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ユグドラシルストーリー 完結編  作者: 森のうさぎ
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完結編 第4話 ユグドラシルの記憶


街を抜けて、少し進んだ先に巨大な樹が見える。

ユグドラシルの樹だ。


大きさはだいたい200mを超える大きさだと思う。


ヒロト

「キズナ。ユグドラシルの樹に、あの能力は使えるか?」


キズナ

「わからないけれど、近づいてみないと……」


ヒロト

「キズナの見た映像は、この魔石に記録させてもらう」


そういって父さんは懐から魔石を取り出し、私に向ける。


ノウラ

「ユグドラシルには、巫女じゃないと近づけないんだよね?」


そう、ユグドラシルは強力な結界を周囲に張っていて、人も獣も寄せ付けない。

ユグドラシルの樹のそばに透明な膜が張ってある。

その膜を、私の母さん……アカネはすんなりと通り抜ける。


アカネ

「私は大丈夫みたい」


ノウラ

「試したことないから私も入ってみよ……って、うわぁ!」


青い髪の女性、ノウラさんが膜に触れると同時にバチッという音と共に

ノウラさんの指がはじかれた。


ノウラ

「いっ……たーーい! 痛いっ!」


ヒロト

「お前はやめとけ」


次は私の番だ。

私は結界をそっと通り抜けるとき、

一瞬なにかドス黒い獣の瞳に見つめられるような感覚を感じた。


結界の中には入れたけれど、体が重い。

体重が二倍にいきなり増えたような重さだ。


アカネ

「キズナちゃん!」


キズナ

「私は平気。とにかく、ユグドラシルのところへ……」


一歩一歩、ユグドラシルの大樹に近づいていく私は

後ろから父さんに魔石で映像を撮影、記録されている。


数百歩ほど歩いたところで、ユグドラシルに触れると、

私の体は青く輝きはじめ、周囲一帯を青い光が包み込んだ。


真っ白な世界をただ一人で立っている私。

そこへ、どこからか声が聞こえる。


ユグドラシル

「よく来たね、キズナ」


キズナ

「あなたは?」


ユグドラシル

「私はサクラ、今はユグドラシルの中に取り込まれているけれど

 元々アカネの母親だったのよ」


キズナ

「ということは、あなたは私のおばあちゃん?」


ユグドラシル

「そうなるわね」


キズナ

「昔の戦争の時に取り逃がした三体のドラゴンのこと、教えてほしいの」


ユグドラシル

「昔の戦争……。ドラゴンと人とが争った時代の記憶ね。

 わかったわ、今……思い出すから……」



 ▲


ユグドラシルの目の前に、13体のドラゴンが集まり、じっとにらんでいる。


紫のドラゴン

「我が王よ、無謀です。結界の突破などと……」


その一言を聞いた黒い巨大なドラゴンは、紫のドラゴンを尻尾ではたく。


ブラックドラゴンキング

「じゃかましわアホ! やる言うたらやるんじゃ!」


その黒いドラゴンは、ユグドラシルに向かって体当たりしようとする

左右の漆黒の翼をバタつかせながら、強引に結界を破ろうとする。


ブラックドラゴンキング

「お前ごときがワシにかなうと……おぉぉ……!!」


結界に削られて、黒いドラゴンは体が破片になって周囲に飛び散り始める。


赤いドラゴン

「我が王よ! おやめください!」


周囲のドラゴンの心配も無視して、黒いドラゴンはユグドラシルに突撃するのを止めない。


ブラックドラゴンキング

「ぬおおおおお!!」


体がバラバラになりながら、結界を少し湾曲わんきょくさせて飛び込もうとする。

その体は少しずつ削れて小さくなり、

その小石の欠片ほどの大きさになった黒いドラゴンが

ユグドラシルにぶつかった。


その時、ユグドラシルと黒い竜のぶつかった間に時空の裂け目ができる。

黒い小さくなったドラゴンはその裂け目に吸い込まれていき、消えていった。


その隙をみて、すかさずドラゴンたちは結界に炎を集中して吐きかけるが、

結界はすぐに修復されドラゴンたちのユグドラシル破壊の目的は失敗に終わった。


黒いドラゴンはその後、違う世界にとんでいき

流れ星のように異世界の街に落ちた。


そこは病院、その病院で眠っている女性の腹部に入り込んだ。

その女性の名前はモチヅキ・キクコ。

女性は妊娠し、子供を産んだ。


その子供の名前は、モチヅキ・カズオ。


ユグドラシル

「そう、これは私の夫。アカネのお父さんね」


キズナ

「じ、じゃあ私のおじいちゃんって……」


ユグドラシル

「まだこの話には次があるの」


異世界に行ってしまった黒いドラゴン、そして残された12の邪竜と黒いドラゴンの破片。

ドラゴンたちは、自分たちの王を失いはしたけれど

これまでとの人間との関係性が変わることはなかった。


 ▲


小さなある村での出来事、作物もほとんど育たず、貧しい暮らしをしていたある村。

そこに農業で暮らしていた4人の家族がいた。

フリート家と呼ばれる、村では少しだけ裕福な暮らしをしていた家だ。


しかしフリート家はその裕福な生活を持てあますことなく、食料を

貧しい村人に分け与え、日々の生活を送っていた。


赤いドラゴンに目を付けられる、その日までは……。


ドラゴンが、村にやってきた。

そのドラゴンは村を支配し、他の村や街でもしていた娯楽を楽しんだ。


その娯楽とは、生贄だ。

ドラゴンに選ばれた人間に弓をひかせ、その白羽の矢が当たった家の

両親だけを食べるというものだ。


その白羽の矢は、運悪くフリート家の家に当たる。

フリート家は選ばれてしまった。


その夜、すぐにフリート家の両親は村人たちに縛り上げられ

生贄の台の上に立たされる。


赤いドラゴン

「愉快だ……実に愉快だな……この感情。

 幼い二人の子のことを案じ、無念と恐怖におびえながら

 我に命を絶たれるその感情……」


言葉を発したドラゴンが、その二人の両親をニタニタと笑いながら

一口で丸のみした。


ごくり、という音が聞こえる。

そこへ、一人の少年がドラゴンの目にむかって刃物を突き立て突き刺そうとした。


しかし、その一撃は まぶたを閉じる というただそれだけの動作で受け流され

刃物も折れてしまう。


ジーク

「父さんを、母さんを返せっ!!」


叫んだ少年、ジーク・フリートは村人たちに取り押さえられる。


ジーク

「みんなも何でこんなヤツの言いなりになるんだよ!

 なんで……!!」


その姿を側で見ていた少女、フローラ・フリート。


フローラ

「……兄さん……お父さん、お母さん……」


真っ赤なそのドラゴンはギリッとジークをにらみつける。


赤いドラゴン

「我らに歯向かおうというその意志、恐怖すらせぬその感情

 覚えておくぞ小僧……。

 名は何という……?」


村人

「こいつはジークフリート。フリート家の長男です」


赤いドラゴン

「そうか、なら我に逆らった罪人として永久に閉じ込めておけ。

 死ぬまでな……。

 小僧、己の無力さを嘆きながら時を過ごし、憎しみと後悔にもがき苦しめ」


巨大な首をそっと持ち上げようとした赤いドラゴンは、ジークのことを報告した

村人にそっと告げる。


赤いドラゴン

「お前はこの村の領主にしてやろう。

 人間をこの村に集め、その両親を贄に、我に捧げよ」


その村人はその日から領主になり、多額の税を取り、贅沢な暮らしを始めた。



キズナ

「ひどい……ひどすぎるよこんなの!!」


ユグドラシル

「これは、貴方の魂に乗り移っているジークフリートの記憶ね」


キズナ

「ジークフリート……」



 ▲


それから数年の月日が流れ、人々はユグドラシルの元に訪れて願った。

救世主の登場を願ったのだ。


その願いは、時空の裂け目を生み。

一人の少女が現れた。


その少女は別の次元から来たという。元々は占い師をしていたそうだ。

その占い師の少女は、人々から巫女と呼ばれ。

ユグドラシルに近づくと、透明な膜を簡単に通り抜け

その大樹と同化した。


そして、ユグドラシルの大樹は緑色の種を実らせ、

その緑色の種は、膜の外へと転がっていった。


それは後に魔石と呼ばれるようになる魔力の塊の石だった。


人々はその石を使って様々なものを作りだした。

しかし最優先で作られたものがあった……。


ユグドラシル

「それが何かわかる?」


キズナ

「……! アーマーギア!」


ユグドラシル

「そう、アーマーギアが最初に開発されることになったの。

 でも、それと同時に作られていたものもあるの」


キズナ

「それは?」



 ▲


ドラゴンと戦うことを決めた人々は、アーマーギアを作り出すために

様々な実験をした。


それと同時に作られていたものがあった。

過去に戻る魔石、オリジン。


ドラゴンの根源を見つけ、現在に伝えるため

魔石、オリジンを作る計画が始まった。


人手のほとんどがアーマーギアを作る計画に割かれたため、

実験に参加したのは12人の科学者。


その科学者たちは、

魔石、人間の命を吸い上げて作り出される魔水晶、そこに黒いドラゴンの破片を使い

オリジンの魔石を作り上げた。


12人の科学者はオリジンの石を使って時間をさかのぼった。

しかし、このオリジンの石は黒いドラゴンの邪悪な闇の力と魔水晶の闇の力が混ざり合い

強い副作用を発生させた。


人間のドラゴン化だ。


12人の科学者は過去に戻り、黒いドラゴンに会う前に

激しい頭痛と共に闇に染まり、記憶と理性を失ってドラゴンと化してしまった。


そして、黒いドラゴンの配下に加わった。



キズナ

「じゃあ、昔の戦争のドラゴンの正体って!!?」


ユグドラシル

「……」


キズナ

「じゃあ、私もドラゴンに?」


ユグドラシル

「貴方の体と心はアカネの体で構成されてる。

 つまり巫女の光の体、そしてオリジンの石は闇。

 その二つが入り混じっているのが貴方なの。

 ドラゴンになってしまう可能性はあるけれど

 そうなると決まった訳ではないわ」


その後は、ドラゴンにアーマーギアで勝利し

そして変身が解除できなくなったジークフリートは用済みになり、幽閉された。


ジークフリートを元の人間の姿に戻すために作り出された

ヴァイスフローラ、名前のとおり妹のフローラが同化者として変身したが

時は既に遅く、ジークフリートはどこに幽閉されたかわからないまま

真実は闇に葬られようとした。


ヴァイスフローラは暴走し、周囲のアーマーギアを破壊または人間に戻して

踏み殺し、怒りに任せて破壊の限りを尽くした。

しかし、ヴァイスフローラは多くのアーマーギアと戦い、疲弊し

その隙に取り押さえられ、ヴァイスフローラは封印をほどこされて眠らされた。


戦争の時に討ちもらしたドラゴンの3体は姿を人に似せて

身を隠しながらみすぼらしく生き、そして人間への報復の機会をうかがった。


そしてドラゴンの3人はノルド共和国に忍び込み、大臣の3人を殺害し

その姿を真似して入れ替わった。


その後、赤い仮面、黄の仮面、青の仮面をつけた三賢者と呼ばれるようになった。


三賢者は魔水晶を使ってまじないを行った。

闇の救世主の出現を。


そこへ現れたのは、モチヅキ・カズオ。

元ブラックドラゴンキングだった。



ユグドラシル

「私が覚えている記憶はここまで」


キズナ

「……こんなことが……ぐっ、頭がっ……」


ユグドラシル

「貴方が知るには膨大すぎる量の記憶、これ以上は精神が持たないでしょう」


何もない真っ白な世界が、さらに白く染まっていく。


 △


ふと気が付くと、私はユグドラシルの大樹の前で意識を取り戻した。


アカネ

「今のは……!」


ノウラ

「ユグドラシルの記憶……」


ヒロト

「こんなことが……」


キズナ

「父さん、母さん……私、わた……し……」


バタッと地面に倒れ込む私は、そのまま意識を失った。




完結編 第4話 ユグドラシルの記憶 完

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