第15話 猫人族
正確には猫ではなく人だった。
黒い猫耳としっぽの生えた猫人族というやつだろう。
獣人という他の人種には無い獣の因子を持ち合わせた人種のことである。
その中のネコ科に属し普通の人よりも俊敏性に優れた種族だとは聞いたことが何処かであった。
そんな猫人族の女の子が立っていた。
家の前に立っていることから、俺達の誰かに用があるのだろう。
「おい。ここに何の用だ?」
「……ここの家主に用がある。」
「俺か?思い当たる節は検討もつかんが、まぁともかく中に入れ。詳しい話は中でしよう。」
「……ん。」
こくりと頷いた猫人族を追い越して扉を開ける。
この時、完全に油断していた。
どうせいつものパターンで、今度は猫人族が加わるんだろ?と。
扉を開けて、奥に見えるキッチンでディアナとキエナが仲良く料理を作ってる。
帰ってきた俺に向って笑顔を振りまくが、ふとした拍子に一瞬で青ざめた顔へと変わる。
ディアナ達の目線を追い、自分の下へ視線を落とすと腹から剣が生えていた。
すぐさま剣を握っている猫人族の手を裏手に掴み、家の中へと投げ飛ばす。
猫人族は空中でくるりと回って綺麗に着地する。
「リオ!」
ディアナは事態を把握出来ずにいるも此方へ向かおうとしキエナに止められている。
腹にはまだ剣が刺さったままだが、相手は無傷だ油断出来ない。
キエナはディアナを守りつつ魔法を使うつもりのようだ。
それを猫人族は危惧したのかもしれない。
俺ではなくキエナの方へ飛びかかった。
間一髪キエナの魔法か発動し、木で出来たテーブルや椅子、床や柱から芽が出て蔦が伸びだし、あっという間に猫人族を空中て捕らえた。
魔法を使用したせいか、捕らえた安堵によるものかキエナはふぅと一息つく。
そんなキエナからは見えなかったかもしれないが、油断せず構えていた俺だけが見えていた。
まだ手首から先は自由であり、そこには仕込み投擲武器が今まさに手首の返しのみでキエナに向って発射されようとしていた。
踏み込み、体ごとその射線上に投げ出す。
踏み込む際に腹と背中から空気が抜けるように血が吹き出したがそんなことはどうでも良かった。
間に合ってくれと腕を伸ばす。
これまた間一髪キエナへ向かった投擲武器は腕を貫通することなく遮られ、飛び込んで滑り落ち、生えたままの剣が床に当たり更なる重症を負う。
狙われた困惑と救われた驚きでキエナはどうしていいか分からなかったようだが、目の前で倒れ更に重症を負わされたことで激高し、完全拘束し終えた魔法に更なる追撃を仕掛けようともした。
「ダメだ!殺すな。頼む!」
歯を食いしばりながらもそうキエナに懇願した。
そこへやっと登場するボケコンビことロンとミラ。
「フォッフォッ。なにご……リオ!何があったのじゃ!」
「爺さん、婆さん、すまん。俺がしくじった。が、原因がわからん。後は頼む。殺すな。キエナに殺させるな……。」
意識がどんどん薄くなる。
ディアナが泣いてる。キエナも泣いてる。
まだ全然死にたくは無いが、こう綺麗どころに囲まれるもの悪くないな。と、薄らした気持ちでぼんやり目を閉じようとした。
その目の前にババアがドアップで映り込んできた。
「ヒッヒッ。死なせてなるもんかねぇ。」
確かに、コレが最後の絵面じゃ死んでも悔やみきれない。
ディアナでもキエナでもいいからチェンジしてくれ!と神に願った。




