第111話 教育上Ⅱ
「あー。コレはアレよ。
この部屋で封印しているのよ。そう!そうよ!
この2人を別々に外へ解き放ってしまったら大変なことになるわ。
だから、この部屋で封印しているのよ!」
とんでも理論だな。
そんなのでヴォルガは納得しないんじゃないか?
「まぁわからんでもないな。
あの兄ちゃんと姉ちゃんはそれこそ毎晩ずっとヤってやがるしな。」
おい。納得しちゃったよ。
しかし、これで終わりじゃないとばかりに、ヴォルガは俺達を連れて1階へ降り、ある部屋の前まで行き、そこでもまたこっそりと少しだけ扉を開ける。案の定、聞こえてくる姦しい声。
「新しいヴォルガさんも小さくて捗るわよね!」
「でも、あの方はディトさんにメロメロなんでしょ?」
「それがいいんじゃない!とりあえず、最初に描くネタは決まったわね!」
「そうね。やっぱり……」
「「「「ヴォルガさんをディトさんで、くし刺……」」」」
メイド達が結論を言う途中で、またしてもスッと扉を閉めるディアナ。
「……続き。聞きたいかしら?」
「い、いや、結構だ。」
ディアナの問いかけにヴォルガはビクンとなって拒絶する。
こっそり手で尻をガードしているのは見ないことにした。
教育上よろしくないとかそんな次元じゃなく純粋に身の危険を感じたようだった。
「魔剣ちゃん!そういえば、絵本にも歌にも出てないって嘆いてたの。
知ってる?あの子達の本には、魔剣ちゃんがいっぱい、くし刺……登場してるの!」
「本当ですか?
マスター。是非読んでみたいです!」
キエナがディトに恐ろしい発言をし、ディトも嬉しそうにしている。
ヤバい。絶対見たくない。
ヴォルガじゃないが、手で尻をガードしたくなってきた。
「あー。リオ。どうする?」
ディアナがニヤニヤしながら聞いてきた。
あのさ。俺、絶対出てるよな?
そして、ディトにくし刺しにされてるんだろ?
誰が見たいと思うか!てか、お前達の旦那だぞ?
いいのか?それで……。
「い、いや、結構だ。」
結局ヴォルガと同じ言葉を紡ぐしかなかった。
更にヴォルガ発案の教育上ツアーは続いた。
次の部屋まで行って、その部屋の前で立ち止まり、その扉のドアノブを掴もうとするヴォルガ。しかし、素早くディアナがヴォルガの手を掴んで阻止した。
「あー。この部屋はダメよ。」
「なんでだ?教育上よろしくないからだろ?」
「……ええ。そうね。ごめんなさい。私達が間違っていたから。
だから、この部屋はダメよ。」
ディアナさん?
それでいいのか?
あれだけハチャメチャ理論を押し通していたのに、アッサリ認めるのか?
まぁでもこの部屋だからな。
ディアナ達には厳しいか。
ディアナとキエナ、そしてヴォルガが話し合っていると、そんな開けたくない部屋の扉が開いた。
「ぬ?そなたらは我らの部屋の前で何をやっておるのだ?」
「おう。ブラント。ちょっと揉めててな。」
出てきたのは、予想通りブラントだった。しかし、普通の格好をしていた。
この流れなら絶対ベロスと戦闘中だと思っていたが、違ったようだ。ディアナやキエナはかなりホッとしていた。
ブラントにも事情を説明すると、珍しくブラントはディアナ側についた。
「うむ。確かに程度は弁えるべきだ。部屋の中では、好き勝手すれば良いだけぞ。
ヴォルガよ。食事の際まで酒を飲まなければやっていけぬ訳ではあるまい?
もしそうなら、我らもそなたの前で好き勝手するぞ?」
「そいつは勘弁だ。酒が不味くなる。」
食事中に目の前でブラントとベロスの絡みを見せられる地獄絵図を想像したのか、ヴォルガは正直に感想を言った。
「ヴォルガ。言い過ぎだ。ブラント達に失礼だろ。
それに、俺達は飲むなとは言ってない。部屋や鍛冶場では好きにすればいいんだ。」
「チッ。わかったぁよ。
ブラント、悪かったな。すまねぇ。」
「うむ。気にしておらん。
だが、アレだな。隣が騒がしいのだろ?部屋ぐらいは替えたらどうだ?」
「あー。それはそうね。
ヴォルガさん。ごめんなさいね。すぐに替えるわ。」
こうして、ヴォルガの部屋は移動することになった。
それ以降、ヴォルガは食事中に酒を飲んでいることが少なくなり、酒臭さも許容範囲に落ち着き、他の住人達や子供達からも親しまれるようになった。




