↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

Chapter:14 あの娘は綾波レイが好き?

 退屈なゴールデンウィークがあけて、初の登校日。


 あたしは教室に入った瞬間、顔をしかめた。

 引《ひ》き戸《ど》を開けるまえ、室内がいつもより静かだな、と思っていたけれど、開けたとたんにその理由が視界に飛び込んできていた。

 登校してきていたクラスメイトたちは、終わってしまった大型連休を名残《なごり》惜《お》しんでいたのではない。教室内にいる〝異物〟を、みんなが不審《ふしん》そうな顔つきで、遠巻きに眺めていたのだ。


 注目の的《まと》になっている異物のもとへ歩いていき、話しかける。


「ねぇ、タマコ、あんたその格好はなんなの……?」

「べつに」


 ぽつりと一言だけ、普段の馬鹿調子からは想像もできないほど儚《はかな》げなトーンでつぶやき返してきた彼女は、包帯まみれだった。

 左腕は肘《ひじ》の下から手首まで、包帯でぐるぐる巻き。

 右腕は、あきらかに派手に折れてますね、という感じで、首からお腹《なか》のところに吊り下げられ、ギプスで固定されている。

 衣替《ころもが》えまえなのに半袖ブラウスを着用しているから、まるわかりだ。

 ついでに、右目は眼帯《がんたい》で完全に覆おおわれ、ひたいまでもが包帯につつみ隠されてある。

 髪型がショートヘアということもあり、その姿はまるで、アニメを見ないあたしでも知っているくらいの、有名なアニメに出てくる寡黙《かもく》なヒロインのよう。


「妙《みょう》なコスプレは今すぐやめて。みんなジロジロ見てるから」


 見ているだけで一向に話しかけてこないことからわかるように、タマコはクラスメイトから敬遠《けいえん》され、浮いた存在。

 ただでさえ、こいつヤバいやつだな、と思われているのに、フルスロットルで拍車《はくしゃ》がかかる。

 タマコと幼馴染という理由から、同様に避《さ》けられているあたしの株価《かぶか》も、地の底をつっきってに暴落してしまう。


 頬杖《ほおづえ》をしているタマコの左目が、きょろっ、と動き、あたしを見上げてくる。


「コスプレじゃないの。本当にケガをしているの」


 嘘つけ。

 こいつには中学時代、みんなにウケそうという理由で、あたしの部屋から勝手に持ち出したゴシックドレスを着て登校し、盛大にスベった前科《ぜんか》がある。


「高校でやったら中学以上の悪夢を見るって、なぜ学ばない……」

「ううん。そうじゃない」


 と、タマコは上げていた視線を伏《ふ》し目《め》がちにして続けた。


「シンジくんに、バレてしまったのよ……」

「シンジくん……って」アニメの主人公の名前かと思ったが、「もしかして、タマコのお兄さん? 名前、たしかシンジだったよね?」

「そう。猫渕シンジ」

「バレたのは、〝ギルマ〟でアイドルグッズを勝手に売っていたこと?」


 小さくうなづいたタマコが、事のあらましを延々(えんえん)と語り始める。


「ゴールデンウィーク初日、

 シンジくんの部屋から『アスカの生写真が無い!』って聞こえてきたかと思うと、私の部屋にドタバタ足音が近づいて、『サイトウアスカをパクったのはお前だな!』って踏み込まれてしまったの。

 そのときたまたま、2号機パイロットの人と同じ下の名前を持つアイドルのレアフォトを、プチプチの透明なLCLに包んでエントリー作業中だったから、言《い》い逃《のが》れは不可能だったわ。

 なにせ〝センター〟を茶封筒に入れてロックしようとしているところ目撃されてしまったのだから。

 そうして私は、怒《いか》りシンジくんから、ポカポカ殴られることになったの。

 体をポカポカ、頭もポカポカ。とにかくポカポカ。

 アスカちゃんはたぶんまだ3人目だから許《ゆる》して、お願いだからポカポカしないで、もうポカポカはたくさん!、と六畳《ろくじょう》一間《ひとま》の中心で哀《アイ》を叫んで訴《うった》えたのに、それでもずっとポカポカポカポカ……。

 やがて意識が遠のいて、目を覚ましたときには、知らない天井《てんじょう》」


 簡潔《かんけつ》にまとめれば、お兄さんがブチ切れ、タマコを病院送りにしたという話。


「信じられないでしょ?、シンジだけに」


 と、寡黙な少女キャラのままつまらないギャグを飛ばしてくる。


「私は今年のゴールデンウィークの大半を、病院のベッドの上で、ずっと白い天井を見上げながら、新型コロナヴァイラスCOVID-19の院内感染に怯《おび》えつつ、過《す》ごすことになったのよ……。こんなとき、どんな顔をしたらいいか、わからないわ」


「叫べばいんじゃない?」


 ギプスで固定されている右腕を、あたしがデコピンでおもいっきり弾《はじ》くと、


「アルエェェェエエエエェェェっ!?」


 と痛みに絶叫し、ようやくタマコはいつもの調子に戻った。


「どうやら病院送りっていうのは、嘘じゃなさそうね」

「だから、ほんとだって言ってるっしょ!? 折れてるんですぅ! 暴走した兄貴に15年ぶりの使徒《しと》よろしく腕をへし折られたんですぅっ!」


 タマコが素《す》に戻り、熱視線《ねっしせん》をよこしていたクラスメイトたちも各々のグループ会話に戻っていく。「猫渕んチって兄貴もヤバいやつなんだな……」という声がボソボソと聞こえてきて、結果、どう転んだところで疎《うと》まれることに変わりないのだなと思い、げんなりした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。