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浜辺にて

 ステグムの町を出て馬車を少し走らせると広い砂浜が広がっていた。夏場にはここで庶民たちは泳いだり、日光浴を楽しんだり出来る。裕福な貴族たちは皆、自分の別荘から繋がるプライベートビーチを持っているのでここには来る事はない。


 前世の海水浴場みたいに海の家がある訳ではなく、ただ海と砂浜があるだけだ。領主がきちんと整備をしているのかゴミ一つ落ちていない、とても綺麗な砂浜だ。今の時期はまだ肌寒さがあるからか、夕暮れという時刻のせいか人の姿は見えなかった。


「足元に気を付けてね」

「はい」


 ロブ殿下と手を繋いで砂浜をゆっくりと歩いて行く。少し離れた距離を置いてベッキーとブラッドも、わたし達の後ろからついて来ている。なんだかこれじゃダブルデートみたいね……なんて思ってしまうけど、当の二人は仕事としてついてきているだけだものね。でも二人ともわたしから見ると結構お似合いに見えるんだけどなぁ……なんて。


「陛下から……試練の話は聞いた?」

「はい……三日後から始まるそうです」


 リップル王女とプリメラの三人で集まった翌日に王宮からの呼び出し状が届き、先日リップル王女と一緒に陛下から王太子妃選考の試練についての話を伺った。王宮の地下から伸びる地下道を抜けた所に、王太子と王太子妃が受ける試練の空間があるらしい。そこで数日かけて試練を受ける……という話だった。


「……アリー、俺の傍に居る事を選んでくれてありがとう。時々、王太子という身分を捨ててしまいたくなる事もあるんだ……もっと自由に自分の思う通りに生きてみたい、ってね」

「ロブ殿下……」

「でもね、そんな時に君の顔を思い出すんだ。そうすると不思議と前を向けるんだ。幼い頃からアリーの存在は俺にとって何よりも大切で、かけがえのない宝物なんだよ」


 海を見つめながらロブ殿下は何処か遠くを見ているかの様に少し辛そうに、そして愛しそうに言葉を紡いでいく。


「試練の結果がどうあったとしても、俺は君を裏切らない。だから俺を信じて、安心して試練を受ければいい」

「……はい」

「……まぁ、勿論君が無事にクリア出来るって事は確証しているけどね」

「殿下ったら……」


 悪戯そうにウィンクして見せるロブ殿下。その笑顔のまま、わたしの顔に殿下の影が落ちてくる。肩を抱き寄せられ、重ねられた唇に瞼を閉じる。


「あ……」


 ――――静かに波の寄せる音を耳で聴きながら、互いの熱い吐息を交わす。


「……愛しているよ、アリー」

「わ、たしも、愛しています……ロブ殿下」


 ロブ殿下の腕の中でバクバクと鳴る自分の胸の鼓動を押さえながら、何とかわたしの想いも伝える。そっと背中に回した手で殿下の背にぎゅっとしがみつくと、わたしを抱く腕が更に強くなった。


 わたし達は完全に日が暮れてしまう迄そのまま抱きしめ合っていたらしく、「そろそろ戻りませんとアリエッタ嬢が風邪をひかれてしまいますよ殿下」とブラッドが声を掛けてくる迄周りの事が何も見えていなかったらしい。ブラッドの言葉に思わず驚いてロブ殿下と顔を見合わせて苦笑いした。

いよいよ次の話から王太子妃の試練開始!

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