完結編 第6話 キズナとアイン
灰色のドラゴン、エミリオに焼かれた街。
壊されたたくさんの家、涙を流していた私は立ち上がると、
周囲を見渡す。
怪我をした人たち、痛い痛いと叫ぶ子供、廃墟と化した家。
私は白と赤の剣を握りしめて、近くの川に投げ捨てた。
キズナ
「こんなものっ!」
すると、驚いたことに川に沈んだ白と赤の剣が回転しながら
私の足元に突き刺さり、戻ってきた。
再びつかんで投げ捨てる。
しかし、また回転しながら戻ってくる。
その姿を見たノウラさんが叫ぶ。
ノウラ
「いい加減にしな!」
アカネ
「ノウラさん」
ノウラ
「アカネさんは黙ってて」
キズナ
「……」
私はノウラさんをじっと見つめて黙り込む。
ノウラさんは周囲の炎に包まれた街を見渡した。
ノウラ
「アンタさ、今、自分のことしか考えられないの?
あの灰色のドラゴンの所為で沢山の人が死んだんだよ?」
キズナ
「私、もう戦うのやめます」
ノウラ
「……ッ!」
次の瞬間、ノウラさんの平手打ちが私の頬を叩いた。
この野郎……。そう思ってノウラに殴り掛かろうとした
私だったけれど、ノウラに槍の柄で腹を殴られる。
倒れた私は、ノウラをにらみつけた。
ノウラ
「反撃したけりゃすれば? その剣でさ」
ちらりと白と赤の剣を見る。
誰がこんな剣、使うもんか。
キズナ
「ふざけんな! こんなもの使うもんか!」
ノウラ
「ふざけてんのはアンタのほうでしょ!
あんたは、未来からきたって言ってたけど、
何のためにこの時代にきたのさ!?」
目的……。父さんと母さんを助けるため、世界の破滅を防ぐために私は……。
ノウラ
「自分だけが辛いとかいうのはね、ただの甘えなんだよ!
みんな辛いことを抱えて生きてるんだ、甘ったれたこと言うな!
この街の状況見ても、まだそんなこと言えんの!?」
周囲を見渡すと、顔の半分にやけどを負った人や溶けたアーマーギアの残骸。
沢山の人が、死んだ。エミリオも。三賢者の所為で。
ノウラさんの言う通りだ、私はただ、エミリオを殺してしまった事実から逃げるために
全ての役目を放棄しようとしたんだ。
ノウラ
「で、アンタがここに来た目的は何だった?
両親に託されたんでしょ?」
私は白と赤の剣を取ると、ノウラさんに頭を下げた。
キズナ
「ごめんなさい、ノウラさん。私……」
ノウラ
「うむ、わかればよろしい」
すると、私の背後からゆっくりと誰かが近づいてくる。
父さんだ。
ヒロト
「なんでお前はちょくちょく上から目線なんだ、ノウラ」
キズナ
「父さん……」
ヒロト
「どうやら大騒ぎだったみたいだな……」
父さんはあたりを見渡す、見渡す限りの焼け野原。
ヒロト
「キズナ、二人とも。城の方に来てくれ。
重要な話がある」
重要な、話?
キズナ
「街の救助活動は手伝わなくていいの?」
ヒロト
「それ以上に大変な話なんだ、できれば急いでくれ」
そういわれて、私たちは城にむかうことになった。
@@@
再び訪れる城。
その奥の円卓の間に案内される。
そこの奥で座っていたのはロディさんだった。
それに茶髪の男の人と紫の髪の男の人の二人。
アカネ
「ロディさん、それにカインさんにゲイルさん」
ゲイル
「よっ! お久しぶりだね皆さん!」
ノウラ
「あー、あんたらか」
カイン
「元気そうだな」
ロディ
「みんな、よく来てくれた。
さっそくだが、話に移りたいと思う」
その内容はこうだった。
キズナが見せてくれた映像の解析と、カインとゲイルからの情報で
新たにいろいろなことがわかった。
三賢者は旧ノルドとの大戦時に、この城を放棄して
カルコスに身を潜めたこと。
旧ノルド大戦時にユグドラシルの大樹をめぐって戦った
ミスターKは、実は量産型のキメラの一体だったこと。
父さん、ユカリノ・ヒロトは故ファントムさんが造った人造人間
キメラであること。
カルコスの街は、三賢者の赤い仮面の所有する土地で
今、人口が減り続けている。
その理由は、街の人を捕まえて魔水晶にしていること。
目的は、カルコス地下施設にブラックドラゴンキングの本体がいて
その本体に魔水晶のエネルギーを注入して、復活させようとしていること。
アカネ
「ヒロ君が、キメラで……お父さんが量産型!?」
ノウラ
「街の人を捕まえて魔水晶って、じゃああの時、地下にあった
巨大な魔水晶って……」
ヒロト
「すべては、そのブラックドラゴンキングを復活させるためにあったみたいだな
しかし、あの強さのミスターKが影武者とは」
ロディ
「そこでだ、急な話になるが
カルコスに攻撃をかけようかと考えている。
そのブラックドラゴンが完全に復活する前に、先手を打ちたい。
ヒロト、研究室から例のものも完成させたっていう連絡がきてる。
お前も戦えるだろう」
ヒロト
「そうか」
例のもの?
たしか、エドワズ博士が何か方法を考えておくといってくれていたけれど……。
ふと、そんな時にロディさんの方からピピピッと音が鳴る。
ロディさんが懐から四角い端末を取り出した。
携帯電話だ、しかもガラパゴス携帯。
ロディ
「あぁ、俺だ……。相手は一体なんだろ?
……わかった、なんとか策を考えてみる」
ピッ、と携帯電話の切るのボタンを押すロディさん。
ヒロト
「どうした?」
ロディ
「こちらに単独で向かってくるアーマーギアがいるらしい
街の防衛隊が応戦してるが、全員素手で気絶させられてるらしくてな。
相手の要求はこうだ_お前らに用はない、ジークフリートを出せ_
と、な」
キズナ
「!?」
ロディ
「ノウラ、一度お前はハイランディアにむかって応援を要請してくれないか?
今回は前回と同じくらい大規模な戦争になる。
エルフの力を借りたい」
ノウラ
「えー、まだアカネさんとチュッチュしてないのにー」
アカネ
「その為にいたんですか?」
すると、ノウラは頭をボリボリと書いて照れくさそうに。
ノウラ
「嘘に決まってんじゃん。ジョークだよジョーク!!」
父さんがノウラさんをにらんでいる。
かすかに殺気のようなものが混じってるような気がするけど……。
ロディ
「キズナ、戦ってくれるか?」
キズナ
「え……はい」
カイン
「そんだけ強いとなると、もしかしたら情報どおりの相手かもしれないな」
ゲイル
「あー、あれね」
キズナ
「情報どおり?」
ロディ
「……黒い、ヴィントカイザーだ」
@@@
ノウラさんはロディさんの指示でエルフの里に戻ることになり
父さんと母さんは準備があるのでパトリアの研究室に行くことになって
私は、その向かってくる黒いヴィントカイザーのところへ
ジークフリートに変身して向かう。
現地に到着するなり、いきなり刃のついたワイヤーが飛んでくる。
その一撃を空中浮遊するシールドではじき、防いだ私は
正面に黒いアーマーギアを確認する。
???
「お前がジークフリートか」
ジークフリート
「あなたは、誰!?」
???
「俺か……俺は。
ヴィントノワールの同化者。
ユカリノ・ヒロトだ」
ジークフリート
「……えっ!?」
動揺する私、ヒロトは私の父さんのはず。
ジークフリート
「う、嘘つかないで! ヒロトは私のお父さんだよ!!」
???
「……! ということは、お前がアカネ姉さんの娘か」
ジークフリート
「そうだよ、私がユカリノ・アカネの娘
ユカリノ・キズナだよ!」
ヒロト?
「くっくっく、そうか……三賢者の言う通りだな
ジークフリートの同化者、キズナ」
そんな会話をしているときに、
後方から拡声器を使った声が聞こえる
父さんが運転している車からの母さんの声だ。
アカネ
「キズナちゃん、惑わされてはだめ!
その人はファントム・アイン。
……ファントムさんが造った、ヒロ君の、試作品だよ……」
とても悲しそうに拡声器でつぶやく母さん。
ヴィントノワール
「逢えてうれしいよ、アカネ姉さん!
久しぶりだな、完成品っ!」
ヒロト
「……お前は、なぜ生きている!?」
ヴィントノワール
「その答えは、このジークフリートを破壊してから話そうかぁ!」
刹那、ヴィントノワールは左手に炎を撃ちだす大型の銃を構えて
撃ってくる。
その一撃を三枚のシールドが高速回転して防ぐけれど、
シールドを体当たりで突き抜けて突撃してきたヴィントノワールは
青い光を放つ剣で斬りかかってくる。
斬竜刀でその一撃を受け止める。
一撃が、重い……。
ヒロト
「気を付けろ、キズナ! もしそいつがヴィントカイザーのコピーなら
対アーマーギア用に作られてるはずだ!」
父さんが遠くで叫んでいる。かすかにだけど聞こえた。
そしてこの目の前にいるアインと呼ばれた人のヴィントノワールと
ゼロ距離でつばぜり合っている。
ヴィントノワール
「アカネ姉さんの子供ってことは、俺の子供の可能性もあるわけだよな?」
ジークフリート
「どういう意味!?」
ヴィントノワール
「俺はアカネ姉さんと寝たんだぜ」
嘘でしょ……と、動揺した瞬間にヴィントノワールの右足の蹴りが飛んできて
吹き飛ばされる私。危うく父さんと母さんが乗っていた車を下敷きにするところだった。
ジークフリート
「そんな嘘に……」
立ち上がりながら斬竜刀を腰に収納し、
右肩に背負っている竜撃砲をヴィントノワールに向けて撃ちだす。
ジークフリート
「だまされるかっ!」
撃ちだされた弾丸をヴィントノワールは軽く回避してみせる。
ヴィントノワール
「だましてなんていないさ、本当のことだ。
アカネ姉さんは俺に体を許したんだ」
ジークフリート
「そんな……嘘だよね、母さん!」
アカネ
「……ごめんなさい」
その謝罪の言葉が、すべてを意味していた。
ジークフリート
「そ、そんなぁ……」
再び接近してきたヴィントノワールが青い光を放つ剣で斬りかかってくる。
その一撃は、私の首元で止まった。
ヴィントノワール
「気が変わった、アカネ姉さん。
娘を殺されたくなかったら完成品を殺せ」
アカネ
「!?」
ヒロト
「キズナっ!」
気が変わった? 完成品を殺せ?
そんな非道なことを言う人が、私のお父さん?
そんなわけ、そんなことあってたまるか!!
ジークフリート
「ふざけるなぁあああ!!!」
私の体、ジークフリートの体を光が覆う。
近づいてきていたヴィントノワールを弾き飛ばした。
ヴィントノワール
「ちっ、なんだ!?」
ジークフリート
「自分の娘を人質に取って、嫁に人殺しさせるようなヤツが
父親なわけないでしょ! アンタは私の父親なんかじゃない!
この偽物がっ!」
竜撃砲を構えて、ヴィントノワールにむかって撃つ。
一撃、二撃と次々に撃つ。
その攻撃をギリギリで回避し、ヴィントノワールは余裕を失う。
カチッという音と共に、弾が切れたらしい。
再装填まで私の命を削って弾を作るみたいだけれど、
もうそんなことはどうでもよかった。
竜撃砲を背中に担いで、斬竜刀を抜き、ヴィントノワールに斬りかかる。
後退していたヴィントノワールが剣を構え、再びつばぜり合う。
ヴィントノワール
「お前まで、俺の存在を否定するのかっ!」
ジークフリート
「そうだよ!!」
ギリギリと音を立てながら、火花が散る。
そして私の、ジークフリートの体から青い光が発生し
周囲を包み込む。
ジークフリート
「これって!?」
ヴィントノワール
「な、なんだ……!?」
その光がヴィントノワールと私のジークフリートの体を包み込んだ。
▲
私、ユカリノ・キズナは中学二年の剣道部所属。
ユカリノ・ヒロトの娘ってこともあって私には誇りがあった。
誰よりも強くありたい、父さんのようでありたいって願いが……。
剣道部の三年生
「キズナ、お前……二年のくせに生意気だよな」
キズナ
「そうですか?」
剣道部の三年生
「勝負しようぜ、負けたほうが腕立て100回ってことで
断れるはずないよなぁ、最強を目指してるんだろ?」
キズナ
「……わかりました」
勝負の結果は、敗北。
まだ剣道部に入ってばかりの私には、流石に剣道部の中で
一番強い先輩に勝てるはずがなかった。
剣道部の三年生
「ほら、さっさと腕立て伏せしろよ」
私が負けた後、剣道着を着たまま腕立て伏せすることになった。
手を地面につけて、腕立て伏せをしていたら
背中に思い切り竹刀が振り下ろされる。
キズナ
「痛っ!」
剣道部の三年生
「ほら、さっさとしろよ……」
竹刀で殴られながら、必死に100回の腕立て伏せを剣道着を着たまま行う。
許せない、こいつ楽しんでる。
そのことは、母親には話せなかった。私には父さんの娘である誇りがある。
それから毎日のように一人で修行をした、あの先輩に勝つために
何としても仕返しするために。
それから数週間後、今度は私から先輩に勝負を挑んだ。
キズナ
「先輩、私と勝負してください」
剣道部の三年生
「なんだ? また痛い目に遭いたいのか?」
キズナ
「それは、どうでしょうね?」
剣道部の三年生
「生意気いいやがって、やってやるよ」
再び剣道部の先輩と勝負した。
その結果は、私の勝利。
剣道部の三年生
「い、今のは手加減してやっただけで……」
キズナ
「ほら、先輩。腕立て伏せしてくださいよ」
剣道部の三年生
「い、嫌だ」
キズナ
「早くしろって言ってんだよ!」
その剣道部の先輩を竹刀で殴る。
強引に剣道部の先輩を力でねじ伏せた私は
腕立て伏せを無理やりさせて、竹刀で殴る蹴るの暴行を加えた。
楽しかった……、この前まで悦にひたってたゴミのような人間を
成敗している自分に酔っぱらっていた。
でも、その後は周囲の剣道部員や三年生は私のことを怖がるようになって
誰も私に近づかなくなった。
………
……
とても、後味が悪くて……むなしかった。
△
青い光が周囲を飛び回る。
▲
ファントムに作り出された俺は、
愛情という感情が欠けているという理由で
作り主のファントムに魔法で消去されることになった。
まだ俺はこの世界に産まれたばかりなのに、たったそれだけの理由で
消えるのか。
嫌だ、消えたくない……。
アカネ姉さんを守るっていう約束は、まだ果たされてない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……消えたくない……。
培養カプセルの中からそっと目を開ける、銀色の髪の男。
ファントムがいる。
その目はとても非情で冷酷に見えた。
俺の想いもむなしく、体は消滅した。
独りぼっちで闇の中をさまよう。
そんな俺は、ずっと願っていた。
アカネ姉さんを自分のものにしたい。
アカネ姉さんを助けたい。
アカネ姉さんを一生守りたい。
俺は幸せになりたい。
闇の中で一人で歩いていた俺の目の前から、光が照らした。
「まだ、貴方は消えたくないのね」
誰かはわからないけれど、とても優しい声だった。
体験したことのない……まるで母親のような、声。
ユグドラシル
「私は、ユグドラシル。あなたにお願いがあるの……」
そういって、目の前に現れた大樹はつぶやいた
ユグドラシル
「私の娘を、貴方にも守ってほしい。
貴方なら、いつか分かり合える日がくるはずだから」
ふと、目を覚ますと
森の中を歩いていた。
黒いロングコートを着こみ腰には一本の剣。
俺はその森で、狩りをして廃墟で暮らしていた。
それから時間は経ち、アカネ姉さんに会うチャンスがきた。
俺はアカネ姉さんを手に入れて、完成品と銀髪の男から奪った。
でも、アカネ姉さんは心を開いてくれなかった。
せっかく手に入れたのに、どうして……?
アカネ
「あなたは、劣等感を満たしたいだけ。
私のことが好きなんじゃなくて、貴方はあなたのことが好きなだけなんだよ」
赤い髪のアカネ姉さんが言う。
アイン
「俺はアカネ姉さんを愛しているんだ、心のそこから!
嘘じゃない!」
アカネ
「もし、本当に愛してくれているなら私の今の気持ちもわかってくれるよね?
何を考えているか当ててみて」
アイン
「……アカネ姉さんが何を言っているのか、俺にはわからないよ」
アカネ
「やっぱり……」
一瞬だけ、小さな7歳ぐらいの少女の姿が目に飛び込んでくる。
7歳のアカネ
「おうちに……おうちに帰して……」
その少女の姿が消えた後、俺はアカネ姉さんの両肩に触れる。
アイン
「どうすれば、どうすればいい?」
アカネ
「それよりも、どうすればあなたの心は満たされるの?」
アイン
「えっ……」
俺がアカネ姉さんに望むこと、それは……。
アイン
「アカネ姉さんとの証が欲しい」
アカネ
「…………わかった」
再び7歳ぐらいの少女の映像が目に浮かぶ。
その少女は泣きながらつぶやいた。
7歳のアカネ
「ヒロ君、ごめんなさい……」
それから俺は、アカネ姉さんをベッドに押し倒した。
でもなぜだろう、アカネ姉さんを自分のものにしたはずなのに。
俺はとても……とても。
……むなしかった。
△
斬竜刀を落とした私のジークフリートは
ヴィントノワールを両腕で抱きしめて、泣いていた。
ジークフリート
「……あなたも、私と同じだったんだね……
ただ、認めてほしかっただけなんだね……」
アカネ
「……」
ヒロト
「……」
ヴィントノワール
「俺は……俺は……認めてほしかった」
ヴィントノワールを抱きしめている私は
そっと、その両肩に触れる。
ジークフリート
「一緒に戦ってほしい。世界を、母さんを守るために
_もう一人の父さん_」
ヴィントノワール
「俺を、認めてくれるのか?」
しばし、無言の時間ができる。
その無言は10秒ほど続いたが、そっとヴィントノワールは
アインさんは私の手を握りしめて答えてくれた。
ヴィントノワール
「そうだな、お前は俺の証かもしれないんだ。
だが、この体は魔水晶で無理やり蘇生されたものだ。
長くは持たない」
それでもいいなら……。
と続けて、アインさんは一緒に戦ってくれることを約束してくれた。
完結編 第6話 キズナとアイン 完