黎明の涙(2)
彼は哀しいほど孤独に愛されていた。彼がこの世に生を受けた瞬間から、次の王を決める後継者争いに否が応でも巻き込まれ、最後まで生き残ったのが彼だった。
もしも他国のように長男が王を継ぐしきたりだったなら。もしも彼が王家の、クルアート直系の血を継いでなかったなら。彼と出会ってどれだけ"もしも"を願っただろうか。そうすれば彼は、孤独に愛されることはなく、自由奔放に好きなことが出来たはずなのに。
「クラウティア。私はあなたの孤独をもっと紛らわせたかった」
──優しいあなたの心が、周りの環境のせいで潰れて壊れてしまわないように。あなたをただただ守りたかった。
私は彼にとってどのような存在だったのだろうか。利だったのか、害だったのか。それは彼にしか分からない。けれど、王家や民にとっては、私と言う存在は彼を誑かした悪魔で大罪人だということだけは知っている。
いや、悪魔は合っていても大罪人ではないわね。だって私は、ヒトではない"妖"だから。ヒトと交わることを許されない生き物で、絶対にヒトから好かれることのない生き物。
そんな私を大罪人だと糾弾するヒトはいない。そもそもヒトは妖と関わること自体避けているのだから、わざわざ私を裁判にかけることはしない。もしかしたら私の知らないところでヒト同士に嗤われる材料になるか、さらに溝が深まって悪意に満ちた声が届くくらいかしら。
次は明日の18時に投稿予定です。