第102話 願い
「オウガか。アンナと子供まで連れて一体どうした?」
「すまん。リオ。
俺にこの決定権は無いんだ。どうしようもなかった。」
久しぶりに会ったオウガから、いきなり謝られた。そして、そんなオウガから手紙を渡された。
テトルとナトリーからだった。
嫌な予感がプンプンする。
読みたくない。しかし一応、エルフの国王と王妃。読まない訳にはいかない。目の前にオウガ達家族も居るからな。
渋々手紙を開くと、まずナトリーからの短い文が書かれていた。
『リオ。面倒なのはお嫌いでしょ?
オウガ達家族をその家に住まわせなさい。アナタ達との連絡に丁度良いわ!』
本当にこれだけしか書かれていなかった。
仮にも王妃だろ?
いや、かしこまって長々とした文を書かれても確かに面倒臭いがな。と思ったら、別の紙にはテトルから、ちゃんとした文で説明やナトリーのフォローが書いてあった。
「おい。オウガ。
あの王妃で本当に大丈夫なのか?」
「すまん。だが、普段はちゃんとしているぞ?
恐らくお前が適当に扱うからだろう。どちらが素なのか分からんが、お前に会う前まで俺は、こんなナトリー様を見たことがなかったんだ。」
「おい。それだと俺のせいみたいじゃないか?」
「あらあらまあまあ。別にいいじゃないですか。
それでどうでしょうか?『お願い』を聞いてくれませんか?」
「アンナさん。これは『願い』なのか?
拒否権が無さそうに見えるんだが……違うか?」
「うふふ。どうでしょうねぇ。」
笑って誤魔化すアンナ。こういう時だけオウガは空気だ。
まぁ仕方がない。俺もそうだからな。
「というか、オウガ。お前は王族の護衛だろ?しかも隊長とか結構地位もあったはずだ。それがウチとの連絡係になんて……ヘマして降格でもされたのか?」
「馬鹿を言うな!今でも護衛だ!
ただテトル様とナトリー様は結婚式の陣頭指揮で暫く国内で調整しているのだ。その間だけと聞いている。」
本当にそうか?
コイツも頑固だしなぁ。
適当に言いくるめられてるだけっぽいが、そういう事にしておくか。
アンナをチラ見したら苦笑していたので、ウソ臭い。
俺の感じでは、結婚式をノリノリで計画しているテトルとナトリーが、その結婚式を興味無さげなオウガを追いやったようにも思った。
変に近くに残すと、アレはダメ。コレはダメ。とコイツなら絶対言いそうだしな。
「はぁ……。まぁとにかくだ。ウチに住むんだろ?
オウガは全員知ってるし、アンナさんもディアナ達と前から仲が良いみたいだから問題無さそうだしな。ただ、その子は大丈夫か?1歳になったかどうかぐらいだろ?」
「ああ。トビーのことか。
また何処かへ旅行に行くとなると厳しいが、ここなら問題無い。国も近いからな。」
「あらあら。また私とトビーを除け者にするのですね?」
「違うと言っただろ?そういう事じゃない。」
ああ。なるほど。
トビーの心配よりも、アンナが怖いのか。
あるあるだな。俺もそうだからな。
「そうか。とにかく歓迎?しよう。
何度も来ているとは思うが、気楽に過ごしてくれ。」
中年冒険者の家に、オウガ達エルフの家族が加わった。




