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ユグドラシルストーリー 完結編  作者: 森のうさぎ
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完結編 第5話 悲劇の恋愛


ユグドラシルの記憶を見た後、私は倒れたらしい。

おそらく膨大な量の情報を頭に入れて、疲れてしまったみたい。


ゆっくりと、体を起こすと木製のベッド。

目の前には、青い髪の女性が添い寝しようとしている。


キズナ

「ノウラ、さん……何しようとしてるんですか?」


添い寝しようとベッドの布団をまくりあげるノウラさんに注意をうながす。


ノウラ

「……だめ?」


キズナ

「いや、ダメとかそういう話じゃなくて」


思わず苦笑する。

何がしたいんだろう、この人。


ノウラ

「いや、ちょっと味見をしようと思って……多少はね?」


何を言い出すんだと思いながら、ささっとベッドから起きる。


ノウラ

「じゃあ、デート! ほら、この広告だと

 この近くにいいカフェができたみたいなんだけど、一緒にいかない?」


キズナ

「いいえ、けっこうです……」


落胆するノウラ。

落胆したいのは私の方だ。


_男なんて信じない_


……か。


そこへ、母さんがお湯で濡れた台拭きを持ってくる。


アカネ

「あ、キズナちゃん。もう起きても大丈夫なの?」


キズナ

「うん、体の調子は悪くないみたい」


アカネ

「もうお昼だけど、ご飯食べる?」


キズナ

「いや、今はご飯を食べる気分じゃないんだ。

 ごめんね、母さん」


申し訳なく断る私、軽食ぐらいならできるけど

起きたばかりでお昼ご飯を食べる気分じゃない。


キズナ

「父さんは?」


アカネ

「ヒロ君なら報告することがあるからって、お城の方に行ったよ」


そういえば、父さんはユグドラシルの大樹の前で魔石を構えて

映像の録画をしておくと言っていたのを思い出した。


あの映像をすべて録画しているんだろうか……。

12人の研究員、ジークフリートの過去。

ブラックドラゴンキングと私のおじいちゃんのこと。


キズナ

「母さん、私、街の様子を見て回りたいんだけどいいかな?」


時刻は11:30。お昼前だ。だいぶ眠っていたみたい。


アカネ

「いいよ、でもあんまり危ないところにはいかないでね」


そういって、母さんは私にお小遣いをくれた。



 @@@



考えることはいろいろあるけれど、今すぐ行動してどうなることでもない。

少し焦りそうになる自分を抑えながら、パトリアの街を歩く。


他の街とも貿易は盛んなようで、街はとてもにぎやかだった。

この近くにノウラさんの言っていたカフェがあるみたい……。

しかし、いい天気だと思っていたけれど、突然、振りだす雨。



大急ぎで屋根のある家の下へ雨宿りしに入る。


キズナ

「うわぁ……ついてないなぁ……」


出かけた瞬間、すぐ大雨。

傘なんて持ってないし、もっと昔の街を見て回りたかった。


少年

「あ、あの……」


ふと、同年代ぐらいの男の子が傘を差しだしてくる。


少年

「これ、よかったら使ってください。

 ボクはいいんで」


キズナ

「え、でもそれじゃあ貴方が濡れちゃうんじゃ……」


少年

「いいんです、お困りのようでしたから」


そんな会話をした途端に、降り続けていた雨が止んだ。

雲の隙間から太陽が顔を出す。


少年

「あ、えと……止みましたね」


キズナ

「だね」


クスッと笑ってしまう私。

その笑いが伝染したみたいで、少年もクスクスと笑う。


私はその少年を連れて、ノウラさんが言っていたカフェに

少年を誘う。親切にしようとしてくれたお礼に飲み物ぐらいおごりたかった。


お金は、母さんがくれたお小遣いがある。

二人でそのカフェにむかうと、店の外の白い椅子とテーブルに向かい合って座った。

最初は申し訳なさそうだった少年も、私と一緒にコーヒーを一杯だけ頼んだ。


どうやら開店したばかりのお店みたい。

少しばかりにぎやかで、店内は人が満席だった。


キズナ

「あ、まだ名前を名乗ってなかったね……私はキズナ、ユカリノ・キズナっていうんだ」


エミリオ

「ボクはエミリオっていいます。

 訳あって二日間ほどパトリアに滞在することになりました」


キズナ

「二日間ってすぐだね」


エミリオ

「はい、今日きたばかりですから右も左もわからなくて」


キズナ

「ご両親は?」


その質問に、顔を曇らせるエミリオは、やがてゆっくりと口を開いた。


エミリオ

「いますけど、この街に来たのはボクだけです」


両親の話を振った瞬間に顔を曇らせた。

あまり振ってはいけない話だったみたい。

空気が悪くなる前に、話を変えよう。


キズナ

「私も、この街をよく知ってるんだけど

 よく知らないんだ……あはは」


エミリオ

「……? 変なキズナさん」


キズナ

「ねぇ、エミリオ。

 この後、時間はある? 一緒に街を散策しない?」


エミリオ

「いいですね、とてもありがたいです」


カフェでお茶を済ませた私とエミリオは

街の中を、迷子になる覚悟でうろうろと歩いて回った。


ウィンドウショッピングだけれど、服屋さんやアクセサリー屋

武具店などにもよってうろうろした。

そっと、誰かの視線を感じて振り向くと

一瞬だけ赤い髪と青い髪の女性の姿が見えた気がしたが……。


エミリオ

「どうしたんですか、キズナさん?」


キズナ

「いや、気にしないで。なんでもないから」


彼、エミリオは私と同年代ぐらいだと思う。

髪の色は金髪で、まだ幼さを残した感じの顔だちをしている。

うん、普通に可愛いと思う。

周囲から見たら、姉と弟ぐらいに見られそうだ。

私は黒髪だから、金髪ではないけれど……。


ふと時計台の時間を見た、

時刻は午後5時に近づいていた。


エミリオ

「そろそろ帰らないと……」


キズナ

「あ、エミリオも? 私もそろそろ門限の……

 ってそうじゃないか」


エミリオ

「キズナさん?」


キズナ

「あ、いやいや、こっちの話」


笑いながら手を右往左往させる。

門限が決まってたのは、未来の世界のことだ。

この世界では関係ない。


エミリオ

「キズナさん、ボクは明日……遠いところに行くので

 もう一度だけ、お昼頃に、あのカフェで逢えませんか?」


キズナ

「う、うん。いいよ」


エミリオ

「よかった! ……これで」


これで……何?

何か言おうとしたみたいだけど、エミリオはその場から離れて

手を振って帰ってしまった。


ノウラ

「へい彼女ぉ~、これからどこいくのぉ?」


アカネ

「あっ、ノウラさん! 見つかりにいっちゃだめですよ」


キズナ

「う、うわぁ……ノウラさんに母さん?」


ずっと感じてた視線は母さんとノウラさんのものだったみたい。

ノウラさんはニヤニヤしながら話しかけてくるし

母さんは困った表情だ。


ノウラ

「キズナちゃん、悪いことはいわないから

 あの子ともう関わらないほうがいいよ」


キズナ

「え?」


唐突に、表情が真剣な顔になるノウラさん。


ノウラ

「気づかない? あれ、何か隠してる感じ

 しかもヤバそうなオーラ出してるし」


そうかな? 私はそうは感じなかったけれど……。

詐欺師、にも見えないし。


そんな話をよそに、その日の一日は終了した。

その夜は、私と母さんとノウラさんの三人で食事をした。


父さんは急な仕事が入ってるらしく、帰ってこない。

私は、明日を楽しみに待ちながら日付が変わるのを待った。

そして深い眠りに落ちて行った。


 @@@


次の日のお昼、私はさっそくあのカフェにむかった。

背中に担いだ白と赤の剣はそのままだ。


今日も母さんとノウラさんは後を付けてきてるのだろうか?

そんな疑問もあったけれど、まぁ、放っておけばいいだろう。


カフェの前に行くと、優し気な雰囲気を出した金髪の

あの少年、エミリオがいた。


キズナ

「エミリオ! 待たせたかな?」


エミリオ

「ううん、大丈夫だよ……来てくれるって思ってたから」


そういってエミリオはにっこり笑うと、そっと懐から

黒い欠片を取り出した。


エミリオ

「キズナさんが来てくれてよかった、これでパパとママに会える。

 キズナさんは知ってるかどうかわからないけど、これなーんだ?」


キズナ

「えっ……それって」


黒い欠片……ただの石かと思ったけど、どうみても……

ブラックドラゴンキングの欠片だった。


エミリオはその欠片に汚染されていき、体が黒く染まった後に

巨大なドラゴンに変身する。


キズナ

「……え?」


エミリオだったはずのドラゴンが、私にむかって灼熱のブレスを吐いた

それにたいして、魔石を握りしめた赤い髪の女性、母さんが透明な膜を周囲に張り

その攻撃を一時的に防いだ。母さんが握りしめていた魔石が砕け散る。


アカネ

「キズナちゃん! 大丈夫!?」


キズナ

「え……え?」


灰色のドラゴン

「三賢者って人たちが教えてくれたんだ、キズナを殺せば

 パパとママを殺さないでくれるって」


二回目のブレスが来る前に、私の後方から槍が飛んできた。

その槍はドラゴンにはじかれ、槍の柄にひっかけられていたワイヤーで

ノウラさんが槍を受け止める。


ノウラ

「キズナ! しっかりしな!」


周囲にいた人たちが一斉にその場から逃げ出す。

私は状況が呑み込めない。

エミリオが、ドラゴンに変身?

一緒に街を見て回って、笑顔で笑い合ったエミリオがドラゴン?


そんなことを考えてるときに、ノウラさんが槍を掲げて叫んだ。


ノウラ

「エメラルダス!」


青と緑の輝く装甲のアーマーギアを、ノウラさんは呼び出し

槍にその体を吸収されてアーマーギアと同化する。


その槍で、私たちをかばってエミリオのドラゴンの炎の盾になるエメラルダス。


キズナ

「私は……」


アカネ

「しっかりして!」


私の体をゆする母さん。灰色のドラゴンにむかっていくエメラルダス。


エメラルダス

「ちっ! 雷撃っ!」


灰色のドラゴンの炎とエメラルダスの雷がぶつかり合う。

どちらかといえば、エメラルダスの雷が押され気味だ。


灰色のドラゴン

「ボクはパパとママに死んでほしくないだけなんだ

 だから、殺させてよキズナ。

 そうすれば三賢者の人たちは……」


街のアーマーギア部隊がエミリオのドラゴンを取り囲む、

しかし、上空に羽ばたいたその灰色のドラゴンは

周囲一帯に炎のブレスをまき散らし、アーマーギアたちを焼き殺す。

そして、子供を連れた家族、避難している人たちを焼き殺した。


アカネ

「キズナ、戦って!」


キズナ

「え……戦えっていわれても……そんな」


街が炎に包まれる。

すでに廃墟と化した家もある。

そして、エメラルダスが灰色のドラゴンの急降下の体当たりで

弾き飛ばされてくる。その時、エメラルダスが壁に激突し破片が飛んできた。

それを身をていしてかばう母さん。


アカネ

「うぁっ……」


キズナ

「母さん!」


アカネ

「私は、アーマーギアに……変身できないから

 みんなを、守って……私の代わりに」


キズナ

「母さん!! ……くっ、ジークフリートっ!」


怪我をしている母さんをそっと座らせて、白と赤の剣を掲げて

ジークフリートと同化する。


灰色のドラゴン

「燃え尽きろ!」


灼熱の炎が私の方に飛んでくる。だけれど、左肩に装着されていた

シールドが三枚に分かれて回転しながら炎をさえぎる。


ジークフリート

「やめて、エミリオ! どうしてここまでするの!?」


灰色のドラゴン

「三賢者の人たちが言うんだ、ユカリノ・キズナとジークフリートを殺せ

 さもなくばお前の両親を殺すって」


ジークフリート

「そんな……」


竜撃砲を灰色のドラゴンに向ける私、でも相手はエミリオだ。

そんなこと、私には。


ジークフリート

「わからない、わからないよエミリオ。

 じゃあ、どうして初めて会った時にすぐ私を殺さなかったの?」


灰色のドラゴン

「君を油断させるためだよ、そうしたほうがいいって三賢者の人たちが……」


ジークフリート

「そんな、そんなことって!」


エメラルダス

「こんのおおおおぉ!」


そんな会話をしていると、ノウラさんのエメラルダスが

横から槍で灰色のドラゴンを突き刺そうとするが、巨大な尻尾ではじきとばされる。


エメラルダス

「キズナ! 戦って!」


ジークフリート

「……」


再び灼熱の炎が私の方に飛んでくるが、その一撃を斬竜刀で切り裂く。

そうだ、私にはドラゴンの瞳がある。

これを使えば、エミリオのことを知ることができるはず。


ジークフリート

「エミリオ、私の左目をよく見て!」


灰色のドラゴン

「……?」


灰色のドラゴンはジークフリートの左の瞳をじっと見つめた。

周囲に青い光がただよい、やがて映像を映し出した。




 ▲


赤い仮面

「ふむ、キメラ実験に成功したようだな」


青い仮面

「魔水晶で完成した人型のキメラ。

 ジークフリート暗殺に使えるだろうか」


黄の仮面

「ヤツがいるとなると、我々にとって大きな障害となる

 早いうちに同化者を殺しておかなければな、ジークフリートともども」


カプセルの中にいるボクは、三人の仮面をかぶった人たちの話を聞いていた。


青い仮面

「どう調整する? 命令としてはジークフリートの同化者の暗殺ではあるが」


黄の仮面

「こやつに両親がいるということにしておいて、

 同化者を殺さなければ両親を殺す、というのはどうだろうか?」


赤い仮面

「よい方法だ。もっとも、こやつに両親などいないがな」


 △


灰色のドラゴン

「……うそだ、うそだうそだうそだっ!!」


ジークフリート

「エミリオ……」


灰色のドラゴン

「ボクには、キズナや他の人たちみたいに家族がいて

 その家族を守るために……ボクは!

 ボクはキメラなんかじゃない、人間だ!!」


エメラルダス

「じゃあ、その姿はなんなのさ……」



灰色のドラゴン

「この姿は、この、姿は……」


その姿は、醜悪なドラゴンそのものだ。


灰色のドラゴン

「もう、戻れないんだ……もう元の姿には戻れないんだよ!

 もう後には引けない……キズナ、君を殺さないと!」


ジークフリート

「まだ大丈夫だよ、どんな姿になっても

 やり直せるって思えるなら、きっとまたやり直せるよ」


灰色のドラゴンに手を差し伸べる私、しかし灰色のドラゴンの暴走は止まらない。


灰色のドラゴン

「うるさいっ、うるさいっ!!」


炎を周囲の街にまき散らす灰色のドラゴン、話し合いに応じないというより

おそらくはブラックドラゴンの破片の影響だろう。

自我をどんどん失ってきている。


そんな時、ジークフリートの両目が緑から赤い色に変わり

体が勝手に動き始める。


上空へ再び飛び去った灰色のドラゴンは口に巨大な炎の塊を作り出して撃ちだそうとする。


ジークフリート

「か、体が勝手に……! 待って、ジークフリート!」


ジークフリートが、左手で灰色のドラゴンを指さすと

三枚のシールドが灰色のドラゴンを取り囲んで結界を作り、身動きを封じる。

そしてその灰色のドラゴンに竜撃砲を構えてエネルギーを溜めて、強力な銃弾を発射しようとする。


ジークフリート

「待って! やめてっ! 撃たないでっ!!」


私の願いもむなしく、ジークフリートはその一撃を発射してしまった。

空中で灰色のドラゴンの頭を撃ちぬき、その首は撃ちだされた光の弾丸の中に消えて

胴体だけが残り、やがて結晶化して砕け散った。


ジークフリート

「エミ……リオ……」


体がジークフリートの姿から戻った私は、両手を地面につけ

炎が囲む街の中で、一人泣いていた……。




完結編 第5話 悲劇の恋愛 完

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