完結編 第1話 オリジンの石
???
「俺は奴らを殺すためだけに生きてきた……
俺は両親をドラゴンに殺された。
心残りは妹のフローラだけだが、今はどうでもいい
この鋼鉄の体さえ動けば、復讐を果たせればそれでいい」
格納庫の中で、その男は研究員に渡された剣を手に取り
地面に横になっている巨大人型兵器アーマーギアに剣をかざすと
その男はアーマーギアに吸い込まれる。
その時、格納庫の壁を破壊して50メートルを超える紫の巨体が姿を現す。
ドラゴン
「人間ども、何をしている……?」
研究員たちは恐れおののき、その場から逃げ出す。
そう、この世界は12体のドラゴンが支配している。
ドラゴン
「ほう、こんな玩具を作って何をするつもりだったんだ?」
紫のドラゴンは10mのアーマーギアを前足で踏みつけて
勝ち誇る。
しかし、白いアーマーギアは瞳を緑色に光らせて起動し
ドラゴンの前足を両腕で握りしめ、グキリッと折る。
紫のドラゴンは悲痛な叫びを上げ、その場から離れる。
研究員
「じ、ジークフリート……」
ドラゴン
「きっ、貴様ぁ!」
炎を吐くドラゴン、その攻撃をもろに受けるジークフリートと呼ばれたアーマーギアは
全身が炎で包まれる。
だが、炎で生まれた白い蒸気の中から無傷でそのアーマーギアは立っていた。
その姿に驚いたドラゴンはジークフリートを食いちぎろうと突撃してくるが
ジークフリートは足元に用意されていた武装の斬竜刀でドラゴンを袈裟に切り裂き
傷をつけた。
血しぶきを上げるドラゴン、そのドラゴンに追撃をかけようとしたジークフリートだったが
ドラゴンは空中に空高く飛び去った、空中なら安全だと思ったのだろう。
再び、ジークフリートは格納庫の地面に用意されていた武装の竜撃砲を手に取り
その大きな筒状の銃口をドラゴンに向ける。
ジークフリート
「……消え失せろ」
竜撃砲の銃口にエネルギーが集まり、そして紫の砲弾が発射される。
その一撃はドラゴンの腹に直撃し、木っ端みじんに体が破裂した。
竜撃砲の銃口をゆっくりと降ろすジークフリートは、朝日に照らされ
研究員たちは歓声を上げていた。
研究員
「人類の……人類の反撃だ!」
それから数十年の時が流れた……。
__ユグドラシルストーリー 完結編__
ここは自由と秩序の国、パトリア。
私が産まれる前はノルド共和国って呼ばれてたっていうのは学校で習った。
そう、私はユカリノ・キズナ。14歳の中学二年生。
部活は剣道部、それも大会で何度も優勝してる。
私に勝てる人は誰もいない。三年生の先輩すらも。
今、国立パトリア中学校からの帰りだ。
同級生
「ゆっかり~ん! 最近新しくできたクレープの店があるんだけどさ
一緒に行かない?」
キズナ
「あー、ごめん! 私、今日は用事があって早く帰らないといけないんだ
また誘ってね!」
同級生の子の誘いを断って、私は自宅へと足を運ぶ
今日は数か月に一度しか帰ってこない、あの人……父さんが帰ってくる日だからだ。
大急ぎで走り、転びそうになるのもためらわずにパトリアの街を駆け抜ける。
息が荒いが、そんなことはどうでもいい。
自宅にたどり着いた私は鍵を開けて家のドアを開け、そして閉める。
キズナ
「ただいまー!」
そこへ赤い髪のポニーテールの女性が出迎えてくれる
母さんだ。名前はユカリノ・アカネ。
アカネ
「おかえり、キズナちゃん。あっ、あわてて帰ってきたでしょー?」
キズナ
「だって今日は父さんが帰ってくるんでしょ?
やっぱりテンションあがっちゃうよ!」
私は興奮せずにはいられない、最後に会ったのはたしか3か月前。
その3か月前に約束したんだ。父さんと私とで試合をするって。
父さんの仕事は、なんでも大陸調査隊らしい。
どんな仕事かというと、パトリアの国からの指示で
世界各地を回って、古代遺跡や未確認の島を調査するのが仕事らしい。
母さんの話によれば、父さんは素手で恐竜を倒したこともあるんだとか。
そんな人と試合できるなんて、ワクワクが止まらない。
部屋に入ると、私は学生服を脱ぎ捨てて私服に着替える。
時間は夕方の5時ぐらい。
白い衣服にオレンジ色のマフラーを巻いて鏡を見る。
ガタンと音を立てて扉が開く音と、閉める音が玄関から聞こえてきた
きっと父さんだ。
急いで玄関の方に走る。
アカネ
「おかえりなさい、ヒロト」
ヒロト
「あぁ、ただいま」
母さんをその優しい両手で抱きしめる父さん。
名前はユカリノ・ヒロト。
年齢はあんまり詳しく聞いたことがないけれど
35歳前後だと思う。
キズナ
「父さん!」
ヒロト
「ただいま、キズナ」
自分でもわかる。
花が咲くような笑顔になる私。
私は父さんが好き、大好きだ。
まだ私がもっと小さかったころから父さんの話をよく母さんから聞かされた。
今の世界があるのは、父さんが世界樹ユグドラシルをめぐる戦いで
奮闘してくれたから、いろんな人たちが戦ってくれたからだって。
キズナ
「父さん! 約束、覚えてる!?」
ヒロト
「……あぁ、もちろんだとも」
アカネ
「キズナちゃん、お父さんは疲れてるんだよ?」
ヒロト
「大丈夫だ、問題はないさ。
キズナ、木刀を持って庭に来なさい」
アカネ
「ヒロ君……」
大喜びで部屋から木刀を二本持っていく。
そして庭に出て、片方を父さんに渡す。
今日こそ、パトリアの剣術大会で優勝しつづけた私の実力を
父さんに見せて、褒めてもらうんだ!
私はそっと木刀を正眼に構え、父さんに向き合う
父さんは木刀をそっとおろし、構えない。
あれ? なんで構えないんだろう。
ヒロト
「いつでもいいぞ、打ち込んで来い」
キズナ
「じゃあ、いくよ……」
どう見ても隙だらけだ。
これじゃあ当ててくれと言わんばかりのノーガード。
太陽は私の後ろ側に来ていて、父さんからは私の攻撃が見えづらいはず。
一撃目は頭を狙うよりも胸を狙うことにした木刀による突き。
……でも、そこに父さんの姿はない。
ヒロト
「……ひとつ」
何が起こったのか一瞬わからなかったけれど、父さんは
いつの間にか私の懐に飛び込み、拳を私の脇腹に寸止めしている。
キズナ
「う、そ……」
驚愕しながらも、二撃目を繰り出す。
懐に飛び込んでいる父さんを木刀の柄で殴ろうとする。
ヒロト
「ふたつ」
私から見てすぐ左側、父さんは人差し指と中指を私の首筋に当てて立っている。
攻撃が完全に見切られてる……。それどころか、父さんは木刀を使ってこない。
キズナ
「……ッ!」
後ろに跳躍し、距離を取る。
ヒロト
「みっつ」
読まれてた!?
気が付いたら後ろを取られ、そこで私を見下ろしている父さん。
振り向きざまに木刀を振る私だったけれど、その一撃もまるで霧を払うように当たらない。
焦りが止まらなかった私は、その一振りで尻もちをついて倒れてしまった。
こんなバカなことがあるなんて……。
ここまで実力の差があるなんて……。
ヒロト
「よっつ」
息が上がっている私に、父さんは木刀を私の頭に突き付けて
ヒロト
「……えいっ」
コツンと当てられた。
キズナ
「あいたっ!」
ヒロト
「俺の勝ちだな」
完全な私の敗北だ。
相手にすらならなかった……。
ヒロト
「立てるか、キズナ?」
手を差し伸べる父さん。
呆然としていた私は、そっとその手を取る。
一瞬見えた、父さんの着ている黒いロングコートの
ポケットからキラキラと光る何かが見えた。
キズナ
「父さん、それなに?」
ヒロト
「ん? あぁ、これか……これは仕事で預かっておいたものだよ」
琥珀色のキラキラした石をヒロトがスッとポケットから出す。
ヒロト
「研究員の話だと、過去に戻ることができるかもしれない大昔の石らしい。
本当かどうかはわからないけどな。
明日、届けることになってる。
キズナ、これはお父さんの大事なお仕事のひとつだから
勝手に持ち出したり盗ったりしないでくれよ?」
キズナ
「そ、そんなことしないよ! ただ、キレイだなって……」
父さんとそんな会話をしていたら、自宅の玄関から母さんの声がした。
アカネ
「二人とも、それぐらいにしたら?」
ヒロト
「あぁ。さぁ、キズナ。帰ってお母さんの晩御飯食べよう?」
キズナ
「う、うん……」
@@@
夜になった。
母さんの作ったご飯を三人で食べながら、私は世界は広いことを知った。
剣術大会で優勝し続けた私が、父さんには一撃も当てられなかった。
相手にさえされなかった。
自信はあったのに、それが簡単に打ち砕かれた。
修行が足りないというより、越えられない壁のような……。
ヒロト
「……ズナ……キズナ」
キズナ
「ふぇ?」
アカネ
「どうしたの、ぼーっとして?」
キズナ
「ううん、何でもないよ……」
私が弱いわけじゃない、父さんが強すぎるんだ……きっと。
前に母さんが言っていた通り、素手で恐竜を倒せるっていうのは
間違いじゃないと思う。
少なくとも私は、恐竜を相手に生身で勝てる気がしない。
やっぱり、父さんはすごいなぁ。
そんなことを考えているときだった。
強い揺れを感じる、テーブルの上にある食器が落ちて割れる。
地震……? それも大揺れだ。
キズナ
「うわっ……!」
ヒロト
「……なんだ!?」
アカネ
「キズナちゃん、大丈夫!?」
床に倒れ込む私、心配する母さん。
父さんは何かを感じ取ったのか、玄関を開けて外へ出た。
私もその姿を追いかけて外に出る。
もう夜の8時、空は暗いはずなのに
紫色に染まって、ヒビが入っている。
そのヒビから沢山の翼の生えた空を飛ぶトカゲが出てくる。
キズナ
「何あれ!? しかもあれって世界樹の方角じゃ……」
ヒロト
「まさか、ユグドラシルに何かあったのか!?」
アカネ
「ヒロ君……!」
ふと周囲を見渡すと、10mほどの巨大な騎士がユグドラシルの方角へと走っていく。
キズナ
「あ、アーマーギア……」
ヒロト
「アカネ、キズナのことを頼む。俺は様子を確かめに……」
そう言いかけたときだった、
3体の赤色、黄色、青色の翼の生えた50mのトカゲが私たちの周囲を取り囲んだ。
翼の風圧で砂が目に入りそうになる。
それを腕でかばう。
赤色のドラゴン
「貴様の持っている、オリジンの石を渡してもらおうか」
黄色いドラゴン
「大人しく渡せば、楽に殺してやるぞ」
キズナ
「ひっ……」
ヒロト
「何が狙いだ?」
青色のドラゴン
「これから死にゆく者に答える意味はない
もっとも、これから世界は我が王のものとなるのだからな」
アカネ
「ユグドラシルを、どうしたの!?」
赤色のドラゴン
「あれはもう存在しない、貴様ら人間はこれから支配されるのだ」
ヒロト
「……」
ドラゴンたちの方を向いたまま、父さんはポケットの中に入っていた琥珀の石を
私に隠れて渡す。
そして小さな声でつぶやいた。
ヒロト
「……キズナ、これを持って念じるんだ。過去に戻りたいと」
キズナ
「えっ!?」
青いドラゴン
「どうあっても渡さないつもりか!」
青いドラゴンが炎を吐く、しかし母さんが腕を掲げると透明な膜がその炎を遮る。
ヒロト
「キズナ! 行け!」
父さんは黄色いドラゴンの足元に滑り込むと、その前足に拳で一撃を入れる。
その一撃でドラゴンはバランスを崩して転倒した。
琥珀の石を受け取った私はただその姿を見ていた。
すごい……さすがは父さ……。
その瞬間だった、赤いドラゴンが父さんを……
父さんを炎で消し炭にした。
アカネ
「ヒロ君っっ!!!!」
キズナ
「父さん!!」
父さんは、赤いドラゴンの炎の中に消えていった。
動揺した母さんは透明な膜のバリアを解いてしまい
青いドラゴンが母さんをくわえると、ゴクリと飲み込んでしまった。
キズナ
「母さん……? 母さんっ!!」
なに、なんなのこの状況……
父さんは死んで、母さんは食べられて……
キズナ
「嘘だ、こんなの嘘だ!」
赤いドラゴン
「次は貴様の……ん?」
ドラゴンたちの動きが止まった。
私が持っている琥珀の石が光っている。
キズナ
「……え?」
瞬間、私はその石から発生したブラックホールに吸い込まれる。
キズナ
「うわあああぁぁ!!」
@@@
頭が割れそうなぐらい痛い
ここはどこだろうか、とても暗くてとても寂しい場所
誰もいない。
壁も天井も紫色の岩で出来ていて、とても寒い。
そうだ、父さんは……母さんは……。
死んだ……そうだ、父さんも母さんもあの翼の生えたトカゲに殺されたんだ。
もう、私に居場所なんてない。行き場なんてない……。
_……キズナ、これを持って念じるんだ。過去に戻りたいと_
父さんはそういってた、それからこの石を……石?
父さんから受け取った石が、手元にない。
どこにやったんだろう……まぁ、いいか。もうそんなものあっても意味がない。
紫の岩と岩の間から、外が見える。
いい景色なんだろうけど、今の私には……。
そう思っていた時、飛空艇がゆっくりと近づいてくる。
とりあえず私は隠れて様子を見る。
紫の岩の陰から、じっとその飛空艇を見つめていると
中から数人の白衣を着た人間と、黒い髪に緑色の衣装を着た男性が降りてきて……。
あ、あれは……!?
キズナ
「と、父さん!?」
降りてきた父さんは白衣の男性たちの前を歩いている。
ヒロト
「古代遺跡調査か、ここには前に一度きたことがある」
キズナ
「父さん!」
思わず、父さんの前に飛び出す私。
ヒロト
「誰だっ!」
キズナ
「え……? 父さん、私だよ。キズナ!
生きてたんだね……!」
ヒロト
「……? いったい何を言っている?」
キズナ
「私がわからないの?」
ヒロト
「ああ、まったくわからん……お前は、
この古代遺跡の番人……にしてはあまりにも若いな」
会話がかみ合わない、どうなってるの?
それに私の知ってる父さんよりも少し若い気がする。
過去に……戻る……?
あの時、父さんが言っていた言葉を思い出す。
まさか本当に過去に……。
そんな考えが頭によぎっていた矢先、空が急に暗くなる。
太陽の光をさえぎって、あの赤いドラゴンが降りてくる。
ヒロト
「あれは、ドラゴン!?」
研究員の人たちはそっと岩陰に隠れて、父さんは剣を構える。
キズナ
「あ、あいつは……っ!!」
胸が張り裂けそうなぐらいに、怒りと憎しみを感じる。
ドクンドクンと、心臓が跳ね上がる。
その時、この古代遺跡の奥の方から、何かが動き始めているのも感じる。
不思議な感覚。まるで見えないものが見えているような。
赤いドラゴン
「同胞の気配を感じたのだが……なんだ、人間か……」
キズナ
「お前は……父さんを殺した……っ!」
地響きがする。
飛空艇はその場から離れて、ドラゴンは着地してこちらに近づいてくる。
すると、私の後ろの方の扉の奥から鎖を引きちぎるような音が聞こえて
20メートルほどある扉を破壊して巨大な人型の影がドラゴンに殴り掛かった。
ヒロト
「!?」
拳で殴られたドラゴンは、よろけて後方に下がる。
赤いドラゴンは体勢を立て直すために一度空に飛びあがる。
そしてその巨大な人型の影は私の前にひざまずき、胸のコア部分から剣が落ちてきた。
その白と赤の剣は地面に突き刺さり、私の目の前にくる。
キズナ
「……私に、乗れっていうの……?」
研究員
「あれは、アーマーギア……ジークフリート!?」
ジークフリートと呼ばれた10メートルほどのアーマーギアは
じっと私を見つめて、剣を抜くのを待っている。
赤いドラゴンは体制を立て直したのか、再びこちらへ向かってこようとしている。
私はもう引き返せない。
ここがどこだかわからないけれど、二度も父さんを殺させるわけにはいかない。
守る……必ず。
白と赤の剣を引き抜いて、高く掲げて名前を叫ぶ。
キズナ
「ジークフリート!」
その瞬間、私の体は剣に吸い込まれて、その剣はジークフリートの胸のコアの中に
入り込んだ。
ジークフリートの瞳が緑色に光り輝く。
壊れた大きな扉の奥から鎖に拘束されていた武装の封印が次々に解け、
その武装がジークフリートのところに飛んできて
それらが背中や腕に装着される。
大剣、大砲、三重に折り重なった盾。
赤いドラゴンがこちらに向かってくる瞬間、私は……ジークフリートは
大剣でその顔を傷つけた。
完全に両断するつもりだったが、もう少しのところでドラゴンはその一撃をかすめたようだった。
文字通り、尻尾を巻いて逃げ出すドラゴンだったが、私はそれを追いかけ
大剣を腰に収納し、背中に取り付けている大砲をドラゴンに向け放った。
一撃、また一撃と魔法の玉が発射される。
飛び去りながら弾丸を避けるドラゴン。
その一撃の流れ弾で、小さな山が一つ消し飛んだ。
赤いドラゴン
「よもや貴様がいるとはな……ジークフリート……」
そういって赤いドラゴンはその場から逃げ去っていった。
ヒロト
「あれは……いったい……」
父さんのいるところへ近づいた私は
ジークフリートの変身が解けて、人の姿に戻る。
手に握られているのは、白と赤の剣。
キズナ
「父さ…………」
そう言いかけて、父さんの腕に抱き留められ、私は意識を失った。
ヒロト
「お、おい!」
完結編 第1話 オリジンの石 完
前作、ユグドラシルストーリーをご覧くださった皆さん。
再びお逢いしましたね!
続きを読んでいただき、本当にありがとうございます。
完結編は全7話で構成されています。
読んでいただけると幸いです。