王太子妃の試練後のひととき
もう少しで完結!
次作は再び、あの変態王子の続編です(笑)
王太子妃の試練が終わって、気が付いたわたしは王宮の客室のベッドの上に居た。試練を受ける為に用意して頂いていた部屋だ。
「アリー……?」
優しくわたしの名前を呼ぶ声と、握られた手の温かさ。どちらも馴染のある大好きなあの人のものだ。
「……ロブ殿下」
わたしが名前を呼ぶと、心配そうに覗き込まれていた綺麗なお顔が一気にクシャリと破顔した。
「頑張ったねアリー。どこか辛い所はあるか?」
「そうですね……身体に力が入りません」
試練の中で魔力を使い切ったけど、どうやら実際にも使い切っていた様だ。身体がもの凄く怠くて、まるで鉛みたいだ。
「当たり前だ、魔力を使い切る馬鹿が何処に居る」
「必死だったもので……」
ロブ殿下は本気で怒ってはいる様だけど、その分心配してくれているのがよく分かる。
「魔力回復の薬は飲ませたけど、そこまで使い切ってしまってはすぐに効果は感じられないだろう。数日はここで安静にしてなさい」
「う……ご迷惑お掛けします……」
「当分、俺が付きっきりでアリーの食事の介助もするからな」
「えっ? えっ?」
食事の介助って!? まさか、まさか、殿下自らわたしに食べさせるという事だろうか。
「アリーが回復するまでの数日間、休みをもぎ取った。朝から晩までずっと一緒だ」
「えええっ!?」
驚いてアタフタするも身体を動かせないわたしに、ロブ殿下は不敵な笑みを浮かべる。そしてわたしの上に覆い被さる様にして顔を近付け、あっと言う間にわたしの唇を奪う。
「婚姻するまでは、これ以上の事はしないから安心して」
「ろっ、ロブ……殿下っ」
真っ赤になっているであろう顔を隠したいのに、布団さえ動かせない自分がもどかしい。目覚めた途端に恥ずかしくて身悶えしそうだ。いや、動けないから出来ないんだけど。
「身体が回復したら、陛下から直々にお話がある。そこからは……まぁ色々と忙しくなるだろうから、今の間に充分休んでいた方が良いな」
ハッキリとは言及されないが、どうやら感触的には試練の結果は悪くは無かった……と受け取って良いのかな。
「喉は乾いてないか? 何か飲み物を用意させよう」
「では……果実水を……」
そういえば喉がカラカラだ。一体何日あの魔法陣の上に居たのだろう。あの村に居たのは、ほんの一日だったのだけど……。ロブ殿下が呼び鈴を鳴らしてメイドに果実水を頼んでくれた。
「殿下、わたしは何日かけて試練を受けていたのですか?」
「アリーは三日間だ。リップル王女は初日にリタイアされている」
「えっ、リタイアですか!?」
わたしが三日間もという事よりも、初日リタイアのリップル王女の方が気になった。ロブ殿下は何だか苦笑いしながらその理由を教えてくれた。
「リップル王女の心にはどうやら既に想い人が居た様だ。王太子妃になる気が全く無い事が試練開始後すぐに判明して……試練の王から強制的にリタイアされたらしい」
「えっと……えっ? そんな事迄分かってしまうのですか? てゆーか、試練の王!?」
突っ込みたい事が色々とあり過ぎて混乱して来る。リップル王女の想い人に関しては知っているけど、そんなの本人が話さないと分からない筈。そして試練の王とは……まさか、あの語りかけて来たあの声の主の事だろうか。
「試練の王は初代国王陛下の残留意思だ。存命中にあの魔法陣へと残されたらしい」
「初代国王陛下! あー……わたしってば、何て失礼な事を……」
知らなかったとはいえ“悪趣味”とか言っちゃったわ! もの凄く不敬な事を……。落ち込むわたしにロブ殿下は笑いながら優しく髪を撫でてくれる。
「大丈夫だよ、試練の王はとても機嫌が良さそうだったらしいから」
「そ、そうですか……」
「あと、リップル王女の件は暫くジャスティンが対応する事になった」
「まあ!」
わたしが歓声を上げると、ロブ殿下は目を丸くする。
「もしかして……アリーはリップル王女の想い人を知ってたりするのかな」
「ふふ、上手く行くと良いですね~ジャスティン殿下のお気持ちはどうなのですか?」
「そうだな……突然の事で戸惑ってはいる様だが、まんざらでもないと俺は見ているよ」
リップル王女もまさかこんな形で自分の想いが相手に伝わってしまうとは思ってなかっただろうな。何にせよ、恋が成就する事を願うばかりだ。




