第86話 鞘
神父と別れてミラと一緒に教会を出る。
そのまま武器屋に寄るので、ミラだけは魔剣を名残惜しそうに見た後、家に帰っていった。
「あの人から、不穏な空気を感じます。」
「そうだな。婆さんはそっちの方面は専門だ。
お前を分解でもしたいんじゃないか?」
「拒否します。」
そりゃそうだな。
魔剣の気持ちがよく分かるというのもおかしな話だが、俺の特性を知った後でロン、ミラ、そしてブラントの俺を見る目がたまに同じようになっていて、寒気がする。俺の場合は、どこまで普通なのか?そんな実験がしたそうだった。そんな感じだろう。
だからと言って強引にしてくることも無いから、魔剣も大丈夫なはずだ。
「まぁ、無理矢理してくることは無いから気にするな。」
「アナタがマスターとして、ワタシを守ってください。」
「お断りだ。だから気になるなと言ってるだろ。」
剣が俺に守れと言う。
俺が剣に守れと言うのも変か。逆では無いが、何かが違う。
そして、ことある事に俺を所有者にしたいようで、うんざりする。出会い始めのラキティスと被って仕方がない。押し切られないように心を強く持とう。
そんなやり取りをしていたら武器屋に着いた。
無くしてしまったが、愛用の武器のメンテナンスはココでお願いしていたので、まだ長い付き合いでは無いが馴染みの店になっていた。
「おやっさんは居るかい?」
店に入りながら気軽に声をかけると、奥からいかにも武器屋の親父という風貌の男性が出てきた。
「んぁ?リオじゃねぇか!
久しぶりだな。っても、当たり前か。お前の噂は耳が腐るほど聞かされたぞ?
丁度良かった。ついこの間、ここにな…。」
「久しぶりだな。おやっさん。
今日の用事はちょっと特殊でな。
こいつのメンテナンスと鞘を作ってもらいたいんだ。」
なんだか話が長くなりそうだったので、流れをぶち切って要件を伝える。
カウンターらしき場所に魔剣を置く。話を遮られた事に機嫌が少し悪くなった武器屋の親父だったが、俺の置いた剣を一目見ると取り乱した。
「おめぇ。コレ、魔剣じゃねぇか!?一体どうした?」
「ああ。サバイバル中にオーガから奪った。呪われていたが、さっき教会で解呪したから大丈夫だぞ?しかもだな……」
「メンテナンス。よろしくお願いします。」
「……と、まぁこんな感じで喋るんだ。」
サクッと事情を説明し、魔剣に割り込まれたが、丁度良いとそのまま簡潔に終わらせる。武器屋の親父は顎が外れそうな程、あんぐりと口を開けて驚いていた。
「とりあえず、こいつの鞘となると相場がサッパリだ。ある程度は払っておくから、足りなければ家に来てくれ。俺の家の場所は、ここからだと、そうだな……」
「分かった。分かった。
ったく、おめぇの家はもうこの王都の誰もが知ってらぁ。こいつは面白ぇ頼みだ。腕がなるってもんだ。
そうだ!リオ。おめぇ、その間武器がねぇだろ?こいつを代用品として持っておきな。」
武器屋の親父は奥へ下がったと思ったら武器を持ってきた。今まで使っていた愛用の武器だった。
「これは……!俺の武器……?」
「ああ。さっき言おうとした事だ。ギルドからまわってきた。いつもメンテナンスしてるからと言われてな。有難く使っておけ。」
「ああ。ありがとう。」
そう言って嬉しそうに受け取った。その様子を見ていた?魔剣から哀しそうな声が聞こえた。
「ワタシは、ソレに負けたのですか?」
「違う。別に勝ち負けじゃない。むしろ、性能という意味ではお前の圧勝だろ。
とにかく、しっかりメンテナンスしてもらえ。サッパリすれば気持ちもスッキリするだろ。
おやっさん、後は頼んだ。」
「おうよ!任しておけ!」
魔剣を武器屋の親父に預け、愛用の武器を持って家に帰る。
その様子を寂しく魔剣は見つめて?いた。




