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中年冒険者、家を買う。  作者: 小雅 たかみ
1棟目 ~始まりの元宿屋~
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第30話 吟遊詩人

吟遊詩人。


歌と曲にて人を喜ばせ、

時にはお金を貰い、

時には食べ物を貰い、

時には宿を借り生活する職業だ。

大体が酒場や食堂を転々とし、同業と被ったりあぶれたりしたら、宿屋にも営業したりする。


このキザ男はここを宿と勘違いしたのだろう。

それにしても良くここまで辿り着いたものだ。

吟遊詩人としての才能が無いのだろうか?


他の住人は、のんびりとした日常からの珍客に、刺激を受けたのかワクワクした雰囲気が伺えるので、まぁこれも縁かと考え、吟遊詩人を受け入れた。


吟遊詩人の方は、受け入れられたことを喜びつつも入った瞬間にふと足を止める。

宿屋と思っていたが店主や店員らしき人が見当たらず、さりとて家族というにはバラバラで誰一人似てもいない。

一瞬顔が強ばるが、それでも吟遊詩人の経験が為せる技なのか、すぐに復帰しキザ男らしいキラキラとした愛想を振りまく。


「では、始まりの旋律は定番の曲としましょうか。」


と、吟遊詩人が壮大な伴奏から入る。

腕は確かなようだ。


リオは冒険者なので、酒場に居る時に聴いたことがあり、確か【聡明なる賢者】という魔法使いの英雄譚を元にした歌だったと記憶を思い起こす。

キエナ、ネル、アキヒコは瞳を輝かせて吟遊詩人を見たり、目を閉じ演奏を心から堪能したりと思い思いに楽しんでいた。

意外なことにミラが上機嫌で、吟遊詩人へ賞賛したり煽ったりとはっちゃけていた。

が、隣のロンがプルプル震えてこともあろうに魔力を練り出すと、ミラは即座に気づきロンの腕を捻りあげる。


「ジジイ、こんなところで沈黙の魔法なんて使うもんんじゃないわ。

ヒッヒッ。ホレ、子供達を見てみい。場を白けさせるんじゃないわ。」


そんなことを言い放つミラへ、ロンは睨みながら恨み言をいつくか吐き出す。

が、ネルやアキヒコの楽しんでる様子を見て何かを悟ったのか頭抱えて座り込んでしまった。


ときおり「ワシ、そんなことをした覚えがない…それも違う…」とブツブツと呟いていたの、気づいた。


あぁ、この歌詞の内容。ロンをモチーフにした曲なのか。


ディアナも気づいたらしく、苦笑しながらロンへ生暖かい視線を送っていた。


そういえば、【聡明なる賢者】の曲は定番なのだが、対を成す兄弟歌があったはずと思い出していた。

なんてタイトルだったかなー?と喉に出かかったタイトル名をひねり出していると曲が終わってしまった。


ロン以外からの拍手喝采に吟遊詩人は華麗に一礼し、合間のMCもその透き通った声で流れるように廻す。


「ありがとうございます。

【聡明なる賢者】という、この世界で最も歌われる曲のひとつでございます。

男性はこの曲を聴いて夢を追い求めると言われ、女性は次の曲を聴いて美を磨くと広まりました。

では次の曲、【妖艶なる……。」


「オイ!吟遊詩人。いくつかリクエストをお願いしてもいいかぃ?」


吟遊詩人のMCをブチ切って、ミラはチップを渡しながら次の曲をリクエストした。

吟遊詩人へ渡すチップは大体が銅貨だ。

素晴らしく感動したり、裕福な人でも銀貨程度だ。

しかしミラは金貨を渡したものだから、流れを遮られた吟遊詩人は気にせず、むしろやる気に満ち溢れてミラのリクエストを歌い出した。


「クソババア!ワシだけ恥ずかしい思いして、おまえさんはズルくないか?」


「ヒッヒッ。なに、丁度聴きたい曲がどうしてもあったのでねぇ。」


「フォッフォッ。ならばワシも金貨でアレをリクエストするかのぅ。」


「クソジジイ!それをやったらタダじゃおかないよ!」


と、吟遊詩人の本気の演奏をBGMに、割とガチめの場外乱闘が発生した。

いや、ただのジジイとババアの口論だけど。


それを見て、思い出す。

先程流れでやる曲は、【妖艶なる魔女】ってタイトルだったな。

ってことはアレはミラがモチーフなのかと。


どちらも素晴らしい歌詞なのだが、年月が経てばただのジジイとババア。

諸行無常。



金貨分に一生懸命に歌う吟遊詩人。

口論するジジイとババア。

しみじみ頷くリオ。

察してため息を吐くディアナ。


そのカオスっぷりに、キエナ、ネル、アキヒコはついていけなかった。


とりあえず口論だけでも止めた方がいいんじゃないかと家主を頼るも、あれはじゃれ合ってるだけと家主は一蹴する。


それでも不安な顔のままなので、3人に優しく教えてあげた。


「いいか?最初に聴いた曲は爺さんの人生をモチーフにし、次に聴くはずだった曲は婆さんをモチーフにしているんだ。」


それを聞いてアキヒコは「凄い!凄い!」とジジイとババアを尊敬した眼差しで見ていた。

だが、アキヒコよ。それは悪手だ。


「アキヒコ、それはダメだ。知らないふりして放置が正解だ。」


「うぅ。何でですか?さっきの歌詞みたいに凄いことをしたんじゃないですか?」


「アキヒコ。いいか?

お前の人生が歌詞にされ、色んな場所で夜な夜な歌われる。どうだ?」


「うぅ。ごめんなさい。死にたくなります。」


「そうだ。そっとしておいてあげるんだ。」


流石勇者。理解が早くて助かるぜ。

キエナとネルも大丈夫そうだ。


黒歴史は封印してこそだ。解き放ってはいけない。

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