパン屋へと向かう。チョコバナナの屋台には大きなお腹を抱えて座るプリメラとご主人の姿があった。


「アリエッタ様! なんか予想以上の忙しさですよ!」


 プリメラが氷魔法でバナナにかけたチョコを凍らせながら笑顔を見せる。今は庶民になったとはいえ、元ヒロインなので普通に魔法が使える。普段からパン屋の調理でも魔法を活用しているらしい。屋台に並ぶ子供たちが、目を輝かせながらプリメラの魔法を見ている。


「あまり無理しないでね、氷魔法ならわたしも使えるから」

「はいっ! 焼きトウモロコシの方も順調ですか?」

「ええ、ヘレンとバイトの子が必死に焼いてるわ」


 今日は定食屋の方の手伝いとしても臨時のバイトを数人、給仕係として雇っている。また、厨房スタッフもあれから一人増やし、ヘレンの弟のトッドがロマノの下で働いてくれている。以前、他の店で料理人をしていたらしく、トッドは即戦力として頼もしい存在となっている。


「お腹がこんなんじゃなかったら、屋台を見てまわりたいのになぁ……残念」


 大きなお腹をさすりながらプリメラが残念そうに呟く。


「お祭りは来年もあるんだから、逃げはしないわよ」

「まぁ、そうなんですけど~。来年はリップルたんと一緒にお忍びで来て下さいよ~一緒に屋台巡りしましょう」

「ふふ、楽しみにしておくわ」


 そういえばプリメラが教えてくれたのだけどこの夏祭り、実はゲームでのデートイベントの一つなんだそうだ。一作目でも、続編の方でも出て来るらしい。


「アリー」


 甘く響く低音ボイスに驚いて振り向くと、そこにはお忍び姿のロブ殿下がブラッドと共に立っていた。


「ろっ……」

「ロビウムシス殿下!? うわっ、生殿下マジ神々しい……」


 わたしが名前を呼ぼうとしたと同時にプリメラが発した言葉に周囲がざわめき立つ。注目を浴びてしまったロブ殿下だけど、特に気にした様子もなく、唇にそっと人差し指を当てて周りに居る者たちへ口を開く。


「あー……今日はホラ、お忍びで祭りの様子を見に来たんだ。だから、私の事は他の皆には内密に頼むよ」


 その言葉に皆は「はい、いつもの事ですね」「今日も王太子様はお元気そうで何よりです」「ありがたや、ありがたや……」と口々に呟きながら頭を下げたり、拝み出したりする者も居た。ロブ殿下はその様子に苦笑いされながら、わたしを伴ってパン屋の中へと入る。慌ててプリメラもそれに続いた。


「あの、申し訳ありませんでした! わたしの失言のせいで皆にバレてしまって……」


 プリメラが青ざめた様子でロブ殿下へと頭を下げる。


「いや、気にしないでくれ。突然現れた私も悪い。それに私がお忍びでよく街へ来ている事は、結構知られているから大丈夫だよ」

「そうですね、殿下はよく庶民の方々と酒を酌み交わしたり、手伝いをなされたりされる為“気さくな王太子殿下”と慕われておりますからね」


 少し困った様にブラッドが話す。どうやら先程の人々の反応から見ても、それは本当の事なのだろうなってのは分かった。そして結構好意的に受け入れられている様だった。


「まぁ、そういう事だから気にしなくて良い」

「恐れ多いです。ありがとう御座います」


 そう言ってプリメラは淑女の礼を取る。その様子にロブ殿下は少し目を見開いた。


「……もしかして元は貴族のご令嬢かな?」

「は、はいっ。ディング男爵家のプリメラと申します。今はこうして庶民として暮らしております」

「彼女とはここで知り合ったのですが、とても仲良くして頂いてるんです」


 わたしもプリメラをロブ殿下へと紹介する。


「そうか、それなら王宮にも遊びに来ると良いよ。アリーが寂しがるからね」

「ろ、ロブ殿下ってば。……でも宜しいのですか?」

「勿論、誰でも彼でも呼んで良い訳じゃないが。彼女はアリーの大切な友人なのだろう?」

「はい」


 迷いもなくわたしは答えた。プリメラもリップル王女も、かけがえのない大切な友人だ。彼女たちと居ると貴族である前に、普通の女友達として気兼ねなく過ごす事が出来てとても楽なのだ。同じ故郷を持つ者同士の不思議な絆が出来ている。


「なら、私は歓迎するよ」


 ロブ殿下の気遣いに、わたしとプリメラは感謝の言葉を述べた。こっそりとプリメラが「ロブ殿下、中身までマジイケメン」とわたしの耳に囁いたのは内緒だ。


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