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クリス殿下の来店

 あれから十日程経過した。その間、ロブ殿下は公務が忙しいらしく朝の迎えも店の方へも来ていない。その代わりという訳ではないのだろうけど、何故かクリス殿下がお忍び姿で店へと現れていた。


「いや~アリーがこんなに料理上手だったとはな」

「ありがとう御座います……」


 うーん、何故クリス殿下まで店に来るのだろう。ここ、庶民向けの定食屋なんだけどなぁ。王族が来る様な店では絶対ないよね?


「……あの、さ。明日の夜、ちょっと時間取れないかな。話したい事があるんだ」


 食事が終わった後、クリス殿下が何か言いにくそうにしながらわたしに聞いた。


「店が終わった後でなら大丈夫です……邸の方で良いですか?」

「ありがとう! ココレシアも一緒に伺うが構わないか?」

「え、えぇ……」


 ココレシア嬢と一緒に!? 一体何の話だろう……。あ、そういえば、まだお二人の婚約発表はされていなかったわね。発表があるからとか事前に知らせてくれるのかしら。疑問に思いつつ、翌日の夜を迎えると予定通りにココレシア嬢を伴い、クリス殿下が我が邸へ訪問された。


 わたしは応接室へとお二人を通し、お茶の準備が整うとクリス殿下へと話を促した。


「それで……改まってどうされたんですか?」


 わたしがクリス殿下に視線を向けると、唇をぎゅっと結んでいたクリス殿下は急にその場で立ち上がった。


「その……アリー、申し訳なかった!」

「私も申し訳ありませんでした!」

「えっ、な、何ですか急に」


 わたしへと深く頭を下げ始めたクリス殿下。その隣に座っていたココレシア嬢もならう様に、一緒に頭を垂れる。いきなり謝り出したクリス殿下達にわたしは驚きを隠せない。


「オレが自分の我儘で兄上とお前の婚約を阻んだ事、それから、勝手な都合で婚約破棄をしようとした事。全部オレが身勝手だったと思っている。迷惑掛けて申し訳なかった」

「……クリス殿下」

「父上と兄上からめちゃくちゃ怒られて、お前や兄上に迷惑を掛けていたという事に今更ながら気付いたんだ。今まで気付かなくて本当に悪かったと思っている」


 クリス殿下はこれでもかという位に頭を下げていて、こんなお姿は初めて見るな~と呑気な事を考えてしまった。


「私も……お慕いしているアリエッタ様に辛い思いをさせてしまった事、改めてお詫び申し上げます。未だに社交界でアリエッタ様に良くない噂が広まったままなのも、どうなるのか考えも無しにしゃしゃり出てしまったからです」

「いや、それも全てオレの考えが甘かったからだ。アリーの事を考えずに、オレがココレシアに入れ込んでしまったから。きちんとした対応を取ってから動くべきだった。申し訳ない。噂に関してもこちらで何とか対処をするつもりだ」

「……お二人の謝罪は受け入れましたので、どうか頭を上げて下さい」


 わたしとしては、もう二人の事は許しているつもりだったので改めてこうやって謝罪をしてくれた事に逆に驚いた。クリス殿下も謝る事を知らない人だったけど、少しは成長されたという事だろうか。……やっぱりわたしはクリス殿下の事を婚約者というよりも、保護者的な目で見ていたんだな~と思う。恋愛対象として見れなかったのも、そういう事なのかもしれない。


「…………ありがとう」

「ありがとう御座います……アリエッタ様……」

「どうぞ、お二人とも座って下さいな」


 わたしの言葉にようやく下げていた頭を上げ、それでも申し訳なさそうにソファーへと座り直した。 ひとしきり謝罪が終わり、クリス殿下は少し安堵の表情を見せた。その後、再び姿勢を正して次の話を始める。


「それでだな……オレは暫く隣国へ留学する事となった」

「それは……また急なお話ですね」

「父上から国外で精神を鍛え直して来いと言われてだな、帰って来るのは数年先だ」

「そうですか。では、お二人の結婚はその後という事ですか?」

「あぁ、そうなる。帰国後は王位継承権を返上の上、臣下に下って兄上の補佐をしていく予定だ」

「えっ……王位継承権を返上なさるんですか」


 驚いてクリス殿下を見るけど、本人は意外にもケロッとしていた。


「元々オレは王の器ではないし、まだ少し幼いが弟のジャスティンも居るからな」


 第三王子であるジャスティン殿下はまだ十五歳だが、なかなかしっかりとしたお方だ。クリス殿下が留学中の間に、ココレシア嬢は住み込みで修道院の仕事を手伝う事になったらしい。どちらも国王陛下からクリス殿下の婚約破棄騒動に対して、けじめを付けさせる為の処遇との事だった。なのでわたしからは何も言う事は出来ない。婚約解消をあっさりと承諾された時は不思議に思っていたけど、やはり陛下なりにお考えがあったという事だろう。


 そして今度は、わたしが果たして王太子妃に相応しい人間なのかを陛下に試されているという事でもある。敢えてリップル王女を呼び寄せ、わたしと競わせる事でより相応しい方が王太子妃に就く。恐らくリップル王女が候補から外れたとしても、それはそれで何か対策を講じている可能性もある。……やはり陛下は底が見えないお方だわ。

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