Chapter:02 絶妙ネイルチップ
注文したネイルチップが家に届いたのは、三日後になった。
「変な荷物がポストに入ってたんだけど……メイ、知ってる?」
帰宅直後に、眉根を寄せた母から手渡された一通の白い封筒。
四角いラベルが貼られていて、宛名書きがプリントされてあるのだけれど、郵便番号、住所、電話番号、届け先と依頼主の名前までもが、『*(アスタリスク)』記号で埋め尽くされるように消されている。
かろうじてわかるのは、届け先であるあたしの住んでいる県と、それ示す郵便番号だけ。
そういえば荷物が来ることを母に言っていなかったと思い出し、事のいきさつを簡単に伝えると、母は「変なサービスがあるのね」と感心していた。
自室に入って、開封してみる。
外装はへんてつのない封筒だったけれど、内部の梱包はわりと厳重だった。
ビニール袋に包まれ、プチプチにぐるぐる巻きにされてある、メッセージカード付きの台紙。
その上に二列に並べられて、白黒モノトーンのネイルチップが置かれていた。
梱包素材を取り払い、現品を手にとって「ふーん」と鼻を鳴らしながら眺めてみる。
バリも無いし、パーツ類の取り付けに甘い部分も無い。
出品写真どおりの印象で、出来栄えは上々だった。
さっそく試着してみようかと思ったけれど、商品の受け取り通知をしなければならないと思い出して、スマホを取り出す。
アプリの取引画面を開き、良い・普通・悪いの三段階に別れてある相手評価のうち、スマイルマークのある『良い』を選択する。
『無事に届きました。迅速な発送と、丁寧な梱包でした。お取り引きありがとうございました。m(_ _)m』
と、コメントを添えて送信。
これであたしがやるべきことはおしまい。
あとは、受取評価の通知が入った売り手が、買い手であるあたしの評価をまじえた確認通知を送ってきて、取り引き完了となる。
やり取りは初めから終わりまで無言で行うことができるようになっているのだけれど、タマコによれば、
「相手がコメントをよこしたら、せめて一言返したほうがいいね。べつにあらたまった感じじゃなくて『わかりました』とか、そんな機械的な返事で十分だから。売る方からすると、一見さんの場合はちゃんと伝わってるのか少し不安になるからさ」
ということ。
それと、評価は何事もなければ『良い』を選択し、発送と梱包を褒めてあげるのがいいそうなので、一応、それに習った対応をしていた。ちなみに、コメント文は、閲覧が公開されている他人の評価コメントをほぼコピペしただけのものだ。
すべきことを終えたあたしは、ネイルチップを指に取り付けてみた。
一本一本貼り付けて、鏡の前にかざす。
削り要らずで、よくフィットしている。
オーダーメイドのようにぴったり。
10本すべて装着し、高校の制服を着たまま、ごろんとベッドに仰向けになった。
腕を真上に伸ばし、両手をパーに開き、モノトーンに飾られた指先を、あらためて眺める。
左手薬指のチップは、指先の方から黒い蝋が溶けているようなデザイン。
その垂れ下がり具合が、絶妙だった。
また、ふーん、と鼻を鳴らす。
「けっこういいじゃん」