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Chapter:08 ノーモア・ロリコン、フォー・ゴスロリ

ひつぎのアリス様、商品の発送をお知らせをいたします。ご注文の「死神どくろTシャツ」は、今日、最寄もよりの郵便局で発送手続きをおこないました。商品の到着まで、もう少々お待ち下さい。』


『ものとん様、お世話になってます♣ 発送の件、承知しょうちしました♋ はやい発送対応ありがとうございます♐ とてもとても楽しみにしています❤(ӦvӦ。)』


 ……やばい。


 棺のアリスの脳内黙読(もくどく)音声が、キモデブおっさんにしか変換できない。


 頭の中で何度も何度も、棺のアリスは中学生の女の子なんだ、と自分を説得しようとした。

 しかし、どうにも無理だった。

 500円まで値下げして売れ残ってあったものを、3500円という世紀末的な大幅値上げでの購入。しかも商品説明には、純粋じゅんすいな着用目的ならとうてい手を出さないであろう、あの気持ち悪い文章が書かれてあるのだから。わざわざごのんで買うような人物は、もはや、性癖せいへきのねじ曲がった男としか考えられない。


「うぅ~~~っ、きもいきもいきもいきもい!」


 夕方の自室でベッドに寝転がりながら、商品発送を知らせしていたあたしは、棺のアリスから返ってきたコメントの『とてもとても楽しみにしています❤(ӦvӦ。)』に虫酸むしずが走り、スマホを放り出す。


 いったい、なにを楽しみにしているというのだろう。

 昨日この場で、新品だったTシャツを使ってタマコがやって見せていたようなことをするのだろうか。……きっとそうに違いない。大の男がTシャツに顔を押し付けてスリスリしているところを想像するだけで、きもい。吐き気がする。

 今回送ったTシャツはまだ未着用品だったからいい。

 でも、棺のアリスは、販売初取引の相手である。

 一度目に、(マイナス)35円の出費で送ってあげた長袖Tシャツのほうは、あたしが中学のとき実際に着ていたものだ。


 ……あれもスリスリされちゃっているのだろうか。


 35円をはらって、あたし自身の手で変態野郎に古着をおくり、性欲を満たさせていると考えると、とてつもなくおろかだ。

 喉元のどもとをかきむしって死にたくなる。


 今回の取り引きは発送する前にキャンセルしようかとも思った。

 そうしなかったのは、評価のため。

 取り引きがこちらの都合で不成立になろうものなら、どんな理由があったところで、『悪い』評価を付けられてもしかたない。

 棺のアリスは商品の到着を、とてもとても待ちわびているようだから、落胆らくたんの度合いが激しいだろう。

 代金も支払い済みになっていたので、キャンセルすれば返金の手間もかかる。

『とてもとても楽しみにしていたのに残念です……✖』

 というようなコメントとともに『悪い』評価が1票入ってしまうことは容易よういに想像できた。

 売り払いたい黒歴史が山ほど眠っているのに、駆け出しの段階から悪い評判が立ってしまっては困る。


「今回だけ……今回だけは我慢しよう……」


 この取り引きが終わったら、棺のアリスは、タマコに次いでブロックリストの住人になってもらう。

 あたしのプロフィール欄からは、『授業』という文字を削除。

 出品中の商品についても、学生だと想定されるような説明文章はすべて修正する。

 ロリコン男の手ではなく、ゴスロリ女子の手に渡ってくれるように!

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