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ユグドラシルストーリー 完結編  作者: 森のうさぎ
3/7

完結編 第3話 深い傷


私の父親、ユカリノ・ヒロトに連れられて


私、ユカリノ・キズナはパトリアの街を歩く。

少し古い石造りの家が多い、やっぱり15年も前だと私の時代とは

だいぶ異なるみたい。


すると、道の向かい側から皮の袋に野菜や果物を入れて楽しそうに

赤い髪のポニーテールの女性が歩いてくる。

その隣には青い髪のとがった耳をした女性もニコニコと微笑みながら寄り添うように歩いていた。


アカネ

「あれ? ヒロ君、こんなところでどうしたの?」


ノウラ

「あらぁ~、ヒロトもしかしてこんな若い子と浮気ぃ?」


ヒロト

「姉さんはともかく、ノウラ……お前なにを」


死んだはずの母さんに会った私は思わず声を上げる。


キズナ

「か、母さん……」


その言葉に周囲の空気が凍り付いたような気がした。


ノウラ

「……は?」


アカネ

「……え?」


ヒロト

「……やれやれ、説明する必要がありそうだな」


 @@@


父さんと母さんの自宅に案内されて、テーブルを囲って椅子に座りながら

父さんがフォローを入れつつ事情を説明した私だったけれど、

母さんと青い髪の女性には、いまいちピンとこないようだった。


ノウラ

「ふむふむ、だいたい事情はわかった。

 つまり、ヒロトが若い子と浮気してそれをごまかしてるわけだね」


ヒロト

「お前は何一つわかってないぞ」


ノウラ

「あ、キズナちゃんだっけ? 自己紹介遅れたね。

 私はノウラ。ノウラ・シャーマン・アイスランドっていうんだ。

 長いからノウラでいいよ」


自己紹介をしたノウラはアカネを片腕のひじでつつきながらニヤニヤしていた。


ノウラ

「こんなかわいい子、いつ産んだの、ねぇ?」


アカネ

「え……えぇ?

 私にも何が何だか……」


キズナ

「本当なんです! 未来からきたのも、世界が滅びたのも!」


ノウラ

「……っていわれてもねぇ。

 話がいきなりすぎて、とてもじゃないけど信じられないよ」


ヒロト

「ノウラ、別にお前に理解してもらおうなんて

 これっぽっちも思ってないさ。

 ただ、俺はこの子のいうことを信じざるを得ない。

 いろいろ不思議な現象を見せてもらったからな」


ノウラ

「へ~、人のことを疑う塊みたいなアンタがよくそんなこというね」


ヒロト

「俺をなんだと思ってるんだ?」


次第にヒートアップしていく父さんとノウラさん。

私の所為で揉めてる……。


キズナ

「その、ごめんなさい」


ノウラさんはテーブルに頬杖ほおづえをつきながら

じっとこちらを見ている。


ノウラ

「謝るんだったら……じゃあ、まず服を脱ぎます」


ヒロト

「お前、地獄に放り込むぞ」


完全に会話が成立していない。

私はきっとそれだけイレギュラーな存在なんだろうと思う。


ヒロト

「古代遺跡の調査に行ったとき、この子に出会ったんだ。

 そこで赤いドラゴンが現れて、ジークフリートが復活した。

 ジークフリートはキズナを乗り手と認めたみたいだ」


アカネ

「ジークフリートって、たしかヴァイスフローラのお兄さんの……」


母さんがそういった瞬間だった、私の体の周りを青い光が包み込む。


ノウラ

「え、ちょっと……なに!?」


キズナ

「……!」


私の琥珀の瞳が光出したとき、ノウラさんと目が合ってしまった。



 ▲


数年前のことだ。


私の父親はあまりいい性格とは言えなかった。

働いては、そのお金を家にほとんどいれず

村の酒場でギャンブルに使っていた。


母親ともお金の問題で上手くいってなかった。


私の名前はノウラ・シャーマン・アイスランド。


ここはエルフの里、ハイランディア。

外界とのかかわりを完全に断った村。


草や木でできた家の自室で、私はその夜、眠っていた。

今日もお父さんはギャンブルで帰ってこないだろう。


そう思っていた時だった、ガサゴソと音がした

そして、扉を開けてそのまま誰かが出て行った音もした。


ノウラ

「……お父さん?」


扉は開いたままで、風に吹かれてガタンと閉まった。


次の日、私は部屋で母さんが死んでいるのを見つけた。

誰かに寝てる間に刃物で刺し殺されていたらしい。


それから、村にとって大事な結界石が盗まれたらしく

長老様がとてもお怒りになっていた。



昨日の夜、お父さんは酒場でギャンブルをして負けて

多額の借金をしたらしい。


お父さんは昨日から帰って着てない。

この状況を見た人たちはみんな私を見て言った。


「エルフの面汚し」


って。


自分の家族の汚名は自分で晴らせって言われて

私はみんなからにらまれて、長老様から槍を渡された。


昔からエルフは弓と槍の練習を義務付けられてるから

扱いには慣れていたけど、これでお父さんを探して

首を革袋に入れて来いっていわれた。


そうしないと、私はお父さんの代わりに処刑されるんだって。

私は村から放り出されて、森の外をさまよった。


しばらく歩いていると、沢山の光が見えた。街だ。


私は槍を片手にその街に入った。

すごく汚い、すごくお酒臭い街。


その街を歩いていると、正面から女の人ふたりの肩に手を回している

男の人が歩いてきた。


……酔っぱらったお父さんだった。


その姿は高そうな毛皮のコートに身を包んで、顔は赤く酔っぱらっている。


お父さんは女の人たちと別れた後、路地裏にふらふらと歩いていった。

私はそのあとを追う。



ノウラ

「……お父さん」


ノウラの父親

「……ノウラ、なのか……お前、どうやってここに!?」


ノウラ

「……結界石を返して」


ノウラの父親

「はっ! あんなもの、もう売り払っちまったよ。

 おかげで楽な生活ができてる、お前ももう村に帰りな!」


ノウラ

「お母さんを、殺したの?」


ノウラの父親

「女なんて腐るほどいるだろ。

 金さえあれば寄ってくるんだよ、女なんてのはな

 お前の代わりなんていくらでも産ませられるんだよ!」


ノウラ

「……男なんて……」


槍を構えた私は、お父さんの首をその先端で跳ね飛ばした。


ノウラ

「男なんて、もう二度と信じない!!」


転がっているお父さんの首を、私は拾うと

革袋に詰めて、村に戻った。



 △


青い光が周囲から消える。

私は、ユカリノ・キズナはノウラさんを抱きしめて

泣いていた。


キズナ

「こんなの……こんなの悲しいよ……。

 どうして、どうしてこんな……」


ノウラ

「……嫌なこと、思い出しちゃった」


無表情のノウラさんは、私の手にそっと触れて

笑顔を作った。


涙目の母さんが一言つぶやく。


アカネ

「……ノウラさん……」


見てはいけないものを見てしまったような

気まずい空気を出している父さん。


ヒロト

「……その、なんだ……すまない」


ノウラ

「やめてよ、ヒロトまで……」


苦笑いしながら手のひらを上下に振るノウラさん。


ノウラ

「キズナちゃんが、超能力があるのはよくわかったよ。

 だけど私の過去を覗き見るのは、今回限りにしてよね」


キズナ

「ごめんなさい」


すると、ノウラはニコニコしながら右手の人差し指をたてて。


ノウラ

「謝るんだったら……まず服を脱ぎます」


ヒロト

「……って、おい!」


ツッコミを入れる父さん。

これはきっと、ノウラさんなりのごまかし方なんだろう。


キズナ

「私、行かなきゃ。ユグドラシルのところに」


ノウラ

「おーい、まだ私には何が何だかさっぱりわからないんだけどー?」


ヒロト

「説明している時間はない。

 俺はこれからキズナと一緒にユグドラシルのところに行く。

 ノウラ、アカネ姉さんに手を出すなよ?」


さっ、と椅子から立ち上がったノウラさんは挙手する。


ノウラ

「待って! 私、気になるんでついていきます!

 まだ未来からきたなんて、信じられないんで!」


アカネ

「あっ、わ……私もついていく」


よくわからないけど母さんもノウラさんも一緒に行くつもりみたい。

私は父さんの方を見ると、父さんは無言でうなずいた。



完結編 第3話 深い傷 完

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