第106話 家を出る
城から近い北門に追放用の馬車とともに捨てられる。
その近くで待機していた団体がやってくる。
ウチの住人達だ。爺さんと婆さんにお願いしておいて本当に良かった。
細々としたやり取りをして、改めてロン、ミラと向き合う。
「フォッフォッ。上手くいったようじゃのぅ。」
「ああ。爺さん、婆さん、すまん。
少し前までは看取るつもりだったんだがな。」
「ヒッヒッ。アタシらはまだまだ生きるさねぇ。」
「そうだな。
すぐにポックリいくのが想像できん。」
中年、老人、老婆はそれは楽しそうに笑い合う。
その後、ディアナとキエナへ向き合う。
「ディアナ。キエナ。すまんな。
それでも俺の嫁として、ついてきてくれるか?」
「あー。次はもう少し良い家がいいわね。
期待していいのかしら?」
「やっぱりお風呂が大きいと良いの!」
「そうだな。
だがディアナの方が金持ちじゃないのか?
俺は身一つで捨てられたばかりだぞ。」
「あー。貸してあげるわ。」
中年、妻、エルフも楽しそうに笑い合う。
そこにポワポワが飛んできた。俺の頭上に。
「ピッ。」
「ポワちゃんも来るの?」
「そうだな。
ポワポワ。お前は好きしろ。」
中年が頭上の鳥を撫で、鳥も気持ちよさそうに鳴く。
次に、アキヒコ達へ向き合う。
「アキヒコ、ネル、タロト、パムル。
お前達はもう立派な冒険者だ。
王都で経験を積み、世界を廻れ。
そうしたらまた会えるかもな。」
「うぅ。リオさん。本当にありがとうございます。」
「……ん。待ってて。」
「ハッ。リオさんより強くなってやるぜ!」
「タロくん、言い過ぎですぅ。」
「そうだな。
タロト。俺が生きている内は期待して待ってる。」
「……ん。アッサリ死なないで。……ね?」
「ああ。だが俺に剣を突き刺したネルの言うセリフじゃないな」
中年、勇者、猫人族、犬人族、シスター見習が笑い合う。
そして、クルーべとアルバに向き合う。
「クルーべ、あの家は自由に使うといい。
後で変なのが来たらアルバにたたき出してもらえ。爺さんと婆さんも頼む。」
「ええ。わかりました。ですが……え?はぁ。
わかりました。任せてください。」
ジジイとババアがクルーべに何か吹き込んだな。まぁどうでもいいか。
「アルバ。いつかお互いの子供を見せ合ってみたいな。」
「リオ!それはいいヨ!そっちも早く作るんだヨ!」
「そうだな。
落ち着いてからだな。」
「リオさん。落ち着いたことあるのですか?」
中年、吟遊詩人、化け物は笑い合う。
最後にラキティスに向き合う。
「ラキティス。すまんな。
お前の幸せを見てみたかったんだが。」
「いえ。大丈夫ですので。
家を買って落ち着いたら連絡下さい。ギルドで異動願いを出しますので。」
「そうだな……って言うワケねぇだろ!
来るな!絶対来るな!」
「私の幸せの1つのご飯を奪っておいて、何を言うので?
絶対に追いかけますので!」
中年、ギルド職員は笑えなかった。
他の住人達がいつものように笑い合う。
例えこの後に別れがあっても笑い合う。
それが今生の別れだとしても笑い合う。
だからこそ今を精一杯楽しみ笑い合う。
大人組は誰もが別れに慣れている。子供組だって立派な冒険者になった。別れで成長する良い機会だろう。
リオは思う。
ジジイとババアは元々有名だ。アルバとクルーべもそうだ。アキヒコ達のパーティだって経験を積めば有名になるはずだ。例えこの国に居なくても、噂ぐらいは耳に入ると思う。
遠く離れることになるが、意外と近く感じる日が来ると確信しており寂しさを感じなかった。
それは他の住人も思っていた。
リオは別の国で家を買うだろう。そしてまた僕や、私のように困っている人を拾ってきては住人にして、騒ぎを起こしつつ、こうやって笑い合うのだろうと。そしてこの国に居ても、リオの噂は必ず聞けると信じていた。
だからこそ、アッサリとした別れも住人全員が受け入れて笑顔で送り出す。
「じゃ皆、またな!」
リオ、ディアナ、キエナ、そしてポワポワは馬車に乗り込み、何処かへ向かう。
そしてまた、
別の国の知らない土地で……
中年冒険者は、家を買う。
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次話は自己紹介的な何かです。その後から2棟目となります。
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