第6話 エルフ
ふとした瞬間に、平和は呆気なく終わることもある。
それがどのタイミングなのか?
わからない。
この家を買った時なのか?
ロンを拾った時なのか?
ミラを助けた時なのか?
そして……深夜俺達が寝ている家の前で誰かが襲われてる時なのか。
女性の叫び声で、ふと目を覚ます。
追われていたのか家の前で捕まったらしく、これから複数の男達に犯されるのであろう。
俺の家は王都南地区のスラム街より治安が良いとはいえ、大通りから裏路地徒歩20分、それなりに悪党もいる。
俺は冒険者なので対処は出来るし、ロンやミラみたいな年寄りを襲って利益になることもないので、あまり気にしてない。
そして、こんな所まで来てしまうのがそもそも襲われる原因なので、襲われた女性に対して『ご愁傷さま。』としか思わなかった。ココはそういう世界なのだから。
ただ、ロンとミラが騒ぎを聞きつけ出てこないことに不思議に思った。
年寄りといえど魔力や知識は、想像付かない程の力を持っている2人であるし、正義感も俺よりはあるだろう。歳をとると睡眠が浅くなると言うが一向に起きてくる気配がない。
ついにボケたか?
それならそれでいいかと襲われる演奏会をBGMに、再び眠りにつこうと思ったが無理だった。
嫌がる女性の声が何を喋ってのか上手く聞き取れない。
その1番の理由は男共がうるさ過ぎるのだ。
男共の喘ぎ声、鼻息、周りの男による歓声、何故か実況まで居る。
AV借りて観てみたら男優がうるさくて女優の声が聞こえない。
ガン萎えである。
AVが何か?そんなことはどうでもいいが、とにかくイライラする。
『お前の声が聴きたい訳じゃない!』と叫びたくなるほどイライラする。
あまりのイライラに部屋を出て2階通路窓から飛び降りる。
「うるせぇ!近所迷惑だ。他所でやれ!」
ランタンが5つ。5人以上か。
しかし、ズボンを下ろしてる男が3人。余裕だな。
3人の男は自分のナイフを仕舞うのに必死で簡単に一撃で吹っ飛んでいく。
他の男達は本物のナイフを抜きだしたが、こっちは今まで寝てて暗闇慣れしており、男達はランタンの明かり頼り。勝負にもならなかった。
追加で3人ほど殴ったり蹴ったりしたら、しっぽを巻いて逃げていた。
定番の「覚えてろよ!」と捨て台詞を貰ったが、『この暗闇ではお互い無理じゃね?』と、どうでもいいことを思った。
さて、助けるつもりはサラサラなかったけれど結果助けてしまった女性はというと、殴られたのか頭を打ち付けられたのか気絶していた。
(最近よく見る流行ってるのかわからない)フード付きローブからはだけて見える下の服はビリビリに破かれて色んなところが丸見えになっていた。
このまま起こしてリリースしても、また何処かで襲われるだけかと思い、女性を抱き上げ家の扉を叩く。
『イライラしてておウチの鍵を部屋に置いて飛び出して来ちゃった!テヘペロ』と、気持ち悪い言い訳を考えながら、あのボケた2人が起きてくることを願い扉を叩く。
幸いボケが治ったのか、ロンとミラは2人とも起きており鍵を開けてくれ、女性を抱えながら入る。
「フォッフォッ。なんじゃ?どうした?」
「ああ。家の前で襲われてて五月蠅かったから、2階から飛び降りて追っ払った。
殴られたか頭打ったか、気絶してるな。」
ロンの疑問に説明したら、ミラは食堂のテーブルを合わせて、そこに置くよう指示してきた。
ミラの仕切りに俺はシーツやら布ならを集め、ロンはお湯の準備をしつつミラの介抱を手伝う。
ある程度処置が終わって3人ホッと一息。
改めて襲われた女性を見る。
長く美しい金色の髪に頬に殴られた後がありちょっと腫れてるが元は整った顔だとわかる。
恐らく普通にしてれば10人が見て9人は美人だと言うだろう。残りの1人は言わないでおこう。
そして、横に付いている長く尖った耳。
おおぅ。エルフだよ。
ため息をつきつつ、思った。
どうせまたこうなるんだろ?
『中年冒険者の家に、エルフが加わった。』と。




